シートリップ傘下「Trip.com」の戦略を副社長に聞いてきた、目標は「旅をワンストップ予約」、重視するのは「スペシャライズ」

オンライン旅行予約サイトTrip.comは、2017年11月に中国のOTAシートリップがアメリカの新興OTAを買収してサービスを開始した。シートリップは、中国ではシートリップ、中国以外ではTrip.comのブランドでビジネスを展開。Trip.comは、中国というローカルからグローバルに進出し、OTAの巨人エクスペディアやブッキング・ドットコムに対抗している。WiT Japan & North Asia 2019に参加するために来日した同社プロダクト&マーケティング担当副社長のリン・クー氏に、同社の戦略について、ローカルとグローバルという視点から聞いてみた。

ローカライズというよりスペシャライズ

Trip.comは現在、日本語を含めて19言語でサイトを運営し、グローバルOTAとしてアジアを主戦場としている。クー氏は各マーケットのプロダクトについて「サプライヤーとのパートナーシップによってインベントリーを整えている」と説明。昨年、日本市場では客室の空売り問題が指摘されたが、疑惑が見つかった販売業者を即刻販売停止するなどの対応をとった。その後は、日本の旅館関係者と協議をすすめ、日本独特な「旅館」販売におけるサイト表示や販売システムなどを改善を行っている。これも現地サプライヤーを重視する姿勢の表れだという。

Trip.comはグローバルOTAながらローカルの視点を大切にしているという。大手グローバルOTAとともに各マーケットのローカルOTAとの競合を意識。「彼らは真にローカライズされている」との認識から、プロダクトもそれぞれのマーケットの特性と関連性の高いコンテンツを揃え、購買行動でも「たとえば、アメリカの旅行者はシンプルなショッピングを好むが、日本人はもっと詳細な情報を求める」などの違いがあるため、予約動線にも気を配るという。クー氏はそのマーケットアプローチを「ローカライズというよりもスペシャライズ(特化)」と表現した。

そのスペシャライズのひとつとして、2018年には東京にカスタマーサポートセンターを開設した。「プロダクトへの疑問に対して現地の言葉で対応する」というTrip.comの方針だが、OTAにとってリアルな仕組みを構築するのは大きな投資だという。東京のほか、中国では複数、ソウル、イギリスのエジンバラにも同様の体制を整えている。

プロダクト&マーケティング担当副社長のリン・クー氏

テクノロジーとヒューマンサービスは補完的な関係

クー氏は「カスタマーサポートはシートリップやTrip.comのDNAになっている」と続ける。その背景には、リアルエージェントの存在があるようだ。「OTAはそもそも消費者とサプライヤーのバイパス的役割だが、旅行では経験という側面が強くなってきている。その点で消費者は単なるオンラインサービスだけでなく、ヒューマンタッチなサービスを求めているのではないか」。OTAは、プロダクト的にも価格的にも幅広い選択肢を提示することが主な役割だが、今では旅行者の個別の経験にも応える必要が出てきている。

テクノロジー会社でもあるTrip.comやシートリップは、ネイティブアプリの開発や向上にも力を入れ、予約・購買行動をサポートするさまざまな機能を追加しているが、クー氏は「テクノロジーとヒューマンサービスは補完的な関係」との考えだ。

その関係性とは、言い換えれば「個人が求める需要とサプライヤーが提供するプロダクトをマッチできるプラットフォームになる」こと。つまりはパーソナライゼーション(個人への最適化)。「たとえば、ヘリコプターは高額商品のためハイエンド旅行者向けだろう。ファミリー向けにはもっと安全なプロダクトが好まれる。カスタマーのライフスタイルに合わせてプロダクトを提案すること」が大切になってくる。

AIなど最新テクノロジーはパーソナライゼーションにとって必要不可欠で、プラットフォームの競争力を高める重要なツールだ。 しかし、それは文字通り道具でしかない。クー氏は、「プラットフォームとして関連性を計算する最適なフィルタリングロジックを持つべきだが、最適な価格や信頼できるプロダクトを検索するカスタマーの視点からすると、プラットフォームにできるだけ多くの価値あるインベントリーを掲載することが大切」と話す。量がなければ、個人にマッチングする商品の選択肢も減るというわけだ。

個人化する旅をワンストップの予約購買へ

Trip.comは現在、航空券、宿泊、レンタカー、鉄道に加えてローカルアクティビティをはじめとするタビナカマーケットも強化している。「体験プロダクトは非常に細分化されているため難しさがある」としつつも、Trip.comの目標は「アプリ上ですべての旅行素材をワンストップで予約・購買できること」と強調した。

ワンストップショッピングを可能にするネイティブアプリの浸透度はマーケットによって異なる。アジアでの利用率は高く、特に中国は非常に高い。一方、日本やヨーロッパはまだそれほど高くないという。

同様に旅行形態もマーケットによって異なる。「若い日本人旅行者の好みは細分化されている。何か触発されるようなものを、学びとなるようなものを求めているようだ」とクー氏。個人旅行化を超えて、さらに旅行の形態や目的が細分化しているマーケットでTrip.comの挑戦は続く。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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