世界のホテル各社が「衛生対策」で旅行者獲得へ、営業再開のマリオットやヒルトンが始めたこと、やめたことは?【外電】

(写真:AP通信)

グローバルホテルチェーン間の競争といえば、これまでは価格や会員向け特典が中心だったが、パンデミックを機に、各社が目下、フォーカスしているのが清掃や消毒など、館内の衛生対策だ。広告やプロモーションでも、洗剤など衛生商品メーカーと組んだ対策をそれぞれアピールしている。AP通信が世界の状況を報じている。

ホテルデータを提供するSTRによると、米国市場の客室稼働率はまだ低迷している。5月30日までの一週間平均は、前年同期が43%だったのに対し、2020年は37%。とはいえレジャー目的の旅行者が動き始めるなか、ホテル側は、利用客の不安を払しょくする手段として、衛生基準の向上に力を入れている。さらにエアビーアンドビーなど、民泊に流れた顧客を取り戻す一策にもなればとの考えだ。

ヒルトンのグローバルブランド開発責任者で、新しい清掃基準の策定を担当したフィル・コーデル氏は、消費者側がかつてないほど「(旅行を再開して)大丈夫だというお墨付き」を必要としているとの見方だ。

ジョージ・ワシントン大学のホスピタリティ・マネジメント専門家、ラリー・ユウ教授も「今や、あらゆる企業が取り組んでいることで、消費者からの要望が強い」とする一方、どこまで厳格に運用するかは、ブランドによって温度差があると指摘する。同教授によると、例えば仏アコーホテルズでは、清掃に関する認証基準を新たに設け、これを満たさないと傘下ホテルは営業を再開できない。

宿泊客の目から見ても、ホテルの変化は明らかなようだ。会社役員のデビッド・ホワイトソック氏は最近、米国デンバーからニューヨークまで旅行し、途中でオハイオとアイオワのマリオット系列ホテルを利用したが、これまでとは様子が違った。

アイオワのホテルでは、警察の侵入禁止テープがフロントデスクに貼られ、客室に入る際はキーカードを使った。もっとも同氏は、(携帯端末に入れてある)マリオットのアプリを使って入室する方がよいと感じたそうだ。

ホワイトソック氏は、食べ物も自分で用意していたが、以前はビュッフェ・テーブルだったところにパッケージ包装した朝食が並んでいた。客室は、見た目も匂いも、これまでよりずっと清潔な印象で、宿泊客は全員、マスクを着用。お互いに距離をとるよう気をつけていた。

「これなら安全だと思った。今の状況下で、可能な対策はすべて実施されているようだった」とホワイトソック氏。「結局、ホテルと自分の周りにいる人たちを信頼できるかどうかだ」と同氏は感じている。

だがホテルがどんなに警戒しても、やはりリスクは残ると指摘するのは、イェール公衆衛生大学院の疫学・医療専門家、アルバート・コウ教授だ。ホテルには、感染が拡大している地域も含め、様々な場所から利用客がやってくる。その上、感染者の多くに目立った症状はないため、「アウトブレイクの温床になる危険は常にある」(同教授)。

こうしたなか、大手ホテルチェーンの多くが、専門家の意見を取り入れて新しい衛生基準を設けている。ホリデイインなどを展開するIHGやマリオットは、産業用の清掃用品メーカー、エコラボ(EcoLab)社と連携。IHGでは、クリーブランド・クリニックの医療関係者からもアドバイスを受けている。同様にヒルトンはマヨ・クリニックから、ハイアットは清掃業界のグローバル団体、ISSAから協力を得ている。

見直しの対象となるのは、ホテル施設における、あらゆる接触だ。ヒルトンでは、シャトルバスを一時間ごとに消毒、利用客向けには消毒ティッシュを用意。ラスベガスのMGMリゾーツ系列ホテルのレストランでは、利用客それぞれが、自分のスマホ経由でデジタル版のメニューを見る方式を採用した。

客室内では、テレビのリモコンや電気スイッチ表面の清掃が強化されている。ベストウェスタンでは、装飾用の枕やペン、その他、実用性のあまりないものは置くのをやめた。レッドルーフではウイルス拡散を防ぐため、清掃スタッフにシーツを客室内で丸めて袋詰めするように指示している。ヒルトンでは、清掃・消毒を完了した客室ドアにステッカーを貼り、そのあとチェックインまで誰も入っていないことが利用客に分かるよう工夫を凝らす。

食事する場所は、屋外にした方が感染リスクは低く、エレベーターなど屋内のせまい空間では、収容人数を減らすべきだとコウ教授は指摘する。マリオットではレストランやジムの利用人数を制限し、エレベーター内では人と人との距離を確保できるよう対応する。 

一方、ヒルトンのコーデル氏は、プールやフィットネスセンターについて「利用客が日常生活を取り戻す上で不可欠なもの」との考えから、定期的な清掃に力を入れつつ、施設はオープンする方針だ。

清掃作業の拡大に伴い、テクノロジー活用も進んでいる。マリオットを含む複数ホテルでは、静電気式スプレーを導入し、ロビーなどの消毒作業を行っている。客室のロック解除には、宿泊客が自分のモバイルを使う方法を推奨しているホテルが多い。ヒルトンでは現在、計6100軒のうち4800軒のホテルでこうした機能を導入済み。マリオットでは3200軒でカギなしでのチェックインが可能になっている。

エアビーアンドビーのブライアン・チェスキーCEOは、民泊の優位性を指摘、人がたくさん集まるホテルよりも、個別の建物に泊まれる方をゲストは選ぶだろうと話す。同社でも、エコラボ社や米公衆衛生局長官を務めたヴィヴェク・マーシイ博士の協力を受けながら、清掃のレベルアップに取り組んでいる。

ただし、各宿泊施設が厳格化した清掃の基準をきちんと守るかどうかは、また別の話だ。ユウ教授は、ホテルチェーンの場合、フランチャイズ契約を結んだ相手をチェックできるが、エアビーアンドビーの場合、新しい基準を作ることよりも、これを各施設オーナーに遵守させることの方がずっと大変な作業になるのではと話した。

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