今年上半期で訪日外国人旅行者数1500万人が突破、過去最高の3000万人も目前となった2018年。相次いだ自然災害によって訪日客は減少したものの、日本政府は2016年に訪日外国人旅行者数が2404万人、消費額が3.7兆円だった同市場を、2020年には4000万人・8兆円、2030年に6000万人・15兆円まで拡大することを目標に掲げている。
2018年9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン フォーラム2018」のラグジュアリー・トラベル・マーケット・シンポジウムでは、訪日外国人旅行者の消費拡大と見据え「ラグジュアリー・トラベルの訪日促進に向けて」をテーマに、JNTO柏木隆久理事の基調講演を実施。それに続き行われたパネルディスカッションとあわせてレポートする。
登壇者は、クリル・ブリヴェ創業者&CEO高野雅臣氏、せとうち観光推進機構外部人材アドバイザーでIntheory代表取締役の村木智裕氏、グランドハイアット東京チーフコンシェルジュ、レ・クレドールジャパンバイスプレジデント今泉愛子氏ら有識者だ。
富裕層は「トレンドセッター」。マインドセットと消費性向から4つにカテゴライズ ―JNTO柏木理事
冒頭の基調講演で柏木氏は、富裕層旅行市場の最新動向と誘客促進に向けた取り組みについて紹介。「単に大勢来ていてもらうのではなく、楽しんで、消費してもらい、観光産業を基幹産業にしていくのが目標」とし、「富裕旅行は、より付加価値の高いものを用意して消費額を押し上げる以外に、新しい価値観やデスティネーションの新たな魅力を生む。富裕層はトレンドセッターの役割もある」と富裕層に注力する理由を説明。日本では「着地で100万円消費」を富裕層と定義づけした。
米・英・仏・独・豪5カ国の富裕旅行の市場規模は6兆円にのぼるが、そのうち日本で消費されているのは830億円。人数・消費額とも、同じアジアのタイの方が多いことから、今後タイをベンチマークとしていくといい、富裕層の傾向を志向(マインドセット)と消費性向から分析。50〜60代を中心とした従来型の高い快適性などを求める「クラシックラグジュアリー」と、20〜30代のミレニアルズが中心になって一生に一度の体験や本物体験を重視する「モダンラグジュアリー」、すべての費目で高額消費をおこなう「オールラグジュアリー」、優先度の高い事項に重点的に投資する「セレクティブラグジュアリー」があることに着目し、今後は新しいラグジュアリー層も取り込むべく、プロモーション活動していく方向性を明示した。
ラグジュアリー旅行のタイプは国や人によって全く異なる ―クリル・ブリヴェCEO高野氏
続くパネルディスカッションでは、富裕旅行の有識者たちが経験に基づいた見地を披露した。
米国ラグジュアリー旅行専門の最大ネットワーク組織体「Virtuoso(バーチュオーソ)」の日本唯一の会員であるクリル・ブリヴェ高野CEOは、国や人、属性によっての傾向を具体例とともに紹介。「4パターンのラグジュアリー旅行のタイプは、国が同じでもお客様によって全く異なる。たとえば、アラブ人はクラシックのオールラグジュアリーが多いが、欧米でMBAを取っている人はセレクティブ。欧州は、かなりコストがかかっても、お寺の貸切など本物を体験することにはお金を惜しまない一方で、誰でも体験できるものに対しては非常にシビア」と話した。そのためには徹底したヒアリングで相手を知ることと、彼らの需要に応えるために絶えず情報収集を行い、急なお願いでも電話一本で受け入れてくれる地域のプレイヤーやキーマンと強いネットワークを構築することが必要だとした。
課題は「言語・交通・食」。満足度があがればクチコミで広がる ―グランドハイアット東京チーフコンシェルジュ 今泉氏
世界最高峰のコンシェルジュ組織「レ・クレドール」の正式会員であるグランドハイアット東京チーフコンシェルジュの今泉氏は、外国人旅行者が日本で不安を感じるのは「言語」「交通」「食」であることに言及。「特定のホテルや施設では英語が通じるが、地方に出た時に日本語以外の言葉がどれくらい通じるか不安に思っている人が多い。
また、地方はハイヤーがないため、改札を降りたあとの難易度が高く、時間貸しできるタクシーの手配にも苦労する」と現場ならではの課題を指摘した。
最近は食材対応についても要望が高くなっているといい、「アレルギーや宗教上の問題、ベジタリアンでも何が食べられないベジタリアンなのか、ビーガンなのか、グルテンフリーでどこまで食事ができるかということを問われる」とし、「ホテルでおもてなしをして、よいサービスをするのは当然のこと。日本のファンになった方は、家族や友人に写真を見せて、楽しかった旅の思い出を語る。実際にクチコミで来日する人が多い」と日本での滞在の満足度を上げることの重要性を説いた。
地方こそ可能性がある。そのために必要なカスタマージャーニーマップを描く ―せとうち観光推進機構 村木氏
せとうち観光推進機構の村木氏は、ディスティネーションマーケティングの先駆者としてDMOの立場から富裕層へのアプローチについて教示。「東京オリンピックに向けて日本の認知が飛躍的に高まっており、新しいルートを開拓しなくても日本が売れる状況になっている。しかし、東京~大阪間のいわゆるゴールデンルート以外で何かないかと探しているのが富裕層。地方こそラグジュアリーマーケットの可能性がある」と目の前に来ているチャンスを示唆した。
その上で「富裕層の趣味嗜好、関心事を探ることはもちろんのこと、その人たちが魅力的なものを何で知り、何を理由に旅先として決めるのか、その行動を決める要因が何なのか探ることが大事。消費者がどういうルートをたどって最終的に旅先を訪れるのか、カスタマージャーニーマップを描くこと。このルートを見つけられない限り、いくらその地域にいいものがあって、相手の関心事がわかったとしても、最終的に来てもらえない」と、導線の必要性を訴えた。
また、「お客様の満足度を上げるためには、点をしっかりつくって、それを面にしていかなければならない。そのために誕生したのが全国のDMOだが、優れた魅力的な商品ができていくためにも、民間企業の巻き込みが必要。富裕層の取り込みがそれぞれのビジネスや地域の活力につながるものとして、積極的に取りに行く機運を高めていくことが重要だ」とした。