約160カ国・地域が参加する2025年大阪・関西万博が2025年4月13日、いよいよ開幕する。「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマだが、すべての命が輝く未来に向けてどのようなアイデアが示されるのか。開幕直前の4月9日、会場の大阪・夢洲でおこなわれたメディア向けの内覧会では、各国・地域が独自の視点で未来の社会や技術、文化を表現する海外パビリオンや日本の文化を世界に示す民間パビリオンなどが公開された。その見どころをレポートする。
EUパビリオンのテーマは「未来を育む」
日本で初めて万博が開かれた1970年の大阪万博から55年。再び大阪で万博が開かれる。2025年大阪・関西万博は、10月13日までの会期中の来場者数2820万人、経済効果3兆円を見込む一大イベントだ。
会場全体の広さは東京ドーム約33個分の約155ヘクタール。万博のシンボルである高さ約12メートル(外側は約20メートル)、幅約30メートルの世界最大級の木造建築である大屋根(リング)の内外にパビリオンが配置されている。
海外パビリオンはリングの内側にある。どの国・地域のパビリオンも外観からユニークで、眺めているだけでわくわくする。その中の一つ、欧州連合(EU)パビリオンは、「新欧州バウハウス」の3つのコンセプトである「持続可能性」「美しさ」「包摂性」からインスピレーションを得たデザインとなっている。
日本の絵馬や折り紙の精密さからインスパイアを受けたという外観は、回転する花びらのようなモジュールで構成。素材には持続可能な竹を使用している。
欧州連合(EU)パビリオンの外観。回転するモジュールで構成されている
パビリオンでは、27の加盟国が「未来を育む」をテーマに描いた未来のビジョンを体感できる。葉っぱをなでると、後ろの画面に映し出されたデジタル植物に新しい枝葉が形成され、EUの持続可能な農業や食品安全などに関する情報が浮かび上がる植物や、近づくと丸いテーブルに敷かれた砂に石庭のような模様を描くロボットアームなどが展示されている。
丸いテーブルに敷かれた砂に模様を描くロボットアーム
EU副代表のコンチャ・フェルナンデス・デ・ラ・ブエンテ氏は「来場者がコンテンツに触れ、関わることによって私たちの姿勢を理解してくれると期待している。このパビリオンがEUに訪ねていただくきっかけになればいい」と話した。
夢のある演出が魅力、シンガポールパビリオン
シンガポールパビリオンは、約1万7000枚の赤いうろこのようなディスクに覆われた高さ17メートルの球体「ドリーム・スフィア」(夢の球体)が目を引く。シンガポールの愛称「リトル・レッド・ドット」に由来しているという。
パビリオンは「ゆめ・つなぐ・みらい」がテーマ。3つの章建てでシンガポールの「夢の物語」をたどる。第1章では、かつてのシンガポール人が夢見た理想の都市を実現するまでの道のりをアニメーションや切り紙を用いたアートで表現。第2章では、都市と自然との共生を示した。サウンドアートも登場し、光と音の幻想的な演出が繰り広げられる。
シンガポールパビリオンの外観。夜はライトアップされて幻想的だ
特に目を引いたのが、第3章の「ドリーム・リポジトリ」(夢の集まる場所)。来場者が思い思いに描いた夢が、次の部屋の天井のドーム型のスクリーンに映し出され、自然やまちを形づくっていく。人々が夢を見ることを後押しし、よりよい未来への共通のビジョンを作っていく旅を表現した、非常に夢のある演出だ。
思い思いに書いた夢が、次の部屋でまちを形づくっていく
宇宙への移動を体感できるガンダムパビリオン
日本の文化を世界に発信するパビリオンとしては、バンダイナムコホールディングスが出展する「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」も外せない。日本を代表するアニメの一つ、ガンダムシリーズの世界観を体感できるパビリオンだ。
高さ約17メートルの実物大ガンダム像。近くで見ると非常に迫力がある
未来のスペースエアポートをイメージした建物の前では、片膝立ちで腕を上げた約17メートルの実物大ガンダム像がお出迎えする。このポーズには「未来を見据え、人類とともに新たな宇宙時代を切り開いていく」というメッセージが込められているという。
この日は開館式がおこなわれた。同社の代表取締役社長、浅古有寿氏が「ガンダムを通して世界中の人々とつながり、ともに未来を考える場となることを目指している」とあいさつ。「世界中の人々、特に未来を担う子どもたちに、新しいテクノロジーや宇宙に興味、新たな夢を持てるきっかけになれば、こんなにうれしいことはない」と期待を込めた。
パビリオンでは、ガンダムシリーズが描いてきた「宇宙の暮らし」や「まだ実現していない科学技術」を、臨場感のある新作映像『GUNDAM: Next Universal Century』を公開。2150年を想定した世界で、大阪・夢洲の「夢洲ターミナル」から軌道エレベーターで宇宙ステーション「スタージャブロー」までの移動を体験できる。映像では、背中部分にソーラーパネルの翼「グラスフェザー」を装備したガンダムや、さまざまなモビルスーツ、新デザインのハロが登場。没入感のある映像や仕掛けは、一見の価値ありだ。
没入感のある映像が楽しめる「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」
初公開の「空飛ぶクルマ」、「まずは知ってもらいたい」
内覧会では、次世代の移動手段として注目されている「空飛ぶクルマ」の機体や技術も公開された。万博では来場者を乗せずに飛ぶ「デモ飛行」がおこなわれる予定だ。
運行事業者の1つであるSkyDrive(スカイドライブ)は、「空飛ぶクルマ」の機体を展示。実物大のモックアップも展示し、来場者向けに搭乗体験もおこなう。代表取締役CEOの福澤知浩氏は「空飛ぶクルマは今回の万博で初めて公開される。訪れる人に機体を見て、モックアップに座ってもらうなどして、まずは知ってもらいたい」と意気込みを語った。
「空飛ぶクルマ」の機体も初めて公開される
世界各国・地域が最新の知見や技術を駆使して描いた未来社会のアイデアが詰まった大阪・関西万博。会場内は広く、パビリオンもバラエティに富んでいるため、1日ではとても見きれない。期間中は、連日、ナショナルデーが設定され、各参加国が日替わりで自国の文化を発信するイベントも開催される。
まずは一度、会場を訪れ、未来社会の一端を五感で感じて、触れてみてほしい。大人も子どもも、それぞれの未来へのヒントがみつかるはずだ。
会場をぐるりと囲む万博のシンボル、大屋根(リング)
取材・記事 ライター 南文枝