スイス東部ダボスでは2024年1月15日に世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が開幕し、政財界のリーダーが集結、地政学的な緊張から気候変動までさまざまな課題について討議が始まっている。しかし、温暖化問題を議題にのせる一方で、参加者の多くが温室効果ガス排出量の多いプライベートジェット機でダボス入りするのはつじつまが合わないと、環境保護推進派から批判の声が上がっている。
環境保護団体グリーンピースの調査によると、昨年は1週間のダボス会議期間中に現地の空港を発着したプライベートジェットは1040機で、これらの運航に伴う二酸化炭素(CO2)排出量は自動車35万台の排出量に相当。この週のプライベートジェットからの排出量は平均的な週の4倍に跳ね上がった。
しかし、こうした批判を浴びているのはダボス会議だけではない。超富裕層や政治指導者によるプライベートジェットの利用は一般市民の間でますます激しい怒りを買っている。ポップ歌手のテイラー・スウィフトさんはプライベートジェットを多用しているとの批判にさらされ、スナク英首相は最近、短距離の国内移動にプライベートジェットを使い非難を浴びた。
環境に高負荷、プライベートジェットへの批判
欧州の非政府組織「トランスポート・アンド・エンバイロメント(T&E)」によると、プライベートジェットは1時間当たりのCO2排出量が2トンと、欧州連合(EU)域内における1人の平均排出量の数カ月分に相当する。また旅客1人当たりの排出量は商用ジェット機の5倍から14倍、高速鉄道の50倍で、「旅客1人当たりや移動距離1キロメートル当たりで見れば、プライベートジェットは既存の移動手段の中で最も環境汚染がひどい」(グリーンピースのシェンク氏)。
グリーンピースの調査によると、昨年のダボス会議はフライトの半分以上が移動距離750キロ未満で、最短は21キロ。「こうしたフライトの多くは数時間の電車による移動で代替可能だ」という。
航空部門が全世界のCO2排出量に占める比率は約2.8%。比較的小さいように思えるが、専門家はごく少数の人々が大量のCO2を排出していると指摘する。グローバル・エイバイロンメンタル・チェンジ誌に掲載された2020年の研究によると、商用航空機によるCO2排出量の50%は、世界人口のわずか1%の層による利用の結果として生じたものだ。
プライベートジェットは気候への影響が懸念されているにもかかわらず、近年人気がうなぎ上りだ。プライベートジェットは実業家のカイリー・ジェンナーさんやテスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏といった著名人のフライトが追跡されてソーシャルメディアで話題となっているが、ビジネス目的での利用も一般的になりつつある。
航空コンサルタント会社WINGXによると、米国では現在、プライベートビジネスジェットが全フライトの4分の1を占め、その割合はパンデミック前の約2倍に膨らんでいる。
SAFへの疑問視
航空業界は持続可能な航空燃料(SAF)により、2050年までにCO2排出量の実質ゼロを達成できると説明している。国際航空運送協会(IATA)によると、持続可能燃料は従来の燃料と比べてライフサイクル(原料の栽培、収穫、製造、輸送等全ての段階)における排出量を最大80%削減できる。また、エア・カナダやユナイテッド航空などは短距離路線に特化した電動航空機を購入している。
しかし、環境保護団体は、持続可能燃料の利用増加に伴い、パーム油や大豆油などバイオエネルギー作物を栽培するために広大な土地で樹木の伐採が進み、森林破壊が起きる恐れがあると指摘する。
持続可能な燃料の本格的な普及にどの程度の時間を要するかも疑問視されている。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年時点で航空燃料に占める持続可能燃料の割合は0.1%未満だった。
T&Eのデニース・オークレア氏は「持続可能な燃料では進むべき脱炭素化の道を切り開くことはできないと認めざるを得ない」と話す。今後、10年間に排出削減を加速させるためには、本当に必要なフライトの洗い出しを含め、さまざまな対策を組み合わせる必要があると話す。
一方、欧州各国はプライベートジェットの運航を減らし、よりクリーンな交通手段の利用を奨励する策の検討に乗り出している。フランスは昨年12月、鉄道利用で2時間半以内で移動できる短距離航空路線の運航を禁止する措置について、欧州委員会から承認を受けた。ベルギーは4月からプライベートジェットと短距離フライトに新たな税金を課す予定だ。
オークレア氏によるとこうした課税措置は航空機の利用を減らすインセンティブになると同時に、持続可能な航空事業の開発を加速させるための資金の確保にもつながるという。
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が編集・転載しました。