財政支援停止でDMOが消滅の危機に、米国の観光財源から税制度とその運用のあり方を整理してみた【コラム】

こんにちは。DMOコンサルタントの丸山芳子です。

2018年夏、米国のDMO最大の業界団体であるディスティネーション・インターナショナル(DI)の年次総会に出席した際の話題をまとめている本コラム。DIの期間中飛び込んできたのは、なんと某DMOが消滅するかも、というニュースでした。原因は行政からの財政支出がストップしたことのよう。一体、どういうことでしょうか。

今回は、米国DMOの財源・運営・税制度についてレポートします。

市議会がDMOへの財政支出の中止を決定

DMO消滅の危機に瀕したのは、カリフォルニア州サンタクララのDMO、ビジット・サンタクララです。サンタクララは、サンフランシスコの南東約70kmに位置するシリコンバレーに該当するエリア。インテルの本社もある都市です。

ここで何が起こったのか。2018年6月26日、サンタクララ市議会は、毎年ビジット・サンタクララに拠出していた150万ドル(約1億6500万円)の財政支出を新年度は実施しないと決定しました。これにより、ビジット・サンタクララは今後活動できなくなったのです。

市議会がこのような決定をしたのは、ビジット・サンタクララの資金の使い方が不透明で、説明責任を果たしていないことが理由。DMOが管理するコンベンションセンターを、格安で有力者に貸し出すといった便宜を図り、使用のたびに赤字が広がる状態だったようです。

その後、市議会は昨年10月に新しくコンベンションセンターとDMOを運営する事業者を公募し、2社が応札して、2019年2月5日に事業者が決定しました。新しい事業者は、コンベンションセンターの運営などに実績がある民間企業ですが、市からの要請により役職がなかった14人のビジット・サンタクララの既存のスタッフの雇用はできる限り維持される方針とのことです。

サンタクララDMOへの財政支出停止により、事業継続ができなくなったことを報道する業界新聞

米国DMOの財源や運営の実態は?

市が第三者機関に監査を依頼した結果、従来のDMOの放漫経営が次々に明るみにでました。7割の経費支出が内部規定に則っておらず、領収書などがない使途不明金が30万8000ドル(約3400万円)あったことが判明したのです。

ただ、このニュースについて、日本の感覚では、いくつか疑問がでてきます。市議会からの予算凍結で活動停止というけれど、そもそも米国のDMOの財源は独立して確保できているのではないでしょうか。また、別の組織を市議会が探すといっても、DMOは誰にでも作れるものなのでしょうか。

DMOの財源は、実際には米国でも税金に負うことが少なくありません。とお伝えすると、米国では宿泊税が一般的なのではないのか、一般財源から拠出することはないのではないか、という疑問がさらに寄せられそうです。

はい。宿泊税はかなり普及しています。しかしながら、一般的に宿泊税は純粋な観光目的税ではなく、一般財源に組み入れられるのがポイント。この点では、日本の入湯税と位置づけはあまり変わらない部分があると思います。米国の場合は、宿泊税として徴収したうち、どの程度をDMOに拠出するかは、州や都市ごとに異なります。宿泊税に相応する額の100%を充ててもらえるDMOもあれば、宿泊税の半分というところもあります。

米国でも、財源確保、予算配分は自治体の重要事項。宿泊税全部を観光に使う必要がないと判断されれば、他の目的に使われます。DMOへの拠出割合や支出額は、一般財源に関することとして、首長や議会によって毎年の議会で決定、承認されます。つまり、今回のサンタクララの例は、市議会がビジット・サンタクララへの支出を承認しなかったために騒ぎになったのです。

会費、事業など税金以外の収入があるDMOも

米国のDMOでは、宿泊税以外の財源もあります。たとえば、会費を徴収しているところ。会員企業の種類は日本とほぼ同様です。

事業を実施するDMOもあります。2017年に現地調査をしたテキサス州グレープバインのDMOは、観光蒸気機関車の運営をしています。土日、ホリデーシーズンのみの稼働ですが、クリスマス前の2カ月間でチケットが4万枚も売れるほどの人気だそう。グレープバインのDMOは、他にも年間2回の大規模イベントも実施し、ブース出展料などを収入源にしています。

観光案内所でのグッズ販売を手がけるところもあります。ただし、他の土産屋の事業を圧迫しないよう、完全にオリジナル商品にするといった気配りが必要とのこと。

一方、コンベンションセンターや駐車場運営の委託費用という場合も。施設は州や市などが保有し、運営をDMOに委託するというものです。実は、今回危機に瀕したサンタクララでは、市からコンベンションセンターの運営委託も受けており、その金額が近年上昇していたことも問題を大きくした一因だったようです。

その他、イベントやプロモーション企画で募るスポンサー費、飲食税があります。飲食税は、レストランでの支払いに一定金額を上乗せして徴収するもので、米国でも珍しいケースです。宿泊税は、住民ではなく地域外の旅行者が支払うため、導入時の抵抗が大きくありません。一方、飲食税は住民も支払いが求められるため、実現が難しいといわれています。

米国のDMOの財源のパターンは以上でほぼ全て。宿泊税、飲食税を除き、日本のDMOが想定している財源とそれほど変わらないのでしょうか。会費や事業収入については、結局何人もの人件費を賄える金額にはなりません。米国でも行政からの財政支援がなくてはDMOの運営が難しいのが実情です。

DMOが行政への依存を減らし、独自財源を見つけていく必要性は世界的な潮流。その意味では、日本でもDMOによる収益確保を模索する努力を続けていく必要があると思います。

導入が進む「観光産業改善地区制度(TID)」とは?

DMOが扱う観光は、プロモーションや地域への働きかけなど、長期間の対応が必要な事業です。しかし米国ではDMOの予算が毎年、首長や市議会の予算承認を得なければなりません。

予算が全くゼロになるのは極端な例ですが、拠出額を減額するという圧力は珍しくありません。そうなると、行政機関からの支援だけでは財政基盤としてやや弱いことが問題になります。その対応として、米国では、観光産業改善地区制度(TID:Tourism Improvement District)を導入する地域が少しずつ増えています。

TIDは旅行者がホテルなどに宿泊したときに加算されて支払うもの。おや、これは宿泊税と何が違うのか、と思いますね。

TIDとは、恩恵を受ける範囲を特定して支払を義務化するもので、分担金と位置づけられる一つです。宿泊者に支払の義務があるという点では宿泊税と同じですが、使用目的は支払者がメリットを得られるものに限定される、という仕組みです。これは、日本でイメージされる観光目的税に近い感じだと思います。

もともと、この分担金の仕組みは、都市計画等で適用される事業改善地区制度(BID:Business Improvement District)から発展しました。街の再開発などにあたり、事業のメリットを受ける地域内の人から強制的にお金を集め、それを投資することで地域の価値が高まり、拠出した人にメリットが還元されます。TIDは、それを観光の分野に適応したものです。

TIDの実施は支払いの強制力が伴うため、州、地域の法律を整備する必要があり、米国にはそれを支援する専門のコンサルタントがいます。また、TIDはBIDから発展した経緯から、地域によってTBIDなど異なった名称で呼ばれることもあります。実際のTIDの運用にあたっては、宿泊税と組み合わせることがほとんど。州と市がそれぞれTIDを設定している場合もあります。

たとえばアナハイムの場合、アナハイム市宿泊税が15%、アナハイム市TIDが2%、カリフォルニア州TIDが約0.2%で、合計17.2%です。仮に宿泊費1万円のホテルに宿泊すると、別途宿泊税とTID合計で1720円が徴収されるわけです。

インターネット予約サイトでアナハイムの宿泊施設を検索してみると、これに相応する金額がかかる旨の記載があるでしょう。徴収された金額の支払い先は細かく分かれていることになります。カリフォルニア州のTIDでは、ホテルのほか、一定の規模の観光施設、レストラン、小売店、レンタカー事業者など、観光によって収益が上がる事業者も対象に含まれます。負担割合は業種ごとに異なります。

ちなみに、TIDのコンサルタントによると、米国でTIDを導入しているのは2018年時点で、15州、173地域となっており、その数は徐々に増加しています。

ホテル領収書の内訳に載っているカリフォルニア州TID(Resort Assessment Fee)、アナハイム市宿泊税(Occupancy Tax)、アナハイム市TID(ATID Assessment)

米国のDMOには登録制度はない

さて、ビジット・サンタクララは、市が民間企業に業務を委託して業務を行うことになります。米国でもこれはやや珍しい種類の事例になるかもしれません。

米国では、商工会議所によるDMO運営も珍しくありませんが、放漫経営を行っていた従来の委託先もサンタクララ商工会議所の一部門でした。一方、設立形態として一番多いのは非営利法人による運営です。サンタクララの場合、当初は市が自らの観光担当部署をDMOとすることも想定されていました。米国では、行政機関がDMOを運営するケースも比較的多いのです。

米国では、コンベンションビューローがその機能を発展させてDMOとなっている歴史的経緯があるため、DMOの登録制度はありません。その意味では、DMOは誰でも作れます。ただし、活動のための財政支援などを受けるために、その地域で公的に認められた組織がDMOになるという了解がされています。今回、サンタクララは民間機関がDMOを運営することになりますが、市が要件を定め、財政拠出を行います。その関係は、日本における指定管理者の形式に類似しているといえます。

いかがでしたか。米国のDMOでも財源確保は重要な問題です。そして、税金が投入される組織だからこそ透明性が高い運用を行っています。(サンタクララは違ったようですが)外部から活動がチェックされる高いガバナンスの仕組みについては、日本でもぜひ見習いたいですね。

丸山芳子(まるやま よしこ)

丸山芳子(まるやま よしこ)

ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント、中小企業診断士。UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。DMO業界団体であるDestination International主催のDMO幹部向け資格「CDME(Certified Destination Management Executive)」の取得者。企業勤務時代は、調査・分析、プロモーションなどの分野でも活躍。

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