テクノロジー×旅行の国際会議「WiT Japan 2019」が、2019年7月4日、5日に開催された。今年から1.5日に拡張したメインカンファレンスでは、OTAや宿泊、航空など既存のプレイヤーから、新たな観光サービスを提案する新規参入者まで、80人以上のキーマンが登壇。今年のテーマである「Through the Looking Glass」の通り、旅行・観光産業の多様化と加速度的な変化を見通すための、示唆に富んだカンファレンスとなった。
冒頭の挨拶では、WiT Japan実行委員責任者の柴田啓氏(ベンチャーリパブリック代表取締役社長CEO)と浅生亜也氏(サヴィーコレクティブ代表取締役社長)が登壇。柴田氏は、アジア太平洋地域旅行予約のモバイル比率が50%に高まるなか、特に東アジアは“スーパーアプリ”で世界を牽引するとし、メッセージアプリのLINE(日本)、WeChat(中国)、KAKAO(韓国)の3社あわせた航空、ホテル、ツアー予約は毎日、数百万件以上を生み出しているとの推計を披露。活躍するプレイヤーが多様化と同時に革新的になっている状況を説明した。
WiT創始者のイェオ・シュウ・フーン氏は、フォーカスライトの「APACオンライントラベルオーバービュー2019」に基づき、世界の旅行市場の動向を説明。増加を続けるグローバル市場の牽引役をアジア太平洋地域が担い、同地域のオンライン予約が2021年に半数を超えるという予測のもと、OTAなど仲介業者にもアドバンテージがあるとの見解を示した。
また、モバイル予約は「大変革の武器」とその重要性を強調。2018年にオンライン予約の半数を占めたモバイル予約は、2022年には65%にまで高まるといい、「従来型のトラベルプレイヤーは変化を迫られている」と警鐘を鳴らす。
さらに、マーケットは「グローバルの“象”と、資金豊富なローカルの“虎”に分かれ、細分化されている」と言及。旅行業界と他業界からの競合の境界が「ぼやけてきている」とも述べ、注目のスーパーアプリではメッセージアプリに加え、東南アジアのライドシェア大手「グラブ」が、スーパーアプリ化していることも紹介。グローバルOTAの支援を受けていることから、「そのうち、航空やタビナカに入ってくる」と旅行分野での本格展開も展望した。
日本のスーパーアプリ、LINEの戦略
注目のスーパーアプリでは、日本からLINE社が登壇。トラベル事業を管轄する執行役員O2O/コマース事業統括の藤井英雄氏は、「ユーザーの認証を受けて使える位置情報が、LINEのこれからの強みになる」と話し、月間8000万人のユーザーに1つのアプリ内で各種サービスを完結し、日常的な接点を設けられるLINEの強さと可能性を強調した。
具体的には、O2O(コマース領域)では、提供するショッピング、飲食、トラベルにおいて、それぞれオンライン完結型とオフライン送客の2つのサービスを展開していることを説明。例えばショッピングでは、オンライン上の「LINEショッピング」での購入と同じように、実店舗の買物でポイントが得られる「SHOPPING GO」を提供し、OMO(オンラインとオフラインの融合)による送客に務めている。
同様にトラベル事業では、オンライン上の旅行比較「LINEトラベルjp」に加え、先ごろ旅行中のユーザーに現在地周辺のレストランやアクティビティ検索を提供する「おでかけNOW」を開始。同時に、提供サービスを従来のタビマエの旅行予約からタビナカへと対象を広げた。
藤井氏は、日本の旅行市場規模を25兆円の「ビッグマーケット」とし、市場全体にあたるタビマエからタビアトまで、一気通貫のサービス提供を目指す方針だ。
グローバル化と日本
また、今年のWiT Japan では注目のタビナカからマーケティング、インバウンド、MaaSなど、ホットなテーマで議論を展開。日本に対する世界の注目の高さと、日本と世界とのギャップを登壇者の言葉から感じられることが多かった。
例えば、決済に関するセッションでは、エボラブルアジア取締役CMOの松濤徹氏が、PayPayやLINE Payなど日本の6社が展開してきたポイント還元やキャッシュバック等の各種キャンペーンを説明。それに対しては「これで持続可能なのか」という外国人登壇者の驚きの声の中が起こり、オンライン決済・ストライプの日本カントリーマネージャー、ダニエル・ヘフェルナン氏は「非常に興味深く見ている」と、日本の“キャッシュレス決済戦争”の展開に関心を示した。
今年初のテーマとなったダイバーシティのセッションでは、日本での仕事の障害について「意思決定において、根回しというものがある。あまりに民主主義的で時間がかかり、前向きな結果を生まない」(ダービーソフトのアジアパシフィック・リージョナルディレクター・ビジネスディペロップメント、パルサ・ボンマタパリー氏)と、グローバル企業とのスピード感やリーダーシップの在り方への違いに対する率直な意見も。
このほか、多様化する宿泊施設では「商品の性質が変わり、宿泊施設の再定義が起こっている」(アゴダのコーポレートディベロップメント・バイスプレジデントのティモシー・ヒューズ氏)との指摘もあった。民泊はもちろん、ホテルや簡易宿所など既存のカテゴリーでも、様々なタイプの宿泊施設やそれに付随する新たなサービスが誕生。京都の街で新コンセプトによる「分散型ホテル」を展開するアンゴホテルズ代表取締役社長の十枝裕美子氏は、「既存の宿泊施設は、新しいニーズにマッチしていないものも多い」と、マーケットに沿った結果でもあることを強調した。
なお、今年のWiT Japan2019では新たな取り組みとして、WiTのイベントアプリが登場。来場者限定公開の同アプリでは、プログラムの案内と聴講予定のセッションを登録できるマイスケジュールの設定から、セッション中の質問投稿も可能とした。来場者同士でアポイントができるマッチング機能も設けており、カンファレンス会場外でのミーティングでも、盛り上がりを見せた。
記事:山田紀子