米で人気の旅行予約「ホッパー」、日本でのパートナーに三井住友を選んだ理由【外電】

膨大なデータをもとに、AIで航空券やホテルの価格動向を高精度で予測し、航空券の「価格凍結」が人気となって急成長したOTAホッパー(Hopper)。米国、ブラジル、オーストラリア、日本、韓国で、それぞれの銀行やクレジットカード5社との提携を実現した。

今、同社は、B2B事業のHTS(ホッパー・テクノロジー・ソリューションズ)に最も力を注いでいる。ホッパーの共同創業者、ダコタ・スミス氏は「オンライン旅行会社やサプライヤーだけでなく、クレジットカードや銀行でも旅行サービスを取り扱える」ようにし、旅行プラットフォームの進化形を作り出す方針だ。

このほど開催されたイベント「WiT」で、スミス氏はHTSがホッパーの総収入に占める比率が66%に達したこととともに、「2021年8月時点ではゼロだった」(同氏)と明らかにした。北米市場では、もともと消費者向けアプリで有名になった同社だが、同事業は北米限定とする方針を決め、海外ではHTSを中核事業と位置づけている。

長期的な売上げ確保へ、B2B展開を推進

同社では、金融各社とパートナーシップを組み、旅行ビジネスをB2B展開する候補先として、30ほどの国・地域を選定していた。「長期的な売上確保につながるからだ。すでに昨夏から複数の相手と交渉しており、その一部は発表した通り」(同氏)。とはいえ、過去には期待した成果につながらなかったケースもある。昨年は、エクスペディアとの関係終了が話題になった。

米国では2024年8月上旬、キャピタルワンに続き、トリップアドバイザーとの間で提携合意し、同社のホテル予約アプリを支援する。海外市場では、南米最大のデジタル銀行、ヌーバンク・ウルトラビオレッタ(Nubank Ultravioleta)の利用者1億人に対し、航空券やホテルの予約サービス、旅行関連のフィンテック技術の提供に乗り出す。

韓国では、ロッテ・カード会員向けの旅行ポータルサイトを開発する計画で、これにより、同社のアプリ「Digi-LOCA」でフライトや宿泊、レンタカーの取扱いが始まる。

日本では、三井住友(SMBC)フィナンシャルグループ のクレジットカード会社、三井住友カードとの間で契約を締結。2025年のローンチを目指し、カード会員向けの旅行ポータル作りに着手したところだ。

さらにオーストラリアで提携するコモンウェルス銀行との間では、同社のコモンバンク・アプリ利用者、600万人以上を対象に、HTSがホテルやフライトの検索・予約・決済サービスを提供している。

「この事業はグローバル展開が可能だ。世界各地で様々なパートナーとの提携が実現しており、非常に期待している。技術パートナーとして選ばれるまでには、表層だけでなく、細部にまで渡る大変な作業が必要だったが、当社のプロダクトが顧客ニーズに合致していることを確信できた」とスミス氏は話す。

ここまでの成功の秘訣は何だったのか?

「例えばHTSとブッキング・ホールディングスを比べた時、我々が勝てるのは技術力だけ。事業規模、売上高、社歴など、いずれもブッキングが上だろう。でもB2B展開ならば、我々の豊富な技術・開発力を生かして、ロイヤルティプログラムやリワード展開をデジタルという側面から支援できる。クライアント企業から求められているのもこうした部分だ」(スミス氏)。

「またHTS事業では、もともと小さなテック・サービスを各種、揃えていたので、相手の要望に沿ったフレキシブルな対応がしやすかった」。

価格競争力については、取扱い額と利益をシェアする方式なので、「(クライアント企業の)儲けゼロであれば、当社の取り分もゼロ」と同氏は説明した。

ホッパーにとっての転機は、キャピタルワンとの提携成功で、「旅行業のなかでも、この領域に注力するべき」(同氏)との確信を得たという。ホッパーは2022年、キャピタルワンから9600万ドル(約141億1200万円)の追加投資を獲得、その前年3月には、キャピタルワンがFラウンドの資金調達をリードしている。

両社が一丸となってキャピタルワン・トラベルのローンチに取り組み、クレジットカード会員が旅行サービスを購入したときに付与するポイントを増額したほか、価格アラートやフライト・キャンセル優遇などの便利機能を加えていったことも奏功した。

「スタートした初年度には、USATodayの調査でキャピタルワン・トラベルカードがベスト・クレジットカードに選ばれた」とスミス氏。「この調査のトップ常連はチェースとアメックスだったので画期的だった」。

日本や韓国では市場特性に合うローカル・アプローチ

同じサクセス・ストーリーが他の国でも通用するのか、今後の展開が注目されるところだ。それぞれの市場特性に合わせたカスタマイズは必須とスミス氏は話す。「例えば、アメリカの消費者は旅行が大好きで、旅行で獲得したポイントは、次の旅行に使う。つまり旅行関連のリワードや特典の充実が重要になる」。

「日本の旅行動向で特徴的なのは、列車がとても重要な要素であること。ロイヤルティ・マーケットは成熟しており、ポイントを貯めたり、使うことは一般的だ。旅行好きで、クレジットカード利用は年々、広がっているので、ポイント活用の余地はたっぷりある」。

「それから、日本の消費者は相手の顔を見ながら対面で、あるいは電話で予約することを好み、オンライン予約ではデスクトップ利用の方が多い。もっと洗練されたモバイル体験を提供することで、次世代型の旅行を求める層にアピールしたいと考えている。SMBCのリワード・プログラム、Vポイントとの連携も強化する」。

「一方、ブラジルの場合、購買力がそこまで高くないので、ポイントだけでなく、支払いの猶予期間を設けることで利用者に訴求していく。8か月間の分割払いで金利ゼロなので、旅行費用の後払いも可能だ」。

当然ながら、パートナーシップが成功するかどうかは、各社がマーケティングや顧客獲得に充てる予算規模にも左右される。アメリカのケースでは、すでにホッパーに出資していたこともあり、キャピタルワン側には成功への強い意欲があった。

韓国ソウルの旅行関係者は、ロッテ・カードとの提携だけでなく、「ロッテ・カードが大規模な販促活動をするかどうか」がカギになるという。「周知の通り、航空券の販売手数料はとても少ないし、韓国でも旅行会社間の価格競争は激しい。クレジットカード会社と旅行会社の取引関係もある」。

目下、韓国の消費者の間では、航空券のキャンセル手数料に対する嫌悪感が強いため、「価格凍結」や「キャンセル理由は不問」など、ホッパーが手掛けるフィンテック・サービスの数々を提供できるようになることは、ライバルとの差別化につながるとの見方だ。

スミス氏によると、特に航空券の購入者の間で、「キャンセル理由は不問」とするサービスの人気は高い。同社では現在、エア・カナダ、フレア航空(カナダのLCC)、エアアジアMOVE、エアアジアのスーパーアプリで同サービスを提供しており、2024年末までに、新たに航空10社との間でスタートする計画だ。

旅行業に不可欠なスケール

ホッパーが、クレジットカード事業の展開先として選定した世界30のマーケットは「所得レベルが高く、クレジットカード市場も大きい国。アジア、欧州、カナダ、メキシコ、それから中近東の一部が、我々のターゲット市場になる」(スミス氏)。

最近ではブッキングやエクスペディアも、旅行ビジネスのB2Bテクノロジー開発に力を入れている。ただし、「旅行業は、万人向きではない」とも同氏は指摘する。

「旅行業で何十億ドル規模を売り上げるには、テクノロジーはもちろん、マーケティング予算から何千万人もの顧客にリーチする手法まで、すべて最高レベルで展開する必要がある。この業種はスケールがないと成り立たないので、サプライヤーである航空会社やホテルが有利だ。OTAには膨大なマーケティング予算があり、技術力があり、顧客も多い。一方、(スケールがある割に)注目されていなかったのがクレジットカードだ」。

「クレジットカードには何億人もの利用者がいる。後払いできることが最大のメリットだが、利用者はみんな旅行が大好きで、ポイントの獲得や利用にもつながっている。もっと便利なデジタル・ソリューションを提供できるようになれば、大きな力になるだろう」。

もともとカード普及率が低かったインドやインドネシアでは、デジタルウォレットやデビットカードなど、別の決済手法が広がりつつあるが、「新興ネット銀行のビジネスモデルは、まずウォレットやデビットカードを利用してもらい、購買力が大きくなった人は、クレジットカード会員として囲い込むこと。ウォレットには、いずれクレジット機能が付くかもしれない」。

「旅行業における新しい領域を作り出すことができたし、その将来性は非常に大きい。(必需品以外の)自由裁量で使う消費項目のナンバーワンは旅行だ。リアルな体験こそ、人々が欲しているものだ」とスミス氏は話した。

※ドル円換算は1ドル147円でトラベルボイス編集部が算出

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Hopper doubles down on HTS to power banks and credit cards to “build new space in travel” 

著者:WiT創設者 ヨー・スーフン氏


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