世界の訪日需要データ解析が武器の「ソジャーン」社が日本参入、グーグルとのインバウンド調査を公開

米サンフランシスコ拠点のオンライン・データ・マーケティング会社、ソジャーン(Sojern)が日本に参入する。訪日のインバウンド市場が拡大する中、将来的に日本の国内旅行やアウトバウンド市場も開拓するのが狙いだ。このほど、WIT Japanにあわせてブラッド・キング・グローバルセールス担当副社長が来日。半年から1年以内に、日本に本格的に進出したいとの意向を明らかするキング副社長に今後の戦略を聞いた。

ソジャーンが米国サンフランシスコで、旅行業に特化したオンライン・データ・マーケティング業務を開始したのは6年前。日本に事務所は設置していないが、シンガポールやシドニー、米国などの日系航空会社支店を通じて、これまでも訪日インバウンド市場向けマーケティング業務には携わってきた。今後、日本では訪日旅行市場で基盤を固め、将来的に日本の国内旅行やアウトバウンド市場の開拓を狙う。

キング副社長は「日本のホテルや各地のDMO向けに、データ・マーケティングで、何が可能になるのか、まず理解してもらうことが第一段階。日本市場の攻略にはローカルプレゼンスが不可欠なので、営業とサービス提供の両面で、できれば余裕ある人員体制を確保し、営業活動を開始したい」と考えている。

グーグルと共同で訪日旅行者の調査レポート

ソジャーンのブラッド・キング・グローバルセールス担当副社長

ソジャーンは、旅行者がオンライン上で行うあらゆる行動について、企業からデータを集め、これを機械学習(マシン・ラーニング)や人工知能(AI)を活用した独自のアルゴリズムで解析する。例えば、ホテルや航空券を検索したり、デスティネーションに関するコンテンツにアクセスしたり、実際に予約を申し込むなどの動きをデータ化・分析する。これにより、訪日旅行を検討している外国人の様々な傾向をリアルタイムで把握し、ターゲットやタイミング、あるいは使用するデバイスを厳選した精度の高いマーケティングを仕掛ける。

現在、「データ・パートナー」と同社が呼ぶ提携先は、グローバル企業など70社。過去6年間で、世界全体で3億5000万人規模のプロファイルを蓄積しており、この45%は本拠地である米国ベース。個人情報の保護は徹底しているが、例えば使用しているデバイスなどの情報から、同一人物かどうかの判断も可能という。データ・パートナーのサイト上で、ユーザーの動きがあるごとに、ソジャーンにデータがリアルタイムで送信され、蓄積されていく仕組みだ。

日本人ユーザーのデータ規模はまだ大きくないが、近年の訪日需要の拡大に伴い、訪日旅行に興味がある外国人旅行者のデータは拡大。日本国内のホテルやDMOにとって、こうしたデータは、外国人旅行者の嗜好を探る上で、まさに宝の山といえる。キング副社長は、「当社の蓄積データを活用し、海外市場をターゲットとしたマーケティングの分野で、日本の企業をさまざまな方法で支援できる」と自信をみせる。

ビッグデータを解析するデータ・マーケティング会社は複数あるが、ソジャーンの強みは何か。

キング副社長は、最大の違いをデータ解析に用いるサイエンス、アルゴリズムの部分であると説明する。「我々は、より主観的なアプローチを実現したアルゴリズムを使用しており、顧客からの評価も高い」。その証の一つが、グーグル傘下のディスプレイ広告サービス、ダブルクリックからマーケティング・パートナー認定を受けたこと。「旅行に特化したマーケティング会社では当社が初めて」と話す。

ダブルクリックとのパートナーシップは、様々な面でメリットが大きい。「膨大な数のディスプレイ・アド・インベントリーにアクセスできるし、試作品のベータ・テストのパートナー役も務めている。つまり当社のクライアントは、ライバルに先駆けて、早い段階から最新テクノロジーを試すことが可能。誰もが新しいもの好きな、この変化のスピードが激しいオンライン業界にあって、こうした違いは大きい」(同副社長)。

実際、ソジャーンの顧客企業の一つ、米サンフランシスコ・トラベルでは、ダブルクリックのプログラマティック・ネイティブ広告(情報内容になるべく違和感ないデザインや画像で広告を表示する手法)とソジャーンのデータ・マーケティングを活用することで、「旅行情報に関心ある人に効率よくリーチすることが可能になり、予約件数を1600%も増加。しかも成約一件当たりのコストは従来のダイレクト・レスポンス・キャンペーンより92%減った」(同社)。

訪日市場調査からは意外なデータも

2016年1月から2017年春には、訪日旅行に関する調査を実施。「ジャパン・トラベルレポート」としてこのほどまとめた。ここでもグーグルの協力を得て、同検索データと、ソジャーンが保有するデータを併せて解析。同レポートからは、欧米やアジアの旅行者が、日本への旅行を検討する際、比較している競合デスティネーションや、予約決定までのリードタイムなどが国別に浮かび上がってくる。

「訪日外国人旅行者」といっても、その行動には、国や地域ごとにかなりの違いがある。例えば、日本への旅行を検討する外国人が、同時に検討していたデスティネーションの一位は韓国。だが、欧州からの旅行者だけで見ると、一位は米国。つまり、必ずしも「東アジア」というカテゴリーで旅行先を比較検討している訳ではなく、距離や航空券の料金などで比べている様子がうかがえる。

日本について、検索を開始する時期は、距離が遠い送客国ほど早くなる。欧州からの旅行者では、「60日以上前から」が全体の64%、米国は同58%だが、アジア太平洋地区は同51%。さらにアジア太平洋地区の場合、域内での国ごとの差異もかなり大きい。

例えばオーストラリア人旅行者では、訪日旅行の60日以上前から情報検索する人が全体の63%、シンガポールは同60%だが、香港51%、中国35%、そして韓国は32%。また韓国と中国では、出発1週間前を切ってから、検索を始める人も全体の15%を占めた。なおアジア太平洋地区では、間際予約へのシフト傾向が全地域を通じて見られるなど、状況は年々、変動している。

資料「Japan Travel Trends:Inbound and Outbound Preferences」より資料「Japan Travel Trends:Inbound and Outbound Preferences」より

嫌われない広告マーケティングの条件とは?

「広告というのは、非常に相手との関係性が大切」とキング副社長は指摘する。「当社のデータ・インテリジェンスを活用すれば、例えばロサンゼルスから東京への旅行を検討中の人に絞って、航空券の割引セールや、都内の面白いホテル情報を届けることができる。これなら相手の興味関心に合致する。一方で、まったく必要ない製品やサービスの広告を届けても、ただの迷惑になってしまう」。

ソジャーンが目指すマーケティングとは、相手との「最適な関係性を極めること、さらに、できる限りのパーソナライゼーション」とキング副社長は話す。「繰り返しになるが、プライバシーは最優先事項。それでも、データを活用することで、相手にぴったりのタイミングで、最適な商品を告知することは可能だ。これが実現できれば、広告が嫌われることはない」。

取材・記事 谷山明子

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