【秋本俊二のエアライン分析】
規模の拡大だけでは評価できない厳しい時代に
ANAがJALを抜いて、初の国際線首位に! そんなタイトルの記事がマスコミ各社で報じられた。6月2日のことだ。その日に発表された2014年4月の旅客輸送実績で、ANAは国際線の「有効座席キロ」でJALを上回り、国内の航空会社でトップに立った。ANAが首位になるのは国際線に参入した1986年3月以来、初めて──と各社は論じている。「国を代表するナショナルフラッグキャリアがこれで入れ替わった」と書き立てたメディアも少なくない。
しかし今回の比較で用いられた「有効座席キロ」を正確に理解していないと読み違えかねないので、ここでわかりやすく解説したい。
▼逆転の指標「有効座席キロ」とは?
輸送規模が逆転しても、旅客数ではJALが変わらず首位を維持
指標となった有効座席キロは、あくまで旅客輸送力の“規模”を示すもの。座席数と飛行距離を掛け合わせて算出され、長距離路線でたくさんの便を運航しているほど数値は高くなる。JALの4月実績が前年同期比3.7%増の38億3682万座席キロだったのに対し、ANAは27.2%増の40億5122万座席キロと急伸させた。
これには、今年3月に拡大した羽田空港の国際線で昼間の新規発着枠がANAに大きく傾いて配分されたことが起因している。11の新規枠を獲得したANAは、羽田からベトナムのハノイやフィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタ、カナダのバンクーバーなどへの路線を新規に開設した。
一方、新規枠が5枠にとどまったJALもロンドンやパリなどへの便を就航させたが、これらは成田から飛ばしていた路線を羽田に移しただけで、ヨーロッパ線のトータル便数は1便も変わっていない。タイのバンコクへの路線なども、それまで成田から1日に2便飛んでいたうちの1便を羽田に移管したもの。純粋に増えたのはベトナムのホーチミン線だけである。
その結果、今回のような輸送規模の逆転現象が起こった。ごく当然のことなのだ。 ところが実際に乗った同月の旅客数でみると、ANAの約55万人に対してJALは60万人超と、JALが変わらず首位をキープ。規模では立場が入れ替わっても、JALを支持する人はまだまだ少なくない。
▼今後は国際線の旅客数でもANAがJALを逆転することがあるのか?
ANAは2016年度までに国際線の運航規模を13年度比でさらに45%増やす計画を掲げているから、月によっては逆転もあるだろう。けれど、規模の拡大だけでは評価できない厳しい時代にエアライン各社が置かれていることもまた事実。今後はANAとJALがいままで以上にサービス・クオリティの向上で競い合い、日系エアラインの価値をより高めていってくれることを期待したい。
この点に関してはJALの広報も「目先の輸送量や路線数の拡大を追い求めてきた経営破綻前とは変わり、現在は量よりも“質”に重きを置いて私たちは活動をつづけています。規模よりも収益性を重視し、身の丈に合った成長を目指していきたい」と話している。