アドビシステムズは2018年9月、デジタルマーケティング・カンファレンス「アドビ・シンポジウム2018」を都内で開催し、アドビ製品を業務に活用しているユーザー企業のマーケティング担当者による最新事例を紹介した。
旅行関連では、オーストラリア政府観光局が登壇し、5年を費やしたデジタル改革の取り組みを紹介。また、アドビのデジタルエクスペリエンス営業本部のマニッシュ・プラブネ市場開発部長は、昨今、世界的に注目が集まるブレジャー(business+leisure:出張の際に観光も楽しむ旅行)市場へのデジタルを活用したアプローチを取り上げた。同カンファレンスは今年で9回目。
オーストラリア政府観光局:デジタル・プラットフォーム再構築の道のり
豪州シドニーから来日したオーストラリア政府観光局のラリッサ・ナリー氏とポール・フレーザー氏は、同局が2013年から取り組んできた「デジタル・トランスフォーメーション」の具体例や効果について話した。同局がまず着手したのは、世界各地のB2B、B2C、旅行業界向け研修制度「オージー・スペシャリスト」など、計130あまり展開しているウェブサイトのコンテンツ統合の作業。事実上、従来の運用モデルをいったん放棄しなければならなかったが、関係者が一貫性ある内容を共有できるようになり、業務の効率化につながった。
続いて豪州路線を運航する航空会社など、パートナー企業と連携したプラットフォームを構築。オーストラリア政府観光局のサイトを訪れるユーザーのアクセス先やページ滞留時間などをアドビのAIが分析し、絶好のタイミングで、関心あるコンテンツへと誘導できるよう「コンテンツベロシティ」強化を図った。
併せて、ユーザーのエンゲージメントの向上につながっているかどうか、数値化した効果測定も常に行っている。レコメンド機能の最適化、サイト上のコピーやバナーのデザイン、キャンペーン効果などについて、ページのオープン率やバウンス率などの反応データをトラッキングしたり、ターゲット市場別のABテストを継続的に実施することが大切と説いた。
主役はSNSへの投稿、ただし選別は必要
SNSの活用は今や観光プロモーションに不可欠な要素だ。1980年代、オーストラリアの広告塔は俳優のポール・ホーガンだったが、昨今は「オーストラリアを旅行した一人一人が、オーストラリア政府観光局のプラットフォーム上で主役になる時代」とラリッサ氏。旅行者が同局に投稿するリアルな滞在体験談や画像を最大限に活用している。
「#seeaustralia」へ寄せられる投稿は1日当たり5000件と膨大だが、アドビのライブ・ファイヤーを活用し、「スマートタグ」でキーワードを設定することで、イメージに合致したコンテンツを短時間で効率的に選び出している。ポール氏は「クリエイティブな消費者のセンスをうまく活かし、リアルな情報を提供することが、ユーザーとの信頼獲得にもつながる」。また同局から情報発信する際は、「言葉遣いもSNSの雰囲気になじむよう、細心の注意を払う」と話した。
一方、アドビのマニッシュ・プラブネ部長は、情報発信が双方向で可能になり、ユーザーの選択肢が飛躍的に増大するなかで、旅行ビジネスにおける顧客ロイヤルティを向上するには、「データとコンテンツ」―データの収集・分析で相手のニーズを把握、それをもとにパーソナライズしたコンテンツを、最適なタイミング、流通経路で提供することが不可欠だと指摘。相対的に「マス(大衆)コミュニケーションや広告の役割は、限定的になっていく」との考えを示した。
ブレジャー旅行者の実像とアプローチ手法
マニッシュ部長は、出張の際に隙間時間などを利用し、観光も楽しむ旅行形態「ブレジャー」に注目すべきと示唆。海外では、社員にブレジャー出張を認める企業は、増加傾向にあるという。
同部長によると、ブレジャー旅行者の特徴は、宿泊や航空券は経費になるため、通常の旅行者よりも「お金の余裕がある」、ただし出張なので「時間の余裕はない」。ブレジャーを楽しめる日程は「3日間」「3日以上」が多く(ブッキングドットコム調査)、例えば出張前後の週末を利用するケースが目立つ。
またエクスペディア・グループ調査によると、ブレジャー出張の目的は、「カンファレンス参加」(43%)が最も多く、次いで「取引先との会議」(34%)、「社員オフサイト」(24%)。マッキンゼー&カンパニーによるアジア市場出張レポートでは、ブレジャー比率は、男性より女性の出張者の方が高かった(女性41%、男性34%)。
そのほか、ブレジャー旅行者の84%は、出張目的地と同じ都市で、レジャーの時間も過ごしている(エクスペディア・グループ調査)。こうした結果から「30代女性がカンファレンス目的で2泊3日する出張、といったターゲット像が浮かび上がる。該当する顧客には、滞在都市内で楽しめるローカルアクティビティやおすすめスポットを提案する、といった追加セールスを検討してはどうか」とマニッシュ部長は指摘。アドビの各種データ分析ツールの活用を提案した。