一方、海外からの訪日旅行者数は12.3%増の3200万人の予想。伸び率は低下したとはいえ2ケタ%増を維持し、いよいよ日本国内で旅行する人の約1割が訪日外国人になるとの見通し。2018年もインバウンドの勢いが、市場を活気づかせる原動力となりそうだ。
2018年の旅行・観光マーケットでは何が起こるのか。JTBの発表資料をもとに、年間予定やトレンド予測などをまとめてみた。
遂に民泊が解禁、宿泊の選択肢が多彩に
2018年の旅行市場に訪れる大きな変化といえば、6月の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行だ。JTB総合研究所の調査によると、台湾人訪日客の19%、韓国人訪日客13.9%が民泊利用経験ありと回答し、既に訪日客の民泊利用は広がっている。国内外の民泊仲介サイトと販売力のあるOTA、メタサーチ間の連携も進んでおり、解禁後は訪日客を中心に宿泊の選択肢のひとつとして一気に浸透していきそうだ。
民泊を筆頭に、宿泊施設の多様化も進む。例えば2018年に開業する宿泊施設では、「イラフSUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」などのハイグレードホテルから、ミレニアル世代をターゲットにしたアジア発ブランドの「ハイアットセントリック銀座 東京」まで、大手ホテルチェーンの新規開業も多彩に。
加えて、豪華カプセルホテルやデザインやライフスタイルに凝ったホステル、ゲストハウスなどのホテルと異なる宿泊施設も増えている。JTBレポートによると、簡易宿所の数は2014年の2万6349軒から2016年には2万9559軒に増加している。
こうした新タイプの宿泊施設には、異業種からの参入組も多い。古民家や歴史的建造物を活用した付加価値の高い宿泊施設も例外ではない。例えば、2018年春には下着メーカーのワコールが京町家を改装した宿泊施設「京の温処(おんどころ)」をオープン。出版取次の日本出版販売(日販)は保養所を改装し、箱根にブックホテル「箱根本箱」の開業を予定する。宿泊施設の多様化は旅行者の滞在の仕方や選択肢を広げると同時に、業者間の競争激化を物語っている。
訪日客のサポートでテクノロジー活用も浸透
多様化は宿泊シーンだけではない。AI(人工知能)やVR(ヴァーチャルリアリティ)など、テクノロジーを活用した新サービスの普及も、タビナカを中心に加速しそうだ。すでに浅草で対話型AIを利用した観光案内や、成田空港で多言語対応AIチャット対応などが開始。観光庁はVRやARを活用した観光体験創出の促進、経済産業省はICTを活用したおもてなし創出など、行政も取り組みを推進している。
こうしたテクノロジー活用のサービスは、特に、訪日旅行から普及が進んでいる。訪日客のタビナカの不便や不満を解消するサービスをビジネスとする動きが活発化しており、そのなかにはICTやアプリを利用した通訳サービス、多言語対応などがある。免税制度の改正でさらに盛り上がりが期待できる訪日客のショッピングでも、免税申請の9割を訪日客自身で行なえるシステムも登場した。BtoC事業者への導入が進むことで、日本人の利用も進んでいくだろう。
このほか、タビナカの不便・不満の解消を目的としたサービスでは、訪日客のニーズの高かったナイトライフを楽しめるコンテンツ開発も始まった。また、交通拠点などからスーツケースなどを宿に届ける配達サービスも整備が進んでいる。現地到着後はすぐに荷物を預け、スマホ一つで手ぶら観光に出かけるなど、身軽な観光が主流になっていきそうだ。
すでに宿泊でも初日だけを予約し、その後は滞在中に情報を収集して予約をする動きもあるという。タビナカを快適にするサービスの充実により、旅行行動に大きな変化が訪れる年になりそうだ。
国内の注目の地域は九州、瀬戸内
2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん(せごどん)」の主な舞台は鹿児島。同じくNHK大河ドラマ「篤姫」で鹿児島が注目された2008年、鹿児島県への観光客数は日帰り・宿泊をあわせ前年比4.8%増の5206.1万人となった。今年は明治維新150周年の年でもあり、佐賀では「肥前佐賀藩幕末維新博覧会」、鹿児島でも「かごしま明治維新博」など、ゆかりの地でイベントが予定されており、九州の人気が高まりそうだ。
また、今年が開通30周年となる瀬戸大橋で、各種イベントが予定されている。本州四国連絡橋の1本目である瀬戸大橋は、瀬戸内地域の交流拡大の先導役でもあった。昨今の瀬戸内では、瀬戸内海を周遊する小型クルーズ「gantu(ガンツウ)」の運航や「しまなみ海道」のサイクリングルート整備など、新たな観光コンテンツが拡充しており、多くの観光客が訪れている。
日本各地で地域の観光地経営を行なうDMOの体制整備が促進される中、同地域の「せとうちDMO」はいち早く組織化し、観光振興を進めてきた。その取り組みは多くの地域から注目されており、今後の展開も期待される。
観光列車、クルーズ、旅行の仕方がより多様化
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」以降、人気の陰りが見えない観光列車は今年も注目の存在。また、自転車を乗せて列車で移動しながら降車駅でサイクリング体験を楽しむことができるサイクルトレインの登場など、鉄道の旅はさらに広がりを見せている。
また、市場が定着した外航客船による日本発着クルーズは今年、MSCクルーズやノルウェージャンクルーズラインなど、運航するクルーズ会社が増加。日本で主流だったシニア層以外の利用客も増加傾向にある。今後は日本発着クルーズによる市場拡大で、フライ&クルーズのさらなる増加も期待できそうだ。
海外旅行を押し上げる航空ネットワーク拡充とスポーツイベント
日本人の海外旅行で注目は、日本に就航する国際線の路線網の増強傾向。昨今は訪日需要の高い地域へのLCC就航が目立っていたが、今年は6月2日にエア・カナダが成田/モントリオール線に就航するほか、フィジー・エアウェイズが7月に成田線を復便。エールフランスは夏期スケジュールで日本路線を現在の週35便から週40便に増加するなど、LCC以外の航空会社も新規就航や便数を増やしている。
また、海外旅行でJTBレポートが注目するのは、海外でのスポーツイベント。2月~3月の韓国平昌オリンピックをはじめ、6月にはサッカーW杯ロシア大会、7月には米サンフランシスコでラグビーワールドカップ・セブンスが開催される。
これ以外にも、二刀流で注目される野球の大谷翔平選手が米ロサンゼルス拠点の大リーグへの入団することが決定。日本での報道増加による同地域への注目の高まりが期待される。
年の初め、こうした年間の見通しを旅行・観光ビジネスの一助としてほしい。以下は2018年の旅行・観光に関わる予定の一覧。
【2018年 旅行・観光に関わる予定一覧】
- 2018年の連休
- ゴールデンウィーク:2018年に大型連休が見込めるのはゴールデンウィークだけ。5月1日と2日を休めば、4月29日~5月6日まで9連休
- 夏期休暇:夏期は長期休暇がとりにくい。8月の祝日・山の日は土曜日と重なった。9月は敬老の日と秋分の日を含む3連休が2回生じる。9月のレイトサマー需要が予想される
- 3連休の回数:2017年と同じ6回(ゴールデンウィークと年末年始を除く週末の3連休)
- 参考:中国の大型連休の春節は2月15日~21日、国慶節は10月1日~14日の見込み
- 周年記念
- 大山(だいせん)開山1300年、明治維新150年、北海道命名150年、東京タワー開業60周年、「東京ディズニーリゾート」開業35周年、瀬戸大橋開通30周年
- 年間予定
- 1月7日(日):NHK大河ドラマ 「西郷どん(せごどん)」放送開始
- 1月18日(木):良品計画の「MUJI」初ホテルが中国・深センに開業
- 1月26日(金):世界最大規模の対戦格闘ゲーム大会「EVO Japan 2018」日本で初開催(~28日)
- 2月9日(金):第23回オリンピック冬季競技大会(2018 平昌)開催(韓国/平昌)(~25日)
- 2月9日(金):渋谷パルコパート2跡地に「hotel koe tokyo」開業
- 2月24日(土):「越後妻有2018 冬-SNOWART(スノワート)開催(新潟県十日町市・津南町)(~3月11日)
- 3月9日(金):第12回冬季パラリンピック競技大会開催(韓国/平昌)(~18日)
- 3月24日(土):奈良市の平城宮跡に観光施設「朱雀門ひろば」開業
- 4月15日(日):「東京ディズニーリゾート」35周年イベント開始
- 4月28日(土):「レゴランド・ジャパン・ホテル」開業
- 4月内:ワコールの宿泊施設「京の温所」開業
- 4月内:インドネシア・バリ島に「ホテル・ニッコー・バリ(仮称)」開業予定
- 6月8日(金):カナダ・ケベック州で主要国首脳会議(G7サミット)開催
- 6月14日(木):サッカー・ワールドカップ・ロシア大会開催(~7月15日)
- 6月15日(金):住宅宿泊事業法(民泊新法)施行 民泊が全国で解禁
- 7月20日(金)アメリカ・サンフランシスコで「ラグビー・ワールドカップ・セブンズ2018(7人制ラグビー)」大会開催(~22 日)
- 7月29日(日):「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」開催(新潟県十日町市・津南町)(~9月17日)
- 9月29日(土):第73回福井国体開催(~10月9日)
- その他2018年中
- 春:日販(日本出版販売)がブックホテル「箱根本箱」開業
- 夏:中部国際空港隣接地に複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」開業
- 夏:「ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄」開業予定
- 秋:渋谷の東横線跡地に「渋谷ストリーム」開業
- 2018年中:沖縄にマリオットが「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」開業