
AI研究の促進を通じた社会課題の解決に取り組む「AIデータ活用コンソーシアム(AIDC)」は、「観光情報データを用いた生成AI活用チャレンジ」の受賞者を発表した。この取り組みは、日本政府観光局(JNTO)グローバルサイトのテキストに含まれるオープン観光データをもとに、生成AIを活用した斬新なアイデアを募集するもの。AIDCは、第一回の生成AI活用チャレンジのテーマとして「観光」を選んだ。
最優秀賞は、群馬県立女子大学文学部文化情報学科の神崎享子教授による「JNTO観光データの多面的な活用」。また、優秀賞には、仲尾由雄氏の「生成AIによる観光データ活用・増殖サイクル促進に向けて」と北海道情報大学経営情報学部システム情報学科の長尾光悦教授による「生成AIを⽤いた観光PRコンテンツの⽣成フレームワーク 」が選ばれた。
AIDC副会長(データ活用担当)の井佐原均氏は、第一回のテーマとして観光を選んだことについて、「観光は、昨今、オーバーツーリズムなどで一般の関心が高まっており、多くの人にとって身近なテーマになっている」と説明。また、生成AIの課題として、ハルシネーション(AIが誤った情報や架空の内容を生成する現象)があるなか、JNTOのデータは信頼性が高いという点も重要なポイントとして挙げた。
また、審査員を務めた日本マイクロソフト業務執行役員ナショナルテクノロジー・オフィサーの田丸健三郎氏は、観光業界では人手不足が課題となっているなか、「日本の知られざる魅力の発掘や発信を効率よくおこなえるようになる」と観光における生成AIの活用の意義を強調。今後は、観光に限らず、多くの人が身近に感じるテーマでコンテストを続くていく意向を示した。
最優秀賞の神崎氏:広範囲で実践的なアプローチが評価
最優秀賞を受賞した神崎氏の作品では、JNTOの観光データを⽣成AIを⽤いて多⾯的に活⽤する可能性を検討。JNTOデータの特徴を明らかにするために、観光情報誌「るるぶ」の英語データと⽐較し、データ作成者(JNTO)、⾃治体、観光ガイド、観光客といった異なる視点からその特性や改善点を分析した。
神崎氏は「訪日外国人にも日本語と同様の観光情報を提供し、日本旅行を楽しんでもらいたいという思いがある。自治体が発信する観光情報は整備の段階で、その情報をどのように活用していくかを検討するまでには至っていない」と、チャレンジ応募の動機を説明した。
データ作成者の視点では、生成AIは訪れる時期ごとの楽しみ方を掲載することの有益性を結果として出したという。
また、自治体の視点では、群馬県を例にJNTOデータを分析し、地域の観光の特徴を抽出した。データ分析では、「温泉」「自然」「アウトドアアクティビティ」の3点を群馬県のアピールポイントとして強く打ち出すと良いという結果が出たほか、効果的なプロモーションの方法、訪日外国人向けのポイントなどの内容が示された。
観光ガイドの視点では、JNTOデータをもとにした発話支援を検討。生成AIは、より⾃然な口語表現を加えることで、ガイドの支援につながると提案した。また、観光客の興味を引く工夫があるかなどの観点から評価することができることから、観光ガイドの事前準備として、生成AIの結果を活用することも有効とした。
最後に観光客の視点では、JNTOデータをもとに生成AIが観光スポットを自動分類して、それぞれの説明をつけて提示するということを実施。観光客が、受身ではなくて、能動的かつ主体的に観光スポットを選ぶうえで、その選びやすさが非常に重要になることが示された。
神崎教授は、「今回の活用法は、生成AIの出力をそのまま観光客の行動に直結させるものではなく、それを作成する裏側の人の支援をおこなうもの。信頼できるデータで生成AIを効果的に使うことは非常に有効」と話し、今回のチャレンジを振り返った。
最優秀賞を自称した神崎氏(左)とAIDC井佐原氏
優秀賞の仲尾氏:英文のブラッシュアップとSNS投稿促進
優秀賞の仲尾氏は、サイト内データのメンテナンスや拡充を支援することと、サイト内データに基づきサイト外の情報流通・増殖を促進することを想定して2種類の試⾏をおこなった。
まず、英文のブラッシュアップ。JNTOサイトに掲載されている観光スポット1686件(URLのパスが/en/spot/の直下であるページ)について、英文ブラッシュアップを⽣成AIで実施した。⽣成AIには、単に英文を修正するだけでなく、修正⽅針の説明や修正の趣旨説明なども⽇本語で実施するように指⽰。結果として、英語がそれほど得意でない⽇本⼈でも、⽣成AIのブラッシュアップに対応できる⾒込みが確認できた。
次に、⽣成AIでSNS投稿促進情報を作成。各観光スポットのテキストデータを解析し、SNS記事作成⽤素材(キャッチコピー・ハッシュタグ)を作成すること、SNS投稿に適した時期を選択することを実施した。
仲尾氏は、「生成AIの変化は早い。自分が本当にやりたいことのイメージを持つことが重要」と話し、生成AIの活用について提言した。
優秀賞を受賞した仲尾氏(左)優秀賞の長尾氏:観光客を惹きつけるPRイラスト画像や楽曲生成
同じく優秀賞を受賞した長尾氏は、AI技術を活⽤し,観光プロモーションを効率的かつ低コストでおこなうフレームワークで応募した。観光PRコンテンツ⽣成プロセスでは、JNTOグローバルサイトのテキストデータに含まれる観光情報を分析し、対象となる地域独⾃の重要キーワードを抽出。それをもとにChatGPTo1を利⽤して、ご当地キャラクターをベースとしたPRイラスト画像を⽣成した。
イラストには、その地域らしさを反映させる要素を盛り込んだほか、キャッチコピーの⾃動⽣成やChatGPTで作成した歌詞をもとに楽曲生成をおこなった。さらに、キャラクターを⽤いたPR動画を⽣成。視覚と聴覚を組み合わせた多⾓的なアプローチで観光客の関心を惹きつける仕組みを実現した。
長尾氏は、「どういうプロンプト(指示や質問)で、どういった流れで作れば、PRとして使えるようなものが出てくるのか、いろいろと試行錯誤した」と振り返ったうえで、「予算もIT人材も限られている地方にとって、生成AIは非常に有効なツール」と提言した。
優秀賞を受賞した長尾氏(左)。