世界大手ホテル5社の成長戦略とは? 決算書から新たな開発案件を比較してみた【コラム】

2024年12月期の世界大手ホテル5社(マリオット、ヒルトン、IHG、アコー、ハイアット)の決算情報によれば、いずれの企業もコロナ禍以降の新規開発を大きく加速させています。各社の総客室数と2024年の増加を見てみましょう。

首位のマリオットは、世界で9300軒超のホテルを運営し、客室数は170万6000室ほどに達しています。2024年には、10万9000室(6.8%増)の純増を記録し、過去最高水準の開発規模を誇ります。このうちリブランド(他社ブランドからの転換)によって開発されたのは契約客室数の3分の1以上、客室増設数の半分以上を占めています。

(注)2024年12月末現在。(出所)会社資料を基に筆者作成続くヒルトンは、2024年中に客室数が9万8400室増加、その成長率は7.3%増と5社の中でもトップクラスの伸びです。合計客室は120万室を超えており、アジアや中東、欧州での高級ブランド展開にも積極的しています。

IHGは世界で約6600軒、98万7000室規模に達しています。新たな開発・開業による増加数は、4万室強(2024年末時点)と報じられています。通年で5万9100室を開業し、ネット(純増)で4.3%の客室増。ホリデイ・インやクラウンプラザなどのミッドスケールからプレミアム層まで幅広く展開しています。

アコーは、世界で6629軒、約85万室を保有。新規で5万室超を開業し、ネットワークは3.5%増と成長しました。フランス本社の同社はヨーロッパおよび新興国に強みがあり、今後もプレミアム領域「PM&E」とラグジュアリー&ライフスタイル「L&L」の両翼をさらに拡大する計画です。

ハイアットは第4四半期(2024年10~12月期)だけで2万2600室を開業するなど勢いがあり、通期で7.8%前後の客室純増を達成しました。ライフスタイルブランドや高級リゾートへの注力で他社との差別化を進める方針を表明しています。

大量のパイプライン(開発計画)が続く

各社の客室数のグラフを見ると、2024年の伸びもさることながら、今後の開発計画である「パイプライン」の多さが目につきます。マリオットのパイプラインは約3700軒・57万7000室で、そのうち55%が北米以外の海外市場で占めています。

ヒルトンは3578軒・49万8600室のパイプラインで、世界118か国に拡大する予定です。ウォルドーフ・アストリア大阪が4月に開業しますが、世界でも同ブランドやコンラッドなどの高級ブランド展開を強化していく方針です。

IHGは32万5000室のパイプラインがあります。アコーも23万3000室のパイプラインを有し、年間3万~5万室ペースでの開業を狙っています。また、ハイアットは13万8000室(720軒)のパイプラインを開示しています。

各社ともホテル数・客室数を着実に増やしており、パイプラインについても世界中の主要都市やリゾート地を舞台に熾烈な競争が繰り広げられています。大きな特徴としては、やはり、リブランドの増加が挙げられます。オーナーが既存ホテルを改装して別ブランドに転換するケースが増えているのです。

また、「多様なブランドを抱え込む総合力」と「独自性を追求するライフスタイルブランド」の両輪を使って、より多くのゲストとホテルオーナーを取り込もうという戦略が鮮明です。北米(アコーはヨーロッパ)を中心とした強固なフランチャイズ網をベースに、ヨーロッパやアジア、中東での高級・ライフスタイル路線を同時に拡充していく姿勢が、今後の市場シェア拡大につながるとみられます。

最終的に、どの企業も今後数年で年平均3~7%台のネットワーク拡大を維持すると見込みで、「ホテル数」「客室数」「パイプライン」はまだまだ増える余地があると言えます。旅行需要がさらに多様化する中で、ブランドポートフォリオの充実度がますます差別化のカギを握るでしょう。

また、大量のパイプラインは、すべてが2025年中にオープンするわけではなく、中長期的な収益基盤の拡大を担保しています。基本的な経営指標である「販売可能な客室1室あたりの収益(RevPAR/客室売上高÷提供可能客室数)」が大きく上昇しなくても、規模の拡大で収益成長が実現できると予測されるため、価格競争力を保ちながら増益を狙う戦略が増えそうな気がしています。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてエンタテインメント、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「会社四季報オンライン」編集部。著書に「1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常」(東洋経済)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。

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