若者目線の観光素材発掘プロジェクトに密着、東北復興に向けた旅行商品は生まれるか? 【画像】

農林中央金庫(JAバンク)、ABC Cooking Studio、リクルートライフスタイル、農協観光の4社は今年2月、包括的パートナーシップ協定を締結。地方交流人口の増加による地域活性化と日本食の魅力発信による輸出拡大を目指す取り組みを共同で進めている。

その一貫として今年10月に実施された大学生によるフィールドワーク「東北復興プロジェクト」に密着した。宮城県気仙沼市、南三陸町、登米市で体験したグリーンツーリズムやブルーツーリズムから、若い発想でどのような旅行商品が生まれるのか。

12名の大学生が参加、初のフィールドワーク

東日本大震災から5年。被災地の復興はまだ道半ばだ。再開を果たした漁港や加工工場も多いが、防潮堤の建設や地域再開発は続いており、道を行き交うダンプの数も依然として多い。今回のフィールドワークの目的は、若者視点による被災地の観光素材の発掘と商品化。若者を被災地に呼び込み、復興と地域活性化の一助につなげようという試みだ。パートナー4社による共同事業では、インバウンド向けのモニターツアーは実施してきたが、学生によるフィールドワークはこれがはじめてになる。

参加したのは東京から9名、大阪から3名の合計12名の大学生/大学院生。観光を専門に学んでいる学生はおらず、学年も学部もさまざまで、すでに就職が内定している4年生も参加するなど、それぞれ異なるバックグラウンドを持った学生が集まった。

気仙沼岩井崎の「龍の松」。この地域も津波で大きな被害を受けたが、1本の松が龍の姿で生き残ったまだまだ復興半ば。防潮堤の建設現場を視察

復興に向けた気仙沼ブルーツーリズムの潜在性

水産資源が豊富な気仙沼市では海にまつわるブルーツーリズムに力を入れており、地元の素材を活かした観光開発を進めている。ブルーツーリズムの先駆けと言われる大島でのマリンアクティビティーのほか、体験型観光として、牡蠣の養殖棚見学、地引網、いか塩辛づくり体験、塩作り体験などを提案。その体験とともに、豊富な海の幸をスローフードとして売り出そうとしている。

そのうち、フィールドワークでは、気仙沼市魚市場、シャークミュージアム、水産加工の足利本店を視察したほか、岩井崎では塩作りを体験した。足利本店ではフカヒレなどの加工プロセスを見学。水産業の復興には、第1次産業の漁港だけでなく市場や加工工場など第2次産業の復活も必須であることを実感したようだ。また、見学後には、地元特産のメカジキを使ったBBQも試食し、6次産業への可能性にも触れた。塩作り体験では各自、岩井崎周辺の海水をかき混ぜながら煮詰め、塩を抽出。「マイソルト」として持ち帰った。


再建された足利本店で水産加工を見学岩井崎の塩づくり体験。「一人500円は安すぎる」との声も

気仙沼観光コンベンション協会・誘致推進課長の熊谷俊輔氏は学生を前に「地域のものを活用してオンリーワンの観光を目指す」と気仙沼の取り組みを説明。しかし、「協力者がまだ少なく、また安全上の課題もあることから、プルーツーリズムは難しい」と本音も漏らす。現在のところは、ターゲットを仙台や一ノ関など周辺の都市に絞り、個人旅行(FIT)を中心に訴求を強化しているという。

このほか、熊谷氏はインバウンド市場の現状について、「仙台までは台湾などから多くの旅行者が訪れるが、気仙沼までまだ足が伸びてこない」と説明した。現在、気仙沼を訪れる訪日外国人は月40人程度、年間では500人程度だという。「まずは日本人の観光客を呼び込んで基礎を固めるのが先」と学生に話し、ブルーツーリズム商品化のアイデア創出を促した。

グリーンツーリズムと労働力確保のマッチングは可能か

一方、グリーンツーリズムでは、JAみやぎ登米の協力のもと東和地区の畑でゴボウと里芋の収穫を体験した。生産者の手ほどきを受け、鍬やスコップで掘り出す。学生はみんな農業初体験。農作業というよりも遊び感覚での収穫だが、「少しでも農業に関心を持ってもらえれば」とJAみやぎ登米東和支店長の伊藤良晴氏は話す。

東和地区でも高齢化が進み、後継者も不足しているという。その現状のなか、伊藤氏は「グリーンツーリズムでの究極の目的は、収穫期での若い労働力の確保にある」と明かす。それを地元の農家民宿と組みあせて観光として売り出していきたい考えだ。これまでは、学校や農協観光からの提案を待つ状況だったが、今年度からは都市との交流も進めていく方針だという。「20人ほど、親子であれば40人ほどの受け入れが現実的。参加者のなかにはリピーターになる人も多い」と今後の展開に期待をかける。

学生は各自収穫したゴボウと里芋を持ち帰った。収穫だけでなく、実際にそれを食してみてはじめてグリーンツーリズム体験として成り立つのだろう。JAの「大人」の戦略とは別次元での「若い」発想に期待がかかるところだ。

また、震災復興の観点からは、語り部や被災した南三陸ホテル観洋の女将から当時の話を聞いたほか、南三陸町復興商店街「さんさん商店街」を訪問した。観光による復興が提唱されて久しいが、宮城県を訪れる宿泊客は震災前の水準を依然として下回っているのが現実だ。観光を持続可能な産業にしていくためには、リピーターを育てることが不可欠。学生によるフィールドワークを企画した意図はここにもある。

土にまみれてゴボウを収穫。「深い!」と驚きの声南三陸町の復興の象徴でもある「さんさん商店街」。観光客も多く訪れる

12月に成果発表、優秀商品は『じゃらんnet』で販売も

フィールドワークでは、商品企画に向けてアイデアをまとめる学習も行われ、学生からはさまざまな視点から意見が出た。たとえば、SNSでの拡散を狙って、フォトジェニックな場所を意図的に作る。語り部の話と震災復興のVRを組みわせる。語り部と被災地を巡る。岩井崎での塩作りではカップル向けの企画。魚市場でセリの疑似体験。プロのカメラマンと被災地の撮影ツアー。地元企業へのプチインターシップ。こうしたアイデアをブラッシュアップして、事業性にとらわれない自由な発想を、今後商品に落とし込んでいく。

参加学生は3つのグループに分かれて、それぞれ商品を造成し、あわせて観光訴求につながるプロモーション動画や写真も作成。12月初旬に成果発表を行う。優秀プランは、『じゃらんnet』のアクティビティ予約サービス「遊び・体験予約」で販売する予定のほか、動画や写真については優秀作品を南三陸町や気仙沼市の観光協会のホームページで紹介する計画だ。

まとめ学習でアイデア出し収穫は学生たちにとって貴重な体験になったようだ

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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