2019年の「旅行×デジタル」はどうなる? アジアが世界をリードする時代のキーワードを考察 ートラベルボイスLIVE特別版

昨年末、第6回目となるトラベルボイスLIVE特別版「デジタル・トラベル最新動向セミナー」が開催された。「旅行×デジタル2019 何が変わるのか」をテーマにモデレーターとしてトラベルボイス代表取締役の鶴本浩司、パネリストとしてベンチャーリパブリック・グループCEOの柴田啓氏が特別対談を実施。2018年に開催された国際的な旅行デジタルのカンファレンスを通じて最新動向を紹介するとともに、2019年の「旅行×デジタル」を考えるうえでのキーワードを考察した。

スーパーアプリで自社経済圏が拡大

旅行×デジタル関連の国際会議に精力的に出席してきた柴田氏は、2018年を振り返り、「10年ほど前は、欧米から学んでアジアで実践する流れだったが、最近ではアジアから学ぶことの方が多い」と指摘。その最たるものが「Super Apps (スーパーアプリ)」だとし、「この言葉は2018年に出始めた。2019年にはさらに広がるのではないか」と予想する。

代表的なメッセージアプリには、欧米ではFacebook、Twitter、 WhatsAppなどがあり、アジアではLINE、カカオトーク、WeChatなどがある。ただ、柴田氏は「欧米とアジアとではアプリに対する考え方が違う」と言う。アジアでは、メッセージ機能に加えて、さまざまな機能を統合したスーパーアプリが登場。たとえば、WeChatでは、さまざまな旅行サービスが提供されているほか、決済、バイクシェア、中古品なども扱い、アプリ上で巨大な経済圏を構築している。

ベンチャーリパブリックは、LINEと旅行メタサーチ「LINEトラベル.jp」を共同運営しているが、LINEでは、すでにショッピングや決済機能も充実、旅行との親和性も高い。柴田氏は「LINEアプリのプラットフォームでも、タビマエ、タビナカ、タビアトまでいろいろなことができる。タビナカではクーポン発行なども面白いのでは」との考えを示した。アプリではユーザーの現在地が把握できるため、その所在地で使えるクーポンを適時発行できれば、LINEの経済圏が広がることになる。「応用はいくらでもできる」と、LINEのスーパーアプリとしての潜在性に自信を示した。

ベンチャリパブリックグループCEOの柴田氏

注目度がさらに上がるタビナカ・プラットフォーム

いま旅行×デジタルで最も注目を集めているのがタビナカだ。2018年9月にラスベガスで開催されたタビナカ・ソリューションに特化した国際会議「ARIVAL」は、2年目にもかかわらず50カ国から590社が参加したという。柴田氏は「OTAの成長が世界的に鈍化しているなか、最も伸びているのがタビナカ。現地ツアー流通のオフラインからオンラインへの移行が世界中で起こっており、大手OTAも軒並みタビナカに注力を始めた」と説明する。タビナカの老舗Viatorは、今ではトリップアドバイザーの傘下。Airbnbも現地体験のシェアリングサービス「エクスペリエンス」を展開している。

こうしたなか、時価総額1000億円を超えるスタートアップも登場している。

彼らはユニコーンと呼ばれ、その代表格が香港をベースとする「Klook (クルック)」。ここ2、3年で300億円以上の資金調達に成功しているという。「彼らもスーパーアプリでのビジネス展開を考えている」と柴田氏。また、鶴本も、Klookは香港のトラムでKlook専用のレーンを設けるなど独自のサービスで差別化を図っていることを紹介。「日本進出を加速させている」と説明した。

タビナカについては、ライドシェアのUberについても議論。世界各国で規制やローカルの競合他社との競争などで壁にぶつかっているUberは、ライドシェアとは別に出前サービスのUber Eatsで急成長しているという。鶴本は、Skiftカンファレンスでの同社COOの発言として、「Uberのミッションは『モビリティー(移動性)の再定義』にある。Uber Eatsはレストランと自宅との移動性を解決するもの」と紹介した。柴田氏によると、Uber Eatsのユーザーの約4割は、ライドシェアのUberを利用したことがないという。自動運転にも力を入れているUberは今後、タビナカでも移動性を再定義し、新たなサービスを展開するかもしれない。

2019年、スーパーアプリやタビナカに加え、グーグルの動きも注視

2018年の動向を踏まえたうえで、2019年の「旅行×デジテル」のキーワードとして、引き続きスーパーアプリ、モビリティー、タビナカを挙げるとともに、ボイス(音声応答)やグーグル&アマゾンも加えた。

スーパーアプリについて、柴田氏はさらに存在感が増すとしたうえで、アプリはログインした状態でユーザーとコミュニケーションがとれるため、「データ収集力がまるで違う。さらに高度なパーソナライゼーションが可能になる」と発言。さらに、スーパーアプリはポータルサイトの発想とし、「新しいポータルサイトとしての可能性が高まる」と指摘した。

タビナカについては、プラットフォームとしての役割だけでなく、サプライヤーとしてツアーの造成も始めるなど次の段階に進でいるという。ただ、柴田氏は「欧米でも小さなプレイヤーが乱立し、整理されておらず、市場としては発展途上」との認識を示す。鶴本は、グーグルがアメリカのタビナカ・プラットフォームPeek (ピーク)に資本参加したことに触れ、「グーグルもタビナカで動き始めた。今年、この領域のビジネスはさらに加速するだろう」と見通した。

ボイスについては、アマゾンAlexa、グーグルホームなどが市場に浸透してきた。旅行領域でも、AIによるチャットボッドと同様に、スマートスピーカーによる予約、流通、カスタマーサービスなどが行えるようになったが、柴田氏は、「ボイスのみで旅行の予約することにはならないのでは」という国際会議での議論を紹介。予約行動にはスクリーンが必要で、ボイスはその補完的な役割にとどまるのではないかという意見も多く聞こえたという。

グーグルとアマゾンの旅行領域への進出はここ数年、話題の中心になっていると言っていい。グーグルはホテル、フライト、観光地など旅行関連に特化した検索サービスを始めている。「グーグルがOTAになるのではないか」という問いに対して、どの国際会議でもグーグル幹部は口を濁しているようだ。それでも、グーグルの影響力が高まっているのは確かで、「特に欧米では常にグーグル脅威論がある」(柴田氏)。また、鶴本は「ホテルのレビューでもグーグルではいろいろな角度から入ってくるため、ホテルサイドの評価は高い」と付け加えた。

トラベルボイスの鶴本氏

アマゾンについても、旅行領域への参入の話が頻繁に出るが、柴田氏は「アマゾンのビジネスが旅行領域にどれほど有利性があるか疑問」だとする。アマゾンの強みは、膨大な商品を倉庫で抱えているところ。「旅行は目に見えない商品だから難しいのではないか。参入するとすれば、その方法が課題になるだろう」との見解だ。

アジアが世界をリード、2019年は「中国に学ぶ年」に

2019年の旅行×デジタルはどういう年になるのか。柴田氏は、改めてスーパーアプリの存在に触れ、「アジアが世界を引っ張る」と予測。そのなかでも、アリババやテンセントの巨人企業以外にも興味深いアプリやサイトが出てきている中国に注目し、「日本をはじめ世界が中国からどれだけ学べるかという年になる」と示唆した。

この波を大手OTAも注視しており、ブッキング・ドットコムは東南アジアでライドシェアを展開するGrab (グラブ)や中国のライドシェアDidi (ディディ)に出資。アジアでのプレゼンスを高めようとしている。

ただ、柴田氏はひとつ気になることとして、「2019年は投資環境が厳しくなるのではないか」とも予測。特にスタートアップ企業による資金調達は以前に比べると難しくなるのではないかと付け加えた。

鶴本は、アメリカのライドシェア事情について言及。Uberが市場を独占しているように見えるが、実は西ではLift (リフト)の方がユーザーは多く、東ではJuno (ジュノ)の方が支持を受けているとしたうえで、「後発企業による下剋上は大いにあり得る」と話し、2019年の旅行×デジタルの動きにも耳目が集まると議論を締めくくった。

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