キャセイパシフィック航空が、大型投資による新たな取り組みが始まった。保有する機材や客室、ラウンジのアップグレード、サステナビリティの強化で顧客サービスの向上を図っている。2024年10月には、新ビジネスクラス座席「アリア・スイート」を搭載したボーイング777-300ER型機の運航を開始した。
新たに投入された新ビジネスクラス座席「アリア・スイート」は、全席が扉付き個室となるプライバシー重視の最新デザイン。プレミアム・エコノミー、エコノミーの座席も刷新した。現在、同社が運航する777-300ER型機は38機のうち、8機のリース機を除く30の保有機材すべてに新座席が順次導入される予定だ。
キャセイパシフィック航空の大型投資計画とは?
キャセイパシフィック航空は、2024年8月に今後7年間で1000億香港ドル(約2兆円)以上をかける投資計画を発表した。顧客体験の向上と香港の国際航空ハブとしての地位強化に向けた戦略の一環として、機材、客室プロダクト、空港ラウンジ、デジタル化およびサステナビリティ推進を進めている。
ラビニア・ラウ最高顧客商務責任者(CCO)は、ロイター通信の取材に対して「新型コロナウイルス後の経営再建で、新たな段階に入る」と明かしている。ロナルド・ラム最高経営責任者(CEO)は、「この投資は、香港の航空ハブとしての拡大を支援するもの」との考えを示した。
同社は、コロナ後に旅行需要の急速な回復を受けて、2023年度(2023年1月~12月)決算で黒字化。2024年度上半期決算では、航空運賃の値下がりをうけて純利益が減少したものの、戦略的な投資は継続している。それにより、ポストコロナ時代の競争力強化と、顧客満足度の向上を目指している。
具体的には、新たにA330-900型機30機を購入。引き渡し後、2028年頃から、主にアジア各国の都市に就航させる予定だ。また、今後3年間で新たな客室プロダクトを順次導入する。ボーイング777-300ER型機のデザインを刷新し、ビジネスクラスの新シート「アリア・スイート」を導入するほか、プレミアム・エコノミー、エコノミークラスで新型シートにアップグレードする。さらに、2025年にはポーイング777-9型機でファーストクラスを導入し、2026年には既存のA330型機に新しい客室とフルフラットベッドのビジネスクラスを導入する計画だ。
このほか、ビジネスクラス利用者およびダイヤモンド会員を対象とした機内Wi-Fiの無料提供も段階的に実施。ダイニングや機内エンターテイメントに継続的な投資をおこない、顧客体験を強化していく。
また、空港ラウンジでは、今後3年間で、香港国際空港と北京首都国際空港のフラッグシップ・ラウンジのデザインを刷新するほか、ジョン・F・ケネディ国際空港には初となる専用ラウンジを開設する。
刷新された機材に搭乗して、新座席を体験した
ビジネスクラス「アリア・スイート」
投資計画のもと、刷新されたB777-300ER機の初便は、2024年10月に香港/北京線で運航。その後、台湾線、一部の日本路線でも運航した。今後、長距離路線を中心に導入され、2025年にはヨーロッパ、オセアニア、北米路線で使用される予定だ。
では、評価が高いキャセイパシフィック航空の新プロダクトは、どんなものか?実際にB777-300ER型機に搭乗して取材した。
ビジネスクラス「アリア・スイート」の客室は1-2-1配列。刷新前の席数は53席だったが、刷新後は45席に減らし、全座席を扉付き個室空間とした。2列配置の中央席には、席と席の間にスライド式のパーティションを備え、1人の個室空間としても、2名の共有空間としても過ごすことができる。
離陸後、安定飛行に入った後、扉を閉めて個室空間にする。扉を閉めると、通路を行き来する客室乗務員(CA)とも目線をあわせることがない。前後の座席に座っているはずの他の乗客の気配も感じない。まさに、個室空間を実感できる。
ビジネスクラスでは機内Wi-Fiも無料だ。パソコンを使用しての仕事は、画像のアップを伴う業務からメールの送受信まで、陸上と変わらないスピード感。飛行機に乗っていることを忘れてしまうほど、個室の中で仕事に没頭できる。
個室の大理石調のサイドテーブルでは、スマホを置くだけで充電可能なワイヤレス充電が装備され、そのほかにも、USB-A、USB-C、AC電源も配置している。スマホやパソコンの充電、ネット環境にストレスを感じることはなかった。
機内のエンターテイメントは、目の前のモニターで好みのままに楽しむことができる。Bluetooth対応の24インチ4Kモニターだ。コンテンツは、映画が1000本以上、番組が3000時間以上、スポーツ、ポッドキャストやゲーム、アニメなどが用意されている。同社では、2019年からコンテンツ数を従来の4倍に増強したという。
個室の中で仕事に没頭しても、エンターテイメントを楽しんでも、一人の空間での過ごし方は自由気ままだ。機内で長時間過ごすことが苦にならず、この座席が長距離路線に投入される理由がよくわかる。
ビジネスクラスのラウンジ
香港国際空港では、ビジネスクラスに搭乗した旅客が利用できるラウンジ「ザ・ピア」 に立ち寄った。同空港のキャセイパシフィック・ラウンジの中で、最も広いラウンジだ。印象的だったのは、活気ある空間と、静けさに包まれる空間がくっきり分かれていること。
活気あふれる「フード・ホール」では、家族連れや友人同士の旅行者がそれぞれの乗り継ぎの時間を楽しんでいた。同社ラウンジの象徴ともいえる「ザ・ヌードル・バー」は、特に人気が高く、活気に溢れていた。
一方で、静かなエリアでは、ビジネス旅行の乗り継ぎと思われる人々が、空港を臨む大きな窓を眺めながらゆったりと、それぞれの時間を過ごしていた。ビジネススペースには iMacとプリンターが用意されていて、仕事も快適におこなうことができる。
また、最近、新たに導入されたという「ティー・ハウス」では、お茶の専門家が淹れる豊富な種類のお茶やスイーツを楽しむことができる。この空間は、ゆったりとお茶を味わいたい大人が集まる静かな空間だった。
プレミアム・エコノミー座席
プレミアムエコノミークラスは、2-4-2配列で48席。座席のヘッドレストに丸い読書灯が内蔵された仕切りが設置されているのが特徴的だ。決して大きな仕切りではないが、このウイングレットの存在が視覚的に他の乗客の存在を感じさせなかった。中央座席には、肘の⾼さに仕切りがあり、パーソナルスペースの確保に役立っている。
各シートには、15.6インチの4K超⾼精細スクリーンを備えている。同社のプレミアム・エコノミー座席で最大のサイズで、4KオンデマンドとBluetoothオーディオ・ストリーミングを搭載。ビジネスクラスと同様にBluetooth対応のヘッドフォンを使って機内エンターテインメントを楽しむことができる。
同機の全361席のうち、ビジネスクラスは45席、プレミアム・エコノミークラスが48席、エコノミークラスが268席。今回のアップグレードは、上級クラスだけでなく、エコノミー座席でもおこなわれ、それぞれのクラスに見合った快適性を追求した。
この取り組みで、同社は航空業界における優れたデザインと顧客体験を表彰する「デザイン・エア・アワード 2024」で、「デザイン・エアライン・オブ・ザ・イヤー アジア2024」、「ベスト・ニュー・ビジネスクラス2024」、「ベスト・ニュー・プレミアム・エコノミークラス 2024」の3賞を受賞。高い評価を受け、早くも大型投資の成果が現れ始めている。