世界都市の外国人旅行者トレンドを読み解く - 南欧は2桁増、民泊の伸びは北米より欧州

ユーロモニター・インターナショナルは、2015年に海外からの旅行者数が最も多かった世界都市ランキング100位と、注目すべき動向についてまとめた。テロ事件やMERS、ジカ熱の流行などが旅行動向に影響を与えた年だったが、世界全体での海外旅行者数は前年比5.5%増と堅調に推移。都市別では大きく外客数が落ち込んだところもあるが、グローバル規模で見ると、旺盛な旅行需要の伸びが様々なマイナス影響を上回った。

今回の調査では、特に著しく外客数が拡大したデスティネーションとして「日本」を挙げ、「2015年の勝者」と評した。都市別では、東京が順位を6ランク上げて総合ランキングは17位に躍進(外客数は前年比35.4%増)。大阪と京都も、それぞれ27ランク、11ランクずつ上昇し、総合55位と89位(同52.1%増、47.6%増)になった。

同調査では、海外からの旅行者がまず東京に到着し、富士山を経由して西日本の大阪、京都へ移動するコースが「ゴールデンルート」として定着、同3都市への外客数が大幅に増加する要因になってとしている。

トップ香港を追い上げる勢いの2位バンコク

前年に続き、総合ランキング一位の座を堅持した香港は、伸び率では3.9%減と低迷。ユーロモニターでは、中国人旅客、特に若年層へのアピール不足が課題と指摘している。ソウル(15位)はMERS流行により外客数が前年比6%減。総合ランク6位のマカオも、中国政府によるカジノでの違法行為取り締まり強化により中国人客が減少した。

ユーロモニター:発表資料より

こうした中、アジアで勢いを増しているのが総合ランキング2位のバンコクで、受け入れ外客数は前年比10%増。バンコクでは2015年夏、エラワンで爆破事件が起きたが、影響は感じられない。またタイは、バンコク以外の都市も好調で、特にチェンマイは前年比40%と外客数を大きく伸ばした。中国、ミャンマー、ラオスとの国境に近いことが人気の一因としている。

欧州地区で最もインバウンド海外旅客数が多かった都市はロンドンで、前年比7%弱の増加(3位)。9月にイングランドでラグビーワールドカップが開催されたことも奏功した。テロ事件が起きたパリ(5位)も、2015年の年間外客数には、まだ大きなインパクトは出ておらず、欧州地域で第二位。ただ翌2016年はより厳しい状況と推測されている。

欧州地区において、ロンドン、パリに続く外客受け入れ規模を誇る都市はイスタンブール(8位)で、前年比4.8%増。主要送客国であるロシアからの旅行者がルーブル安で減少したが、大きな影響は出ていない。しかしトルコ南部のビーチリゾート、アンタルヤ(12位)は前年比5.5%減と落ち込んだ。アタテュルク空港での爆発事件や軍クーデター事件が起きるなど、不安定な情勢が今後の材料だ。

テロの打撃を大きく受けたのはエジプトとチュニジア。2015年に航空機爆破事件が起きたエジプトでは、同機の出発地となった避寒リゾート、シャルム・エル・シェイク(96位)への外客数が7.5%減。さらにテロ事件が複数起きたチュニジアは、各都市とも2桁減だった。

イタリア、ギリシャの各都市は2桁増と好調

一方、フランス、トルコ、エジプト、チュニジアと競合する旅行先、南欧のスペイン、ギリシャ、ポルトガルなどは追い風を受けた。ミラノ万博を開催したイタリアは特に好調で、ミラノは18%増(総合23位)、ベネツィアは11%増(同33位)、フィレンツェが10%増(36位)といずれも2桁増を示した。

ギリシャも全般的に外客数は好調に推移。中でもアテネの外客数は22.6%増(47位)となり、政治・経済の混乱による影響は感じられない。ただ、難民問題を抱えるクレタ島のヘラクリオンやロードス島への外客数は伸び悩んだ。

中東地域で安定的に成長を続けているのはドバイ(7位)で、2015年も前年比8%増のプラス。サウジアラビアの聖都メッカ(21位)は、中東地区で最大の伸び率を示し、前年比17.2%増。巡礼目的の観光客の増加が主な要因となっている。

EU(欧州連合)との関係が冷え込んだロシアでは、モスクワ(42位)への旅客数が13.8%減と大きく落ち込んだ。

南北アメリカ地区で最も外客が多かったのはニューヨーク(総合9位)、続いてマイアミ(19位)、ラスベガス(24位)。しかしニューヨークは、強いドルの影響で旅客数の伸び率は0.9%にとどまった。

南米で注目の都市はペルーのリマ(76位)で、前年比9%と伸びた。ペルー経済の安定化に伴い、もともと観光素材に恵まれたペルーが旅行先として脚光を浴びるようになっている(76位)。

今後の旅客動向を大きく左右する要素は、米国のドナルド・トランプ政権で、訪米外客需要にどのようなインパクトを与えるか、また米国と比較検討されることが多い旅行先、カナダへの影響が注目される。

北米よりも欧州で拡大目覚ましい民泊

ユーロモニターの同調査では、旅行を取り巻く環境の中で、注目するべき新しい動きとして、民泊の利用状況も取り上げた。

2008年の経済危機が引き金になり、一気に拡大したと言われる民泊だが、過去5年間のホテルと短期レンタル宿泊施設(民泊など)の供給数を比較すると、圧倒的に後者が増えている。さらに2012年以降は、売上高も、民泊がホテルを凌駕するように。代表格であるエアビーアンドビーは、個人が所有する都市部の宿泊施設を中心に展開を拡大、優位なポジションを確立した。

民泊を早い段階から認可した観光都市の一つがフランスのパリで、2014年に法改正した。パリは今や、Airbnb(エアビーアンドビー)にとって都市別で最大のマーケット(登録件数7万8000)。また2016年には、民泊施設の登録件数で、ロンドンがニューヨークを抜き、パリに次ぎ第2位になった。ニューヨーク当局がこの新ビジネスに対し、敵対的な立場をとる一方、ロンドンはより柔軟な対応で迎えたことが背景と考えられる。

登録物件数の多い上位10都市を見ると、エアビーアンドビーが現在、欧州市場に大きく依存していることがうかがえる。トップ10に入っている北米都市は2都市、これに対し欧州は6都市。残り2都市はシドニーとリオデジャネイロだ。

特に2014年ワールドカップ、2016年五輪の開催を経て、リオでの登録件数は大幅に増加した。リオはもともとホテル不足でホテル増設が進んだが、エアビーアンドビーも公式な宿泊施設としての指定を獲得。五輪期間中は6万6000人の利用があったと報告されている。

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