観光地域づくりの幹部認証の制度「CDME」とは? その中身と研修手法【コラム】

DI年次総会でのCDME 卒業式

こんにちは。DMOコンサルタントの丸山芳子です。

米国のDMO最大の業界団体であるディスティネーション・インターナショナル(DI)は、サーティファイド・ディスティネーション・マネジメント・エグゼクティブズ(CDME)という人材育成制度を整備しています。日本語に直訳すると、「観光地域づくり幹部認証(制度)」。約20年前に創設されて以来、約400人がCDMEを取得(2019年7月時点)し、私は現在、CDME研修を受講している唯一の日本人です。今回のコラムは、米国のDMO幹部に大人気のCDMEについて、取得によってどんなメリットがあるのか、研修のどこが優れているかを詳しくご紹介します。

アメリカ人は意外に資格好き?

CDMEとは、DMO幹部を対象とした資格制度。そのため、申し込み時点で、経理・財務、マーケティング、人事、戦略策定といった13項目の経験を、5段階の自己評価で提出する必要があります。評価結果によって受講を断られることはありませんが、研修はマネジメントの基本的な知識を前提としているといえます。

幹部クラスが期待する研修を行うために、費用も安価ではありません。資格取得要件の研修をすべて受講するには、DI 会員で7500ドル(約82万円)、DI 非会員で1万1260ドル(約123万円)となっています。参加へのハードルが高くても、CDMEの研修はとても人気で、申し込み開始とともに即定員に達するほど。では、米国の参加者はどうしてCDMEを目指しているのでしょうか。複数にインタビューしたところ、いくつかのパターンがありました。

まず、DMOの費用負担で受講が推奨されているパターン。規模が大きいDMOなどでは、複数人が同時受講しています。小規模のDMOは、CEOなどが自らの権限で決定したり、部長クラスでも上長にかけ合って受講の許可、研修費用を捻出してもらっている人もいます。いずれも、CDMEはDMO幹部の能力開発に大きな成果があると広く認知されているからです。取得すると、名刺に肩書として表記することができます。CDMEが履歴書に記載されていると、DMOに関する高い専門性を持っていることを示すだけでなく、能力開発に意欲的であることをアピールできます。

DMOの幹部は、かつて地域の観光関連企業を引退した人の名誉職として扱われた時代もありましたが、現在は違います。ディスティネーション間の競争激化に伴い、求められる人材の専門家、高度化が進んでいます。DMOにとって優秀な幹部人材は不可欠で、ふさわしい人材の採用が求められています。応募側も有利な条件でキャリアアップできるよう、CDMEを取得し自己研鑽をしているのです。

幹部にさまざまな経歴から採用

ちなみに、受講者には大学でホスピタリティ関連分野を専攻した人はあまり多くないようです。私が以前参加したクラスで講師が質問したところ、ホスピタリティ分野専攻だった受講生は約40人中2名だけでした。米国でもDMOという業態への転換が約20年前だったことから、現在の幹部クラスが学生時にDMOで働くというキャリアを想定していなかったことがうかがえます。

実際、DMO幹部の前職には、企業などでのマーケティング責任者、雑誌の編集などさまざまな職種があります。DIの現在のCEOであるドン・ウェルシュ氏は、2016年に現職につきましたが、大学卒業後の最初の就職先は航空会社でした。その後、ホテル業界、プロスポーツクラブなどさまざまなキャリアを経て、シアトルやシカゴなどのDMOを複数経験しています。米国DMO幹部には、ホテル業界出身者が比較的多い印象もあり、ホテル業界はDMOの隣接領域のようです。これは米国のDMOがコンベンション・ビューローから発展した歴史的経緯が影響しているかもしれません。

DMO人材の状況は国によって違います。DMOへの就職はホスピタリティ専攻だという国もあります。ただ、米国がDMO幹部に多様なキャリアの人材を活用しているという状況は、DMOが始まったばかりの日本でも参考になるのではないでしょうか。

CDMEの授業風景。講師はDMO現役幹部や経験者

研修の質を高めるガバナンス

DIでは、CDMEの研修の質を高めるためにガバナンス機構も整えています。本体の理事会とは別に、CDME理事会を独立した機関として設置。これらの理事が、カリキュラムなどの検討、承認を行っています。CDME理事会は理事12名で構成され、任期3年、再任1回の規定です。理事は、DMOだけではなく、観光関連の産業界、大学などの学術界などから選出されています。

CDMEのカリキュラムは随時改訂されています。2017年にも見直しがあり、従来の内容とのギャップ分析で、産業界のニーズに不足している項目、必要性が低くなった項目を明らかにしました。CDMEの高い品質が広く評価されている背景には、研修内容を最新の事情に対応させることで、本当に実践的で役に立つことが担保されているからだと思います。

双方向性が高い研修形式

CDMEの研修は、ケーススタディ、ワークショップの演習、アイデア交換、ビデオ、そして小グループでのディスカッションを組み合わせた、非常に双方向性が高いセッション形式が特徴です。講師は、現役のDMO幹部が担当することがほとんど。講師には、研修の中で自らが取り組んだ事例や、実際に体験している最新の情報を提供することが推奨されています。

私が2018年に受講したディスティネーション・ブランディングの科目では、DMO幹部である講師から自身のDMOでの取り組みが説明されました。その上で、受講生に対して「さらに良くするには、どういった工夫ができるか」と問いかけます。すると、受講生側から「地域向けの説明は、冊子を配布するのではなく、動画を使った方が受け入れてもらいやすいのではないか」など、さまざまな意見がでてきます。受講生はこのようなやり取りを通して、新しい、効果的な方法を理解していくのです。

ディスティネーションの状況は多様であり、観光に関する変化が早い現状では、講師が100%の正解を提供することは不可能です。そのような制約の中では、受講生が主体的に参加するCDMEの研修のあり方はとても有効性が高いといえます。

このようにCDMEが高く評価される背景には、研修制度自体をバージョンアップさせていく仕組みと、受講生との双方向性が高い研修手法があります。日本でもDMOの人材育成の参考にするとよいのではないでしょうか。

講師は受講者からの発表をまとめながら、双方向形式で進行

丸山芳子(まるやま よしこ)

丸山芳子(まるやま よしこ)

ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント、中小企業診断士。UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。DMO業界団体であるDestination International主催のDMO幹部向け資格「CDME(Certified Destination Management Executive)」の取得者。企業勤務時代は、調査・分析、プロモーションなどの分野でも活躍。

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