
2025年の“やることリスト”最上位に、「決済」を挙げている旅行事業者が多いのではないかと私は考えている。どんな一年になるのか、また、航空会社の決済サービスはどのような方向に進むのか。テクノロジーの動向とともに、直近の決済に関わる予測を紹介しよう。
決済情報の「トークン化」とは?
アマデウスが近く公開予定の決済セキュリティ調査では、旅行者が詐欺やデータ紛失を恐れていることがよく分かる結果となった。消費者が旅行会社で何かを購入した後、自身のクレジットカード番号などの決済情報を保存せず、毎回再入力する最大の理由はこうした不安感だ。
セキュリティへの懸念は、旅行者の意思決定を左右する要因にもなりつつある。データ漏洩が起きれば、ビジネスの損失や評判の悪化を免れないため、顧客が安心できるシステムを整えることが欠かせないとの認識は、旅行各社の間でも以前より広がっている。
こうした悩みの解決につながるのが、支払いに関する情報の「トークン化」だ。トークン化とは、たとえば、機密性の高いデータ(クレジットカード情報など)を、意味のない文字列(トークン)に置き換える技術を指す。旅行者が支払いに使うクレジットカード情報を入力すると同時に、そのデータは安全な個人用ボールト(保管庫)へ。旅行会社には、データをトークン化したものが提供され、社内システム内に保管されるのも、このトークンになる。
トークンは、顧客カード情報の代理(プロキシ)として機能し、顧客がクリックすると、旅行会社への支払いがおこなわれる仕組みだ。悪意あるユーザーがトークンを使うことはできないし、トークンからカード情報を復元することもできない。
アマデウスでは、航空利用客のカード基本情報を、安全なトークン保管庫で管理している。これはデータ漏洩のリスクを軽減できる画期的なセキュリティ対策となっており、PCI DSS(クレジットカード業界の情報セキュリティ基準)遵守に必要なコストが削減できる。
リテールにおける顧客体験向上にも役立つかもしれない。要は、決済に伴う様々な困りごとを解消してくれる手法であり、旅行ビジネスには、トークン化を導入するべき領域が色々あると私は確信している。
変わる航空会社の決済
航空業界では、これから新しいテクノロジーや業務スタンダードの導入が本格化していくことが予想されており、その対象範囲は、サービスの提案、注文、決済から提供までと広くある。いわゆる「モダン・リテーリング」だ。
航空ITシステムの大規模なアップグレードにより、もっと旅行者本位の空の旅体験が実現するようになるだろう。パーソナライズされた提案が、すべての流通チャネル経由でスマートに展開できるようになる。早く対応できたところは、ライバルとの競争にも有利な立場になるはずだ。
そして、リテール改革を進める上で、欠かせない重要なポイントの一つが「決済」になる。決済について、単なるコストセンターだと考えているなら認識を改めるべきだ。最近では、決済こそが、利益を生み出したり、顧客体験を向上させたりしているということに留意すべきだ。
リテール機能強化に力を入れている航空会社の多くは、パフォーマンス(受け入れ率)向上につながる決済を最優先事項と考えるようになるだろう。コンバージョン率をアップすることで、リテールへのさらなる投資が可能になる。決済を完全にマルチチャネルで展開できるようになれば、ウェブ、空港、旅行代理店など、どこで発生した取引であってもスムーズな対応が可能になり、顧客体験も好ましいものになる。
多通貨決済、理由不問のキャンセル料免除、複数ブランドによる提携クレジットカードなど、“フィンテック・アンシラリー”と呼ばれる付帯サービスの取扱いも、さらに活発になりそうだ。
アカウントどうしのA2A決済はどうなる?
金融データ共有のオープンバンキング機能を活用し、顧客が自分の口座から即時、支払いを完了できるようにする事業者が、あらゆる業種で目立つようになってきた。旅行業のように、国境をまたぐ複雑な取引が発生する業種にとっては追い風であり、国際決済コストの削減につながる可能性もある。
これまでは、「決済」といえばカード会社の領域であり、ポイントや保証などのサービスも提供している。果たして旅行事業者は、カード会社の既存ユーザーの関心を勝ち取り、自社サービスへの乗り換えを促すことができるのか、今後に注目したい。割引やロイヤルティポイントを付与しながら、A2A(アカウントからアカウントへ)の直接支払いへと誘導する旅行事業者は、これから増えていくだろう。
AIが押し上げる決済パフォーマンス
世界中にある多種多様な決済プロバイダーを利用することが、以前より簡単になるなかで、旅行事業者にとって次の問題は「パフォーマンスも価値も最大化してくれる決済方法を見つける方法」になる。
他のテクノロジー領域と同様、パフォーマンス最適化の解は、ここでもAIになる。決済の「スマート・オーケストレーション(smart orchestration)」と呼ばれる手法で、システムが膨大な量のデータを読み込み、それぞれの決済シーンに合った手法、つまり最小限のコストと最高の受け入れ率が見込めるものを、リアルタイムで割り出していく。
これまでオーケストレーションは、データ処理の全体コスト削減に役立てられてきたが、2025年は、大規模な旅行関連データ解析でのオーケストレーション活用が本格的にスタートする。経験豊富な旅行事業者であれば、販売にも影響する決済について、より入念に対策することが可能になる。例えば、必要なら受け入れ率の高さを優先し、パフォーマンスを向上したり、自社サービスの競争力アップを図るといった具合だ。
2025年は、旅行業の決済を担当するチームにとって、間違いなく転換期になる。販売担当者や上級管理職が専門家の話に耳を傾け、海外市場でのリテール販売や顧客体験向上につながる決済のあり方を考えるようになるだろう。こうした流れは、多少のプレッシャーを生むだろうが、外部企業へのスポンサーシップの支払いで、自社のアプローチ方法を時代に即したものへと「解き放つ」きっかけにもなるかもしれない。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Is 2025 the year of payments transformation?
著者:デビッド・ドクター氏(アマデウスグループ・アウトペース CEO)