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日本政府観光局(JNTO)が2024年11月9日から15日にかけて、アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)と連携して開催した「AdventureWeek2024沖縄」。その実施報告会が、2025年2月上旬におこなわれた。
アドベンチャーツーリズム(アドベンチャートラベル)とは、身体的アクティビティ、自然とのつながり、異文化体験の3つの要素のうち2つ以上を含む旅行と定義され、JNTOでは重点テーマとして位置付けている。
「AdventureWeek(アドベンチャーウィーク)」は、ATTAが定める基準を満たした特定の地域において、ATTA が厳選した世界の旅行会社、メディア関係者が実際に開催地のアドベンチャートラベル(AT)商品を体験し、地域との商談会を通じ、商品のさらなる磨き上げを目的としたプログラム。
英語表記や食事制限への対応で課題も
AdventureWeek2024沖縄には、海外から旅行会社12人(米国6人、英国3人、スペイン2人、イタリア1人)が来日して参加し、商談会には、海外バイヤー15人、国内セラーとして沖縄県内のDMO、ツアーオペレーター、アクティビティ事業者など13団体・社が臨んだ。
海外からの参加者は、自然との共生、ブルーゾーン(長寿の秘訣を知る旅)、特徴的な精神性をテーマとした沖縄のアドベンチャートラベルのコースを体験。1日目と2日目は、沖縄県立博物館や再建中の首里城などを訪問し、沖縄文化の全体像を紹介した。
3日目と4日目は、地場産業であり、地域の生活にも深く根付いている泡盛を体験するワークショップを開催。本島北部やんばるでは、自然体験ツアーを実施するとともに、集落の住民との意見交換会もおこなった。
5日目は金武町での自然体験、6日目はウォーターアドベンチャーや、食を通じた健康長寿文化に触れるとともに、旧海軍司令部壕を訪れ、沖縄の歴史を学ぶ機会を提供。最終日は、沖縄の事業者やDMOとの商談会およびネットワーキングの機会を設けた。
全プログラムの終了後に海外バイヤーに対しておこなったアンケート調査によると、2025年に沖縄への送客数は期待値も含めて512人。航空券代を除いた旅行者一人当たりの平均消費額は1300ドル(約19万8000円)を見込む。
プログラム参加を契機とした沖縄旅行の新規見積もり想定数は15件(調査時点)だが、2025年には78件、2026年には285件、2027年には334件に拡大すると推計されるという。
AdventureWeekに対する海外バイヤーの意見としては、「沖縄の文化や信仰について学ぶ機会が多く、多くの事業者との接点もあり、沖縄での連携基盤を見出せた」といった意見が聞かれた一方、英語表記や食事制限に対する柔軟な対応などの課題も指摘されたという。
世界における日本のATの立ち位置は
事業報告会では、ATTAが「国際的なATの現状」について説明した。2023年のデータとして、AT最大の送客市場は米国で56%。次いで、欧州(フランス、ドイツ、イギリス)が6%で続く。また、インドが4%と高い割合となっているのが特徴的だ。
アジア地域で最も需要の高いATコンテンツは、「ハイキング/トレッキング/ウォーキング」で、「キャンプ」「登山」「料理」「文化体験」と続く。一方、北米や欧州では人気のサイクリングがトップ5にも入っていない。
航空券代を除いた旅行者一人当たりの平均消費額は2813ドル(約42万7600円)、平均滞在日数は8日となっている。
ATTAとジョージワシントン大学が共同で算出した186カ国のデスティネーション競争力と潜在力を評価する「Adventure Tourism Development Index」によると、ATデスティネーションとしての日本の評価は5段階で4.0。2023年に旅行会社が新たに作成した旅程を地域別で見ると、最も多かったのは京都と大阪を含む関西が63%。東京を含む関東が47%、北海道が42%、九州が28%で、沖縄はまだ21%にとどまっている。
日本のサプライヤーやDMCに対する要望についての調査では、最も多かった回答は「迅速な回答」で35%。そのほか、「ツアーガイドの語学能力の向上」が23%、「ガイドが提供する質の高い情報」が18%となり、ガイドへの要望も高かった。
そのうえで、ATTAは、日本がAT普及・拡大に向けてとるべき行動として、「サービス実務担当スタッフ向けの英語トレーニングの強化、英語表記の提供」「地元住民との交流機会の創出」「スルーガイドによるストーリーテリングスキルの向上」「ゴールデンルート以外への誘客」「サステナビリティ認証取得を目指す事業者の支援」などに加えて、「タトゥーに関する規制の見直し」といった旅行者視点の改善点も挙げた。
スルーガイドは参加者の気づきを引き出すスキルを
事業報告会では、AdventureWeekのレガシーを残していくために必要なことについてパネルディスカッションも実施された。
まず、沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課班長の照屋亮氏は、AdventureWeekについて、「今後に向けて、海外バイヤーと県内事業者との関係性が構築できたことは大きい」と評価。そのうえで「沖縄観光の課題として、観光の付加価値を高めて、消費単価を上げていく必要がある」と続けた。
また、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)海外・MICE事業部海外プロモーション課課長の新本康二氏は、沖縄の観光資源に加えて、「沖縄の県民性も世界に誇れる魅力の一つになると実感した」と感想を述べた。そのうえで、「沖縄で生まれ育った我々にとって当たり前の生活習慣が高く評価され、我々の自信にも繋がった」と発言した。
AdventureWeekでスルーガイドを務めたツアーデザイナーズ代表取締役の宗像愛氏は、ツアーの下見からストーリーの作り込み、本番までの過程を説明。そのなかで、「海外バイヤーにとって沖縄の独自性が伝わるストーリーとは何か。食文化や精神文化など、沖縄ならではの要素をどのように盛り込むかに一番苦労した」と振り返った。
そのうえで、AdventureWeek後、ガイドがストーリーを語るのではなく、参加者自身が体験を通じて自分の思うストーリーを紡ぐことが大切であることに気づいたと話し、「スルーガイドは、参加者の反応を見てストーリーの枠組みを示す。物語を伝える人ではなく、物語を紡ぐ場を作る人として、参加者の気づきを引き出すスキルがより求められる」との考えを展開した。
また、参加者の反応として、「沖縄では人同士のつながりだけでなく、人と土地、動植物、文化芸能、そして目に見えない祖先や神々とのつながりが文化の根幹を成している。その精神性を地元の人たちと一緒に体験したことが非常に新鮮だったようだ」と報告した。
コメンテーターとして参加したAdventure Area Consulting代表取締役の國谷裕紀氏は、「参加者自身に物語をどのように感じさせるかがATの要諦。英語力は非常に大切だが、顧客の要望をしっかりとヒアリングし理解をしたうえで、参加者の自己変革の機会を作っていくスキルが重要」と指摘した。
地域DMCのHOT沖縄総合研究所事業開発部部長の白石亮博氏は、地域との連携について言及。「地域住民と連携したAT商品は一朝一夕で作れるものではない。信頼関係が重要になる」。そのうえで「地域にお金が落ちるかどうかは非常に重要なポイント。地域全体で収支を考えていく必要がある」と発言した。
レガシーを未来へ
パネルディスカッションでは、今後のATの普及と拡大に向けても議論。國谷氏は、「成果が求められる段階になってきている。実践的な問い合わせに対応できるような商談チームが編成できるかが重要」と提言。さらに、今年東北で開催されるAdventureWeekについても触れ、「東北はATに親和性の高い素材が多い。東北6県の連携で成功例を見せてもらいたい」とエールを送った。
また、宗像氏は、ガイドの立場から「知識の伝達だけではなくて体験の設計、ファシリテーションを学ぶという点も重要になる」と指摘。また、スルーガイドとローカルガイドの関係については「役割を明確にしつつも、臨機応変に補完し合う関係の構築や、安全管理に対する共通認識が求められる」とした。
白石氏は、「沖縄県内には集落ごとにユニークな文化が残っている。宿泊事業者が地域の集落との連携でユニークなAT商品を作っていくことは可能」と今後への期待を示した。
新本氏は、関係者間における共通した意識の醸成が必要としたうえで、「地域住民、事業者などに丁寧に理解を求めながら、ベクトルを合わせをしていくことが求められる。その意味でDMOとしての役割は大きい」と話した。
また、照屋氏は、「ATの商品化に向けては、人材面での課題が大きいと感じている。今後、沖縄県全体の関係者に経験を積んでいただくと同時に、行政としてもレベルアップを図っていきたい」と話すとともに、沖縄本島だけでなく離島でのAT開発にも意欲を示した。
※ドル円換算は1ドル152円でトラベルボイス編集部が算出