EYストラテジー・アンド・コンサルティングのストラテジック インパクト パートナーである平林知高氏が、2024年を迎えるにあたって年頭所感を発表した。
平林氏は日本の観光の現状について、人手不足の問題も挙げ、効率化、省力化にはデジタルの活用が急務であると述べた。また、オーバーツーリズム対策もデジタルによって可視化される地域の状況が観光客の量を見極める指標となり、これをもとに観光地の「量と質のバランス」を図っていくことが健全な経済成長につながっていくと訴えた。
さらに世界の潮流として、サステナビリティの先に「リジェネレーション(改新)」が実践に移されていることに言及。従来の考え方や行動、ビジネス手法とは全く異なる手法にやり方を改める必要があると力を込めた。
発表された内容は以下のとおり。原文のまま掲載する。
年頭所感
今こそ地域一丸となり、リジェネレーティブ・ツーリズム(旅価の改新)の実践を
明けましておめでとうございます。
2024年の新しい年を迎え、謹んで新春のご挨拶を申し上げます。
2023年はツーリズム業界にとっては、待ちに待ったインバウンド観光客の本格的な回復の1年となり、足元10月には新型コロナウイルス感染症(Covid-19)流行前の2019年10月比を上回る訪問を記録しました。中国市場の回復が伸び悩んでいる状況ではありますが、特に米国からのインバウンド旅行者の増加、インバウンド観光客の観光消費額の増加等、Covid-19以前とは異なる市場環境となっていることも注目に値します。しかしながら一方で、現在のインバウンド旅行者の回復状況は、東京をはじめとしたゴールデンルートに集中しがちで、今後、より地方への誘客を推進することが課題として浮き上がってきたのではないでしょうか。
より一層のデジタル活用による「量と質のバランス」を
インバウンド観光客の回復とともに、Covid-19前の積み残し課題であったオーバーツーリズムが再び脚光を浴び始めました。統計的にみると、2019年水準への回復途上でありますが、一方で人手不足が深刻化しており、オーバーツーリズムへの意識が高まったと考えられます。人手不足は世界的な潮流であり、また、すぐに解決できる問題でもないため、より一層の効率化、省力化が求められており、デジタルの活用が引き続き、重要となります。ただし、いつまでもデジタル化を先延ばしにすると、既存の業務に追われ、機会損失につながる可能性もあることから、デジタル化、それに伴うデータ活用(デジタル・トランスフォーメーション:DX)は急務であるといえます。
デジタル化により可視化される地域の状況が、観光客の量を見極める指標となります。したがって、まだオーバーツーリズムでないからデジタルを活用することを先延ばしにしてよいということではありません。この指標をもとに、住民を含めた観光地のステークホルダーと合意形成することで、観光地の「量と質のバランス」を図っていくことが、地域の健全な経済成長につながっていくと考えられます。
リジェネレーション(改新)を意識して、サステナブルの先へ
日本が今後、観光立国として、インバウンド需要を吸収し、ツーリズム市場を拡大させていくにあたっては、上記のオーバーツーリズムやサステナビリティ(持続可能性)の課題に取り組まなければ、観光地としての未来は再び暗いものとなってしまいます。
そして今、世界ではサステナビリティのその先として、「リジェネレーション」が議論され、実践に移されています。その背景は、住民や観光客が通常の行動を続けることの影響が甚大であり、マイナスをゼロにする取り組み(サステイン)では不十分で、ゼロから1以上になるよう、ポジティブなインパクトを与えなければ維持すらできないことへの危機感があります。
リジェネレーティブ・ツーリズムとは地域がよりよくなるインパクトを作り出すことであり、旅行者が成長でき、同時に地域経済も成長できる、旅を取り巻くすべてのステークホルダーとの関係において、より高い価値を提供できるツーリズムを目指すことです。
そのためには、従来の考え方や行動、ビジネス手法とは全く異なる手法にやり方を改める必要があります。旅の価値を改めて問い直し、一新していくイノベーションこそが、リジェネレーティブ・ツーリズム、「旅価の改新」です。
EYでは、地域のステークホルダーの皆さまと一緒に、その地の自然や歴史、文化といった唯一無二のコンテンツと向き合い、その地にあった成長、幸福の追求(リジェネレーティブ・ツーリズム)を実践してまいります。
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクト パートナー
平林知高