LINEトラベルjpが先月スタートした「購買完了通知の即時配信サービス」。LINEトラベルjpのアプリ版を経由して対象事業者(旅行予約サイト)の旅行商品を予約購入したユーザーに、LINEトラベルjpからも予約購買が完了をした旨をLINEで即時配信するものだ。LINEトラベルjpによると、購買完了の通知を即時に行なうのは、メタサーチとしては初めてだという。
LINEトラベルjpでは、「即時」のスピード感を、ユーザーが遷移先の予約サイトで購買を完了してから約15秒以内と設定。通知が15秒以内にユーザーに届くことで新たな顧客行動を生み、即時通知を行う旅行予約サイトのコンバージョンレート(予約の成約率)の向上にも繋がったという。タビマエの予約購入で、何が起こったのか。開発の背景からリリースまでの道のり、今後の展望まで、同サイトを共同運営するLINEとベンチャーリパブリックで構成する開発チームに聞いてきた。
予約購入したことをシェアする新たな行動を創出
LINEのO2Oカンパニー カンパニーエグゼクティブCMO・藤原彰二氏は今回のサービス開発について、「ユーザーファーストの目線で取り組んだ」と説明する。
藤原氏によると、「ユーザーのすべての行動をカスタマージャーニーに沿って見て、その一つ一つに課題を出し、あるべき機能をユーザー目線で考えて作る」というのが、LINEのサービス設計の考え方。例えばLINE特有の動きでは、仲間同士などで旅行に行く場合にLINE内にグループが立ち上がり、旅行先やホテルの料金などを相談しあう行動がある。こうした動きに対して提供できる機能を考えるのがサービス開発の基本だという。
また、LINEトラベルjp経由で予約購入したことをすぐに知りたいというニーズもあったとも話す。これについて藤原氏は、「(ユーザーからすれば)どのサイトを経由して検索結果にたどり着き、予約をしたのかすぐにわかりにくい」とし、メタサーチの課題を指摘。「同業種内でまだ誰もしていない」ことも、決断を後押しした。
その結果は冒頭の通り。「コンバージョンレートが8倍になるというのは通常ではありえない数字。(送客先の)掲載企業にも、我々と関係を密にやっていきたいと思っていただけた」と、ユーザーファーストの取り組みで、掲載企業の満足を得た手ごたえを語る。
なぜ、予約購入完了の即時通知を行うことで、コンバージョンレートが飛躍的に上がったのか。そこには、LINEトラベルjpの販促施策であるポイントバックが関係してくる。ポイントバックを期待するユーザーが、確実にLINEトラベルjp経由で予約購入がされたのかを確認したいのは当然のこと。実は、ユーザーから掲載企業に「LINEトラベルjp経由で予約できているかどうか」を聞く問い合わせもあったという。
さらに、即時通知を記念して4月限定で実施した「10人に1人に1000ポイントが当たるキャンペーン」が後押しした。予約購入完了の即時通知で1000ポイントが当たったことが知らされたユーザーが「LINEトラベルjpで旅行予約をした」「1000ポイントが当たった!」と、シェアする文化が生まれたのだ。
「実はカスタマージャーニーで、“予約”はクローズドな文脈。予約購入そのものがシェアされることは少ない」と藤原氏。結果をすぐ伝えることで、ユーザーが「1000ポイント当たった!」とつぶやき、それを見てLINEトラベルjpから購入しようという人が訪れる。「いい循環になった。もし、ポイント還元の通知が1か月後にされた場合、もう旅行を終えていて予約をしたこと自体はシェアされず、新規ユーザーや予約が入るチャンスを逃してしまう」(藤原氏)。
15秒のすごさ
予約購入から通知までの時間を「15秒以内」としたのは、「予約購入後は、各社のサンクスページに遷移するのが多い。そのあとのタイミングで通知が届くようにした。ユーザーは予約購入後、意外と早く次の行動に移る。検索でも2秒で離脱すると言われているので、即時通知は15秒がギリギリ」(藤原氏)というのが理由だ。
しかし、メタサーチによる予約購入完了通知は、一般的ではない。日本でのメタサーチの草分け的存在だったベンチャーリパブリックが行なっていなかったのも、メタサーチが各種旅行サイトの入り口としてのウェブサービスであり、「もともとユーザーに通知するために必要な情報がとれなかった」(ベンチャーリパブリック・トラベル事業部システム開発グループ・植本剛史氏)からだ。
これをクリアできるのは、IDを持つユーザーとログイン状態で繋がっているLINEの強み。とはいえ、業界初の即時配信=15秒を実現するためには、越えねばならないハードルが多かった。例えば、予約が完了したことを即時配信するために必要な情報を得るには掲載企業の協力が必要で、しかもできるだけ早いタイミングで通知をしてもらう必要がある。予約管理は掲載企業のサイトごとに異なるので、そのタイミングは掲載企業の管理体制によっても異なる。
そして、ユーザーが掲載企業で予約購入をしてからLINE公式アカウントによるプッシュ配信で通知するまでを15秒で実現するには、「掲載企業での所要が10秒とすると、LINEトラベルjpでは残り5秒で対応する必要がある。しかし、発信の実作業を除けば、わずか3秒程度で掲載企業の通知をもとにLINEのユーザーIDを検索できるシステム構築が必要」(LINE O2Oカンパニー・ストラテジックテクノロジーチームの石田哲治氏)。ただし、その作り込みでは「掲載企業によってデータ管理や表示の仕方が違うので、それに対応させることも必要」(植本氏)という、さらに細かい問題も出てきたという。
こうした一つひとつの課題をクリアして、サービス開発の決めてから約3か月で業界初のサービスを作り上げた。いまでは、15秒より短く、サプライヤー企業が直接送付する予約購入通知より早い場合もあるという。藤原氏は、「即時ではなく、“15秒”という目標を設けたのがよかった。あとはやっぱり、あきらめなかったこと。ユーザーに必要な機能だから作りたかった」と、やり遂げる意志の強さを強調する。
ユーザー利便の追求がパートナーの利益を生む
LINEトラベルjpが誕生して間もなく1年。ベンチャーリパブリック・トラベル事業部システム開発グループ丸山耕治氏はこれまでの取り組みを振り返り、8000万人の大きな顧客基盤を持つLINEのユーザー目線へのこだわりに、新たな気づきを得る機会も多かったと話す。「以前のサービスが、ユーザーに感動を与えるサービスであったかというと、やや弱かったと思う。売り上げは大切だが、ユーザーが喜ぶサービスが結果的に利益につながる。これを社内にも共有することでだいぶ変わってきた」(丸山氏)。
藤原氏は「メタサーチはBtoBtoCとして双方の要望に応える必要があるが、BtoBの部分では商品が比較されないと掲載企業のことがユーザーに知られない仕組みであることが、弱点だ」と話す。実は参入時、両社で業界内の各企業を回る中で、各企業からは「商品比較をされる前に、各企業の強みや特徴を知られるようにしてほしい」との要望を受けることが多かったという。
「各社の特徴や強みは、業界以外の人にはあまり知られていないことが多い」と、ユーザー目線を語る藤原氏。ポイントバック施策は、これをフックに対象の掲載企業の強みをユーザーに知ってもらうことを目的にしたものでもあるといい、「これに即時配信をすることでさらに使い勝手が良くなる。掲載企業とユーザーに最適なプランを出せたと思う」と自信を見せる。
藤原氏は進むべき道として、「我々はシンプルにユーザーのことしか考えない。使いやすいサイトを作ることしか興味がないし、それが誇り」と話す。そして、今回の仕組みを作ったことで「これを応用した新サービスにも繋げることができる」と、意欲をみせる。
LINEトラベルjpの 1年目では、LINEの強みを活用した新たな旅行行動を起こし、その基盤を構築した。次の1年では、タビマエのアプローチやタビアトのフォローへと一貫性のあるサービスを創出する方針。ゆくゆくは、旅行に行くときだけではなく、日常的に使われるサービスにしていくことが目標だという。