千葉千枝子の観光ビジネス解説
*右画像は、体験プログラム期間中の休日。ランカウイへ足を延ばしたり、街頭インタビューをしたりトライショーで世界遺産エリアめぐりも。
▼グローバル人材育成ペナンプログラムを終えて
教育旅行の効果と重要性を再認識
近年、叫ばれるグローバル人材育成。政府が推し進める日本再興のための成長戦略の、柱の一つになっている。教育の現場が動き出しはしたが、その成果とは背中合わせに、課題も山積だ。本稿では教育旅行の観点から、筆者が客員講師を務める中央大学で実践されたペナンプログラムを振り返る。
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文部科学省のグローバル人材育成推進事業タイプA(全学推進型・平成24年度)に採択された中央大学では、経済学部インターンシップ科目に2014年、新たに国際観光コースが設置された。そして今夏、マレーシア政府観光局ならびにペナン州観光局の協力のもと、夏季休みを利用して就業体験プログラム(2014年8月24日~9月14日)が実施された。担当講師として筆者も、開講前に選抜した15人(全員3年次)の精鋭たちとともに成田を発った。
あらためて実感したのは、教育旅行の効果と重要性である。かつて、「タイは若いうちに行け」というキャッチコピーがあった。タイがまだ、女性やファミリーに市場拡大されていない時代のことで、バックパッカーを中心に大きな話題を呼んだ。若いうちにディスティネーションとして体験することで、生涯リピーターを育てることができる。
今回も15人のすべてが、「マレーシアが好きになった」、「ペナンをぜひ、再訪したい」と答えた。若いうちに世界を見聞することの意義は大きい。そこが旅ではなくキャリア教育である点に、今後のマーケットが存在することを、あらためて実感した。
▼マレーシア・ペナンでの就業体験を実施
学生目線の実踏で浮かび上がったものとは
就業体験は、3つのチームに分かれて行われた。1つはオフィスワークで、もう1つはタウンマップづくり、さらにガイド補佐も予定されていたが、これは実施には至らなかった。タウンマップづくりでは炎天下、まちなかを歩きまわり、学生であるからこその細部にわたる情報が次々と寄せられた。なかでも個人旅行に欠かせない二次交通、そしてトイレ事情に着目した点を、事例として紹介したい。
ペナンではジョージタウンを中心に、観光客向け無料巡回バスCATが試験運行されている。CATとは、セントラルエリア・トランジット・バスの略で、港とバスセンターの間を所要約40分、19の停留所で結ぶ。だが改善点も多い。時刻表やルートマップがなく、バス停の確かな表示も存在しない。路線バスもしかりで、予告なしの運休は当たり前。慣れない観光客にとっては利用しづらい。
学生たちによって、日本における各種バスの仕組みと比較、今後の改善点や課題がまとめられた。また、トイレ事情における細かな情報が乏しい点にも着目した。筆者も以前から感じていたことだが、特に女性トイレが狭く、空港ですら床が水浸しで使用に困ることが多い。衛生に敏感な日本人向けに、ペナン要所のトイレ事情を男女別に情報収集した。
これらの論ずべき点は、学生目線により導きだされたもので、時間をかけた実踏があってこその気づきだ。今後のペナンの観光振興や日本人誘致に、少なからず寄与する成果が得られたと感じた。
▼そもそもインターンシップとは
国内企業の就活とグローバル人材育成のはざまで
日本におけるインターンシップの定義ならびに就業期間については、海外のそれとは隔世の感がある。通常、欧米でインターンシップといえば半年以上の期間をさし、有給であることも珍しくない。日本における現行の大学制度の多くは、休学や留年をしなくては海外インターンシップに臨めないのが現状だ。
だが一方で、国内企業がインターンシップ制度の導入を次々、進めている。その背景には、先述の日本再興戦略に、インターンシップ活用の推進が提言されたことに由来する。国内企業インターンシップの場合、実施期間は1週間以上2週間未満が大半を占める。実施の時期は大学3年次の夏季休暇中が一般的で、青田買いに準じているとの声もある。
今回、学生のなかには、国内企業インターンシップを不本意ながらも断念して、大学が正規授業として用意した本コースに参加したものもいた。国内企業における優秀な人材の獲得と、世界で戦えるグローバル人材の育成との両立には、時間軸における難しさがある。だが、その接点を見出して、学生により多くの有益な体験機会を与えていくことが大学側には求められている。
本コース、マレーシア・ペナンでのインターンシップ科目は、その性質上、あくまでも就業体験の枠にとどまった。本格的な海外インターンシップとは異種にあることを本稿で明記したい。体験である以上、その期間が3週間で妥当なのか、2年次履修での対応が望ましいのではないか、といった議論が学内で今、行われている。
末筆となるが、本プログラムに多大なるご協力を賜ったマレーシア政府観光局ならびにペナン州観光局に心から謝意を表する。