長崎県島原市の「島原観光ビューロー」は2016年10月、観光関連4団体を統合し、株式会社として立ち上げられた。市内の観光施設などを一括管理し、収益力を強化するとともに、プロモーションにも力を入れ集客を増やすことで、観光で稼ぐ地域を目指す。11月に観光開発部長に就任した寺尾講平氏は神奈川県生まれ。「観光による地域再生を最前線でやりたかった」と縁もゆかりもない島原市に飛び込んだ。着任して約6ヶ月。外の視点から見えてくることは多いという。その寺尾氏が考える島原観光の未来と課題とは。
最先端町づくり会社から地方の観光開発へ転身
寺尾氏の前職は、「キッザニア東京」や「代々木ビレッジ」などを手掛けた町づくり会社UDS。UDSとリコーが共同で立ち上げた海老名市の「リコー・フューチャーハウス」では、学童ラウンジ/科学体験教室「コサイエ」の運営責任者を務めた。
フューチャーハウスとは、市民が町づくりについて話し合う場。市民自ら国を造る考え方が浸透しているオランダなどで取り入れられている仕組みだ。「従来は行政が音頭を取って都市計画を進めていきますが、それだと市民に巻き込まれ感がなく、危機感も薄い。そこをボトムアップで町づくりをしていこうという考え方です」と寺尾氏は説明する。「コサイエ」では、定期的にIT系、自然系、科学系などのワークショップを開催し、体験を通じて子供と、そして親にも「子供の“好き”を見つける」手助けをしていた。
寺尾氏は、その町づくりの一端に携わっていくなかで、「地域の最前線でやりたくなった」と言う。そのタイミングで、島原市観光関連4団体が統合されて設立された「島原観光ビューロー」が人材募集。「若いときから、日本の地域再生に観光は欠かせない」と考えていた寺尾氏は「おもしろそうだ」と縁もゆかりもない島原で観光開発に挑戦する道を選んだ。2016年11月のことだ。
九州のファミリーがターゲット、アクティビティの観光地へ
現在の役職は開発部長。「この一年でやりたいのは、『なんか島原って面白そうなところ』というイメージをつくること」。そのためのネタを開発し、情報を発信していくのが仕事だ。「現状は雲仙の通り道で、観光しても島原城を中心として1、2時間の滞在に終わってしまっている。でも、外から来た人間が感じるのは、島原には一日二日では体験しきれないほど素材が豊富だということ。海、山、地元の食材などなど。友人を呼んで島原を案内したときに、それを実感しました」。島原の潜在力への期待は大きい。
当面のターゲット地域は九州。現実問題として、東京から5、6万円の飛行機代をかけて、長崎空港から車で1時間半、熊本からはフェリーで30分の距離にある島原に人を呼ぶには、圧倒的なキラーコンテンツがないと難しく、1、2時間ほどの体験コンテンツだけだと、なおさら困難だ。「まずは九州で自力をつけてから」、マーケットを広げていきたい考えだ。
客層としてはファミリーを狙う。コンセプトは『ワクワク、ドキドキ、驚き島原体験』。現在は種まきをしている段階で、「ゆくゆくは癒やしの観光地だけではなくアクティビティの観光地にしていきたい」と意欲を見せる。その一貫として、今年4月からは、アクティビティだけでなく物販も含めて何かしらの新サービスやプロダクトを12ヶ月連続で発表していく計画だ。
入込客の目標は普賢岳噴火前の年間200万人
島原市には、島原の乱の舞台のひとつとなった島原城という絶対的な観光名所がある(天草四郎が籠城戦を展開したのは原城)。城内の郷土歴史館に展示されている実物の踏み絵をはじめとする隠れキリシタン関連の収蔵品は第一級の観光素材だ。また、周辺の武家屋敷、湧水城下町などにも観光客が多く集まる。
島原市観光客動態調査によると、2015年の入込客数は約140万人で、そのうち日帰り客が約120万人。マーケットを見ると、長崎県内からが全体の28.5%、九州の他県からが48.6%と九州域内からの入込が圧倒的だが、九州居住者の国内旅行者数は約5,200万人であることを考えると、島原市への入込客の割合は3%弱とまだまだ低く、地域が観光で稼ぐ力は脆弱だ。寺尾氏は「その危機感の共有が薄いように感じます」とフューチャーハウスの経験から問題を提起する。
島原観光ビューローでは、入込客数を2019年度までに200万人、1991年に発生した雲仙普賢岳の大火砕流以前の水準まで戻す目標を立てている。このKPIに向けて、既存の観光収入源の強化に加えて、新しい取り組みにもチャレンジ。島原城や湧水庭園「四明荘」をレンタルスペースのマーケットプレイス「スペースマーケット」で貸し出しているほか、体験型ツアー仲介サイトのTABICAでも地元体験コンテンツを売り出した。
「観光地って何? 観光客って誰?」、観光力のヒントは町づくりに
こうした戦略や目標を前にして、寺尾氏は「観光地って何?観光客って誰?」と自問し直したという。「観光は業者がやるものだとの認識がありますが、観光は外貨を稼ぐことだとすれば、島原市に来る人はだれでも観光客になるんでしょう。そう思い直すと、観光に対する考え方がとてもシンプルになりました」と話す。
観光目的ではなく、たとえば隣町からに買い物や食事に島原市に来て、お金を落としてくれる人であれば、その人も観光客になり、その店を気に入って何度も訪れてもらえれば、リピーターとして囲い込める。「外の人を呼び込める強い店の集合体になれば、観光地にならなくても、稼ぐ目的は達せられるのでは」。つまりは町づくりだ。観光の見方を変えれば、「『自分がやっていることも観光だ』と気づく商店も増えるのではないか」。
「将来的には、インキュベーションもやってみたいですね」と寺尾氏。起業や新規事業を支援することで、町づくりと観光をリンクさせていく。島原観光ビューローの挑戦は始まったばかりだ。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹
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