コンビニ「ローソン」のデジタル戦略とは? 次世代店舗や旅行とのシナジーの可能性を聞いてきた

レジャーチケットの委託販売や観光案内、民泊のカギの受け渡しなど、ビジネス領域を観光分野にじわじわ広げているコンビニエンス業界。今年のWIT Japan 2018では、大手ローソンで未来の店舗づくりを担うオープン・イノベーションセンター マネジャーの谷田詔一氏がミニセッションに登壇し、1万4000のリアル店舗を持つ同社のデジタル戦略の概要を語った。トラベルボイスが行なった谷田氏への個別インタビューとあわせて、コンビニの変革から旅行業界との相似性やシナジーを考えてみたい。

オンラインの波で変わるコンビニ業界

無形商品である旅行は、オンライン化が早期に起こった業界の一つ。しかし、有形商品を身近な実店舗で気軽に買えることがウリのコンビニにも、オンラインの影響が波及している。

谷田氏はミニセッションで、「コンビニ創業当初はナショナルブランドが売れ筋だったが、いまはそれに加えてお弁当やおにぎりなどのプライベートブランド商品やチケットを買いに来て頂けるお客様も多い」と、来店客の購買変化を説明。さらに、アマゾンなどのEコマースも市場参入をしてきており、競争が激化していると話す。

WIT Japan2018に登壇した、ローソンのオープン・イノベーションセンター マネージャーの谷田詔一氏

これに加え、オフラインの実店舗が主戦場のコンビニでは、日本の少子高齢化が店舗運営や店舗網の維持で大きな課題になっているという。谷田氏は「事業環境の変化で生じた課題を、IoT、AI(人工知能)、モバイルなどの新しいテクノロジーで解決することができる。加えて、お客様に新しいテクノロジーで快適なお買い物を行って頂きたい。これが、弊社がデジタル戦略を進める理由」と語り、もはやリアルの店舗こそデジタル戦略が今後の成長のカギになっていることを強調する。

ローソンでは、2017年5月に「オープン・イノベーションセンター」を立ち上げ、同10月には品川に「オープン・イノベーション・ラボ」を開設。「ロジスティクス」「アナリティクス」「ロボティクス」の領域に注力しながら、同社の最大のプライオリティである“お客様”に対する新しいショッピング体験の提供を目指す。ラボでは同社のメンバーのほか、パートナー企業なども参加し、新テクノロジーによる商品・サービス開発に着手している。

未来のコンビニでできる体験

では、コンビニの未来の店舗はどうなるのか。谷田氏が、その基盤となるプロジェクトとして提示したのが、電子タグ。経済産業省が旗を振り、他の大手コンビニ、食品・日用品メーカーなどがタッグを組んで、2025年までにコンビニで販売する全商品に電子タグをつけるというプロジェクトだ。

電子タグをつけて情報共有システムで商品を管理することで、在庫情報などを共有できるようになる。これにより、例えば店舗の在庫情報をオンライン上で公開し、消費者が来店前にスマートフォンで目的の商品の有無や価格を確認できるようになる。

さらに、食品などは賞味期限に応じた値引きなど、変動制の価格設定(ダイナミックプライシング)を自動で設定できるようになる。この値下げを消費者が来店前にスマートフォンで確認できれば、購買意欲を喚起できるメリットもある。もちろん、店舗側にとっては、在庫管理や価格管理の自動化により、ラベルの貼り替え作業の省力化とコスト削減が見込める。

これに加え、電子タグをはじめ、AIの搭載やIoT化したデバイスから得られる購買情報は、人口減の時代に「新たな収益源となる可能性がある」と谷田氏。これらのデータに、移動などその他の事業者のビッグデータを加えることで、「広告代理店やメーカーなどに販売できる情報になる」と期待を示す。

デジタルと人の温かみが生む未来の可能性

現在、ローソンの店舗で行なっている主な観光対応は、店頭端末ロッピーでの高速バスや航空券、レジャーチケットの委託販売や、店舗でのインバウンド対応。インタビュー時に谷田氏が、代表的な取り組みとしてあげた回答だ。

このうちインバウンド対応では、空港内や宿泊施設、観光地に近い一部の店舗で、訪日外国人向けの土産品や旅行備品などを意識した商品の品揃えや免税対応を強化しているほか、おにぎりなどのオリジナル商品パッケージの英語表記がある。また、全店舗で中国モバイル決済「アリペイ」にも対応している。一部店舗では民泊などの鍵の受け渡しが出来るキーボックスも設置しており、2019年3月までに100店舗へと広げる方針だ。では今後、デジタル活用で観光分野の対応はどう発展していくだろうか。

谷田氏によると、ローソンとして「未来の店舗づくりを議論する中で、旅行や余暇を楽しむというキーワードは入っている」という。

旅行に限らず、現段階では、どのテクノロジーを取り入れていくのかを検討している段階で、その方向性は、「テクノロジーで現場の負荷を軽減し、お客様にいかにリアル店舗に来たいと思ってもらえる新しいショッピング体験を提供できるか」ということ。「作業効率化」と「リアル店舗での新しい購買体験」の2つを念頭に、次世代店舗を作ろうとしている。

だから、技術的には“アマゾン・ゴー”も可能だが、ローソンでは店舗を完全無人化にしようとはしていない。谷田氏は、「リアルの店舗の強みを突き詰めると、人のふれあいが強み。テクノロジーが進んでも、やっぱり人の温かみのある店舗づくりが重要」と力を込める。



ただし、レジは無人化、品出しはロボットが行なうなど、自動化の流れが進むのは間違いない。その時、人のスタッフができることは、「来店客とのコミュニケーション。例えば、コンシェルジュのようなことがあり得るかもしれない」と谷田氏。

1店舗あたり1日平均800人が購買するローソンでは、全国規模では1日約1000万人とのコンタクトを持つことになる。「地域の生活の接点で、これだけのトラフィックがあるのは強み。様々な業種のカウンター業務を引き継ぐことはあり得るのでは」といい、リアルの店舗の強みを生かした観光案内所などの窓口機能などを担う可能性も示唆する。

すでにローソンでは2017年4月から、銀座の商業施設「GINZA SIX」で、観光案内や免税サービス、手荷物取次や一時預かり、外貨両替などにワンストップで対応するツーリストサービスセンターを各事業者との連携でオープンしており、タビナカの観光客をターゲットとした店舗展開を始めている。

とはいえ、多くの消費者とって、日常使いのローソンといえば街中の従来型の実店舗。観光関連商品との接点はロッピー端末であり、今年から一部店舗でスタートした民泊の鍵の受け渡しも、店内設置のキーボックスを介在とするセルフサービスだ。ここに、コンシェルジュが登場すれば、観光分野の取り組みがより深まるのは間違いない。

店舗運営、維持という共通課題を持つ両業界が、シナジーを考えていく時代になっている。実現には様々な課題があるが、メリットだけを見れば非日常の観光を日常からアプローチできる機会になるといえるだろう。

記事:山田紀子

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