航空ITトレンド予測2017、優先課題は「アプリの統合」、AIで期待するのは「トラブル予測」

SITA(国際航空情報通信機構)はこのほど、航空会社と空港のIT戦略に関する調査「2017航空ITトレンド予測(SITA 2017 Air Transport IT Trends Insights)」の結果を発表した。航空会社と空港のIT担当責任者を対象に実施したもの。

それによると、航空会社では全体の52%が今後3年以内に、空港分野では45%が5年以内に大規模な人工知能(AI)関連開発を計画していると回答。業界全体として、AIを活用することでカスタマーサービスや売上アップにつなげることにフォーカスし、積極的な投資を考えている姿勢が浮き彫りになった。

同時に、航空各社からの回答の80%は「今後3年以内にトラブル予測や警戒システムの研究開発に投資する」としており、ここでも特にAIへの期待が大きい結果に。有事の際に避けられない混乱や利用客への影響、ビジネス面での損失を最小限に食い止めるための対策としても、AIなどの技術活用に期待を寄せている状況がうかがえる。

以下は、航空会社による今後3年間にわたる主要IT投資分野(予測)。円グラフ左から、IoT関連、仮想ネットワークシステムSDN(Software Defined Network)、人工知能(AI)、コグニティブ・コンピューティング、ウェアラブルテクノロジー。

SITA:発表資料より

実用化の優先課題は「チャットボット」「アプリの統合」

さらに、航空産業界で注目を集めているのが「チャットボット」。今のところ、すでにチャットボットを実用化している航空会社は全体の14%、空港は同9%と少数派。しかし、2020年までに航空会社の68%、空港の42%がAI搭載のチャットボットを使ったサービスの実用化を予定していると回答。「チャットボット活用の範囲を大幅に増やしたい」意向がみられた。

併せて、IT責任者が優先事項として挙げたのが「モバイル・アプリ開発」だ。今後3年間で航空会社の94%、空港の82%が大規模なモバイル対応開発を計画していると回答。特に、航空会社のほとんど(94%)は各種サービスを一つのアプリに統合し、シームレスな顧客サービスを提供することを「優先課題」と認識。半数以上(58%)は最優先事項に位置付けている。

各社が注目している主な分野は、モバイルサービスによるによる営業強化だ。例えば航空会社では、アプリ経由で直接予約やアンシラリー・サービス(航空座席以外の付帯サービス)の売上を増やす手法を模索。2020年までに、モバイル・アプリによる売り上げを倍増し、売上全体に占めるシェアを17%まで高めたい考えだ。

一方、空港の場合はチャットボットを活用したサービスを空港内の案内や情報告知で活用することを計画。ビーコン(近距離通信用の仕組み)やセンサーを使い、現在位置や状況の確認に役立てることも検討している。今回のSITA調査では、こうした活用分野がアプリ開発の「最優先」とした回答者が40%、さらに43% が「優先順位が高い」と答えた。便利で最適なモバイル・サービスを提供することで、利用者が空港内で過ごす時間を、もっと有効活用できるようにしたいという空港側の方針が浮き彫りになったといえる。

航空会社・空港によるアプリ開発時の優先付けの状況は以下のとおり。対象分野はグラフ左から、アンシラリー・サービスなどの業務対応、アプリ統合によるシームレスな顧客サービス、顧客管理、利用者の状況や位置情報にもとづくサービス強化。各項目の左側(High Priority)が「最優先事項」、右側(priority)が「優先事項」。

SITA:発表資料より

空港における優先付けの状況は以下のとおり。

SITA:発表資料より

AIやモバイルサービスは「有事にこそ役立つ」

SITAのジム・ピータース最高技術責任者(CTO)は今回の調査結果を踏まえ、「周知の通り、航空会社の旅客はテクノロジーを使える環境を好むようになっており、これを整えることが即、満足度アップにつながる。航空会社も空港も、AIやモバイル対応プログラムに投資することで、さらなる顧客サービスの向上と、営業強化に取り組んでいる。有事の際には、特に役立つ」とコメント。

なお、同氏は開発体制について「自社内での開発と、外注するケースをうまく活用することで、IT専門家の知見を得ながら、航空業界特有の事情にも対応できる」と指摘。今回の調査結果では、航空会社の4分の3近くは自社内のインハウス開発部隊が旅客向けアプリを担当、42%は大手の技術開発企業やオーダーメードの開発業者の協力も得ていたとする。対照的に、空港では回答者の46%が利用客向けアプリを自社内で開発する一方、ほぼ同数の回答者が外注を利用していたとしている。

同調査は、航空会社および空港のIT担当責任者を対象に、SITAが2017年初めに実施したもの。SITAによる調査レポート全文は以下から入手できる。

SITA「2017航空ITトレンド予測」(PDFファイル、49ページ、英語)

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