世界大手旅行データ分析会社「ForwardKeys(フォワードキーズ)」は、最新のデータから日本のインバウンド市場の成長ぶりと、その需要の中身を分析した。先ごろ来日したフォワードキーズAPACセールス担当バイス・プレジデントのビン・ハン・キー(Bing Han Kee)氏は「日本は世界でも成功している市場の一つであることが分かる」と指摘。様々な角度のデータから、その現状を説明した。
日本の人気を示すデータ続々、滞在期間は長期と短期の二極化
訪日旅行者は2024年1月~10月の累計で3000万人を超えた。通年で過去最多を達成するのは、ほぼ確実だ。フォワードキーズの取得データの特徴のひとつであるOTAなどでのフライト検索を見ると、北米で日本への旅行に関する検索が伸びている。2024年1月~10月のデータによると、2019年同期比で近隣アジアだけでなく、長距離の米国が16%増、カナダが同3%増、オーストラリアが同3%増など伸びをみせている。
これに合わせるように、座席供給量も増加。2024年11月~12月(2024年10月28日現在)のカナダ発の日本路線では2019年同期比49%増、オーストラリア発は同28%増などとなっている。
訪日旅行者の日本到着の伸び率を空港別で見ると、福岡が突出した伸びを示しており、2024年11月~12月(2024年10月24日現在)で2019年同期比119%増。東京(27%増)、関西(15%増)を大きく上回っている。一方、那覇は依然として同10%減と苦戦している現状だ。
福岡を除くと地方空港への国際線の回復は遅い。この状況について、航空ネットワークコンサルタンツ社長の山本洋志氏は「航空会社はコロナで大きな負債を抱えているため、地方への復便については非常にシビア。まずは、需要が見えて儲かる東京や大阪などの都市への復便・増便を優先せざるを得ない」と分析。そのうえで、「地方空港は、まずは航空会社に需要を見せて、儲かる市場だということを示す必要がある。路線誘致のためには、まずは東京や大阪から需要を引っ張ってくることが先になるのではないか」との考えを示した。
フォワードキーズは、訪日旅行者の滞在期間のデータも抽出。それによると、2024年11月~12月(2024年10月24日現在)で、1日~3日の滞在のシェアは全体の21%、2019年同期比では6ポイント増。4日~13日の滞在のシェアは63%で最も多いが、2019年同期比では9ポイント減少している。逆に、14日以上の長期滞在は、2019年同期比で3ポイント増加。滞在の二極化が伺える結果となっている。
また、データから訪日客の旅行スタイルの変化も明らかにしている。その一つが、プレミアム座席の需要の増加だ。2024年11月~12月(2024年10月24日現在)のデータでは、日本へのフライトのうち、プレミアム座席利用者は2019年同期比78%増。エコノミークラスの同19%増を大きく上回っている。特に、韓国線では同985%増。そのほか、カナダ線で同189%増、タイ線で同101%増、シンガポール線で同85%増、米国線で同78%増と大きく伸長している。
さらに、訪日客1グループあたりの人数では、一人旅から6人以上の団体いずれも増加しているが、なかでも家族と思われる3~5人のグループ(32%増)とカップルと思われる2人組(39%増)の増加が目立つ。
このほか、データから、訪日客の航空券予約のリードタイムが伸びていることも分かった。2024年では出発60日以上前の予約が2019年比で6ポイント増加し全体の40%となった一方、出発29日以内は2019年の46%から37%に減少した。
キー氏は「航空券を早く予約すれば、プレミアムクラスもよりリーズナブルな価格で購入することができる」として、早期予約とプレミアムクラスの増加との相関関係を指摘した。
フォワードキーズの予測・分析の強みとは
フォワードキーズが、旅行全体のデータを細かく分析できる理由は、提供座席数だけでなく、需要のデータも取得しているためだ。提供座席数は、旅行会社GDS経由の予約記録MIDT(Marketing Information Data Transfer)とIATAのBSP発券データ、航空会社への直接予約の予想数値を組み合わせて算出する。競合他社もそれは同じだが、競合他社は片道ベースで取得しているのに対して、フォワードキーズは往復ベースで見ていることから、「滞在期間中の傾向も分析できる」(キー氏)。グループ人数については、同じ予約記録(PNR)の動きから予測する。
さらに、競合他社が2~3ヶ月後のデータを基にするが、フォワードキーズは1週間以内のデータを取得することで、より細かいメッシュでの分析が可能だという。
需要については、世界大手OTAなどの検索データから分析。キー氏は「エクスペディア、カヤック、スカイスキャナー、Googleフライトなどでの検索結果から需要傾向を分析する」と説明。OTAのデータを収集するKiwi社からデータを購入することで、それが可能になっているという。
さらに、将来予測では、蓄積されたデータをAIを使って算出。キー氏は「検索データと航空データの異なるソースをシステムの中で融合し、将来のトレンドを予測していく細かい作業を行なっている」と説明した。
世界の航空需要のカギを握る、中国人の海外旅行
2024年1月~9月の世界の国際旅行者は、前年同期比で15%増、2019年同期比では3%減まで回復した。アジア太平洋では、2019年比では未だ15%減だが、2023年比では30%増で、他地域よりも高い伸び率を示した。前年の中国の海外旅行解禁の影響を伺わせる結果だ。中国は、2023年8月から日本を含む78カ国を対象に海外団体旅行を解禁した。
中国発の海外旅行者は、2023年第1四半期は2019年同期比で79%減だったが、四半期ごとに回復。海外旅行解禁後は前四半期比で増加を続け、2024年第3四半期では2019年比25%減にまで回復した。
一方、中国発の国際線座席数の回復は、地域ごとにばらつきが出ている。アジア太平洋では、まだ2019年比79%にとどまっている。欧州では同105%と2019年を超えているが、ロシア領空での飛行禁止の影響を受けない中国の航空会社が供給を増やしていると見られている。中国から欧州への旅行者はまだ多くはないが、中国の航空会社は、低価格の航空運賃で欧州からのアジアや日本への乗り継ぎ客を狙っているところがあるという。
山本氏は、「日本の航空市場は、日本だけを見ていればいいというわけではない。世界で起きていることが乗り継ぎ便にも影響してくる。これを分析していくと、新たなトレンドも見えてくる」と付け加えた。