移動困難者も楽しめる万博への挑戦、支援サービス「LET'S EXPO」の開幕直前の研修会を取材した

健康な人も体の不自由な人も、誰もが楽しめる大阪・関西万博を実現しようと、関西イノベーションセンター(MUIC Kansai)らが進めている「LET'S EXPO(レッツエキスポ)」プロジェクト。万博の運営参加(会場内アクセシブルサポート業務)サプライヤーとして、2025年4月から10月までの開催期間中、体が不自由な人や視覚障害があるなど自力での移動が難しい来場者の会場内での移動を支援する「会場内サポート」や、遠隔地からのオンライン参加支援に取り組む。

有資格者と補助者の2人体制で移動をサポート

MUICは、三菱UFJフィナンシャル・グループと三菱UFJ銀行が開設した、新しいビジネスの創出や社会実装に取り組むイノベーション創出拠点。「LET'S EXPO」は、MUICと介護施設向けに旅行サービスやオンラインツアーサービスなどを展開する東京トラベルパートナーズ、住友電気工業がタッグを組んだプロジェクトだ。公益財団法人日本財団ボランティアセンターや社会医療法人 愛仁会なども参画してサービスを提供する。

「会場内サポート」については、万博への2820万人の来場が想定される中、「自力での移動が難しく、行くことをあきらめている人がいるのではないか」と考え、移動支援を行うこととした。体が不自由な人や視覚障害がある人を対象に、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)以上の福祉介護資格を持つ介助者と研修を受けた補助者のボランティアスタッフ2人体制で、車いすを押す、歩行の際に誘導するなどして安全でスムーズな移動をサポートする。

スタッフは日本語で案内する。基本的には会場内での移動のサポートや見守り・付き添いが中心で、それ以外の食事やトイレなどの介助、パビリオンの詳しい解説などのガイドはおこなわない。利用者が予約しているパビリオンなどに同行するが、予約していない場合や、どこを回るか決めていない利用者向けのモデルコースも準備している。スタッフはボランティアだが、利用者はスタッフの活動費として4000円(2000円×2人分)を負担する。

MUICは2025年3月24日から「会場内サポート」の予約受付を始めた。万博開幕後の4月17日から、週1回の頻度でサービスを提供する。会期前半の6月末までは実施日が決まっており、希望者は提示された日程の中から選んで予約する。4月から5月はテスト期間とし、利用者の反応を見てサービスを改善していく。利用を検討している人向けには、定期的にオンライン説明会もおこなう。会期中に延べ1万人の利用を見込む。

ボランティアに対面やオンラインで研修会を開催

「会場内サポート」のボランティアスタッフには、全国から約1000人が集まった。対面やオンラインでの研修を受けて本番に備えている。2025年3月23日に大阪市住之江区の森ノ宮医療大学キャナルポートで開かれた対面での研修会には、このうち約150人が参加。愛仁会のスタッフや同大学作業療法学科の教員などの専門家から、車いすの操作方法や視覚障害のある人への適切な誘導の方法、介助で気を付けるポイントなどを学んだ。

研修会で車いすの操作方法について学ぶ参加者ら

研修会では、車いす利用者と視覚障害のある人、いずれの場合も相手の意向を確認し、「右に曲がりますね」「前を車が通ります」などと声をかけてから動作に移ることを基本とすることや、車いす利用者には体勢を低くして目線を合わせて話しかけることなどを指導。参加者は車いすに乗って屋外の段差のある場所や坂道を移動する、アイマスクを着けた状態で階段を下りるなど介助される側の立場も疑似体験し、介助への理解を深めた。

車いすを押すのには慣れていても、ほとんど乗った経験がないという50代の女性は「車いすに乗って1センチ、2センチの段差を進むだけでも怖かった。万博に来られた方に安心して楽しんでもらえるよう声かけなどに気を付けたい」と話した。アイマスクを着けた状態で介助されながら歩く体験をした20代の女性は「1人でいると、自分がどこにいるのか分からず不安になった。介助する時はしっかり声をかけて適切なタイミングで伝えたい」と感想を話した。

介助される側がアイマスクを着け、階段を下りる動作を疑似体験する

「万博後も持続可能な形に」

「会場内サポート」については、介護施設や病院、個人などから問い合わせが寄せられているという。「LET'S EXPO」プロデューサーで東京トラベルパートナーズ代表取締役の栗原茂行氏は「介護現場などでは人手が足りず、多くの方を外出に連れていけません。しかし、私たちが現地で車いすを一緒に押すとなれば連れていく人数を増やせるのではないでしょうか。個人の方からは『高齢で長時間歩くことが難しい両親を連れていきたいが、自分は介助の経験がない。移動支援サービスがあるのなら利用したい』という声があります」と話す。

「LET'S EXPO」のプロジェクトリーダーでMUICシニアマネージャーの村上弘祐氏は「ボランティアの方たちから意識の高さ、やる気が感じられて非常に心強い」と研修を積み重ねてきた手ごたえを感じている。「ボランティアの方々からいただいた意見などを反映して、サービス内容をアップデートできています。やる意味は絶対あるサービスだと思いますので、本番でも、これまで準備してきたことをしっかり実践していきます」

研修会であいさつする「LET'S EXPO」のプロジェクトリーダーでMUICシニアマネージャーの村上弘祐氏

万博ではボランティアでサービスを提供するが、そこで得られた経験は、今後の事業展開にもつながっていく。

「半年間やってみて、お金を払ってでもこうしたサービスを受けたいという需要が多ければ、大きなイベントや遊園地、観光地に移動をサポートするスタッフが常駐し、有償でサービスを提供するという形も考えられます」と栗原氏。村上氏も「プロジェクトを通して約1000人のボランティアの方とのつながりができ、今後は利用者の方ともつながれます。万博を良い意味での実証実験の場と捉え、これらのアセットを大事にしながら、万博後も持続可能な形にできるよう検討したいです」と意気込む。

間もなく万博が開幕する。会場での移動をサポートするサービスがあることは、体の状態から万博へ行くことをためらっている人や、同行者の介助に不安を抱えている人にとって、大きな安心につながる。現地でのサポートが安全かつスムーズにおこなわれ、今後の大規模イベントや観光地でのユニバーサルツーリズム、アクセシブルツーリズムへのレガシーとなっていくことを期待したい。

取材・記事 ライター 南文枝

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