欧州クルーズ大手のコスタクルーズは「コスタビクトリア」による2016年度の日本シーズン開始にあわせ、横浜港でプレス向けの船内見学会を実施した。昨年11月に日本支社を設立し、今年は初の自社運航による日本発着定期クルーズを7月25日~9月13日まで計10本実施。日本支社長の糸川雄介氏によると、予約は想定を上回る好調さで、目標を当初発表の1万2000名から1万4000名に引き上げた。全体の7割を日本からの集客とする予定だ。
外国籍のクルーズ会社による日本発着クルーズが横浜や神戸の大都市圏を基盤に太平洋沿岸を中心に運航するなか、コスタクルーズは福岡を起点に金沢、舞鶴、境港、釜山を巡る日本海側の定点クルーズとした。クルーズの定期運航が少なかったエリアで市場開拓に挑んだ形だが、糸川氏によるとカジュアルクルーズの手ごろな価格と5泊6日の短期かつ終日航海日のない日程、境港をのぞく4港で乗下船を可能とすることで、「クルーズ初心者のハードルを下げた」のが新市場で需要を掴んだ理由だ。
日本の乗船地のうち、福岡は九州、金沢は中部と関東、舞鶴は関西からの需要を見込んでいたが、例えば金沢では従来クルーズ寄港の受け入れ側であった北陸地域の需要が予想以上に集まっているという。
【日本発着クルーズで運航するコスタビクトリア 船内の様子】
イタリアの客船会社であるコスタクルーズは、「海の上のイタリア」を思わせる陽気なスタイルが特徴。市場にあわせたサービスにも対応し、日本発着クルーズでは食事メニューや船内新聞、船内放送を日本語対応するほか、日本語を話せるスタッフ20~30名とコーディネーターの配置も予定する。例年の日本チャーターで好評のサービスをブラッシュアップし、イタリア語講座やイタリア文化講座など、日本人が好むアカデミックな船内イベント多くを設けることも計画している。
主要ターゲットは運航期間の夏休みに照準をあわせ、三世代含む家族に設定。1客室につき、13歳以下の子供の3・4人目料金を無料にするプロモーションも好評だ。すでに客室のうち、スイートとミニスイートは満室で、3・4人対応の客室も日によっては満室。夏の旅行予約はゴールデンウィーク後に本格化してくることから、コスタクルーズでは在庫調整を行ないながら需要に応えていく方針だ。
▼コスタビクトリアは7万5000トン、乗客定員数が1室2人定員で1928人、最大2394人。全964室で、そのうち人気の3・4人対応の客室は約3割
▼船の中心アトリウム。フロントや寄港地観光のツアーデスクなどさまざまな情報が集まるほか、船内の各種イベントも多く開かれる
▼メインダイニングは中央部の「ファンタジア」と船尾の「シンフォニア」の2か所。お箸もあらかじめセッティング。朝と昼にはご飯とみそ汁を提供するほか、夕食にも和食を含むアジア料理のチョイスも用意する
▼シアター「フェスティバル劇場」。収容人数約600人。ベニス風のマスカレードショーやアクロバティックショーのほか、マイケル・ジャクソンの物まねスターのパフォーマンスも人気。イタリア船らしくオペラの上演も。エンターテイメントやアクティビティを充実させている
▼ビュッフェレストランでは見学時、ちょうど乗船客用のランチの用意がされていた。メンチカツやレンコンのハンバーグなど、日本になじみのあるメニューや食材も意識して使用。キッズメニューの用意もある。このほか、日本発着クルーズでは欧州では有料サービスのピッツェリアも無料で利用できる
▼船内には日本でも人気のカフェ「illy」のほか、意趣の異なるバーやラウンジがある。「カプリッチョ・ラウンジバー」は、ミラノ出身のマルチアーティストのエミリオ・タディーニ氏によるガラスモザイクが印象的
▼プールはデッキ11の中央部に1か所。デッキ7のスパエリアにも屋内プールがある
▼人気の3・4人対応の客室。このカテゴリーは海側クラシック。スイート、ミニスイートなどその他のカテゴリーでも3・4人対応客室はある。コネクティングルームの用意もある
▼キッズルーム「スクウォック・クラブ」。3~17歳を3つの世代に分けてそれぞれプログラムを用意。有資格者のスタッフではなくクルーが乗客の同意のもとに子供を見るというシステム。コスタクルーズでは子供向けサービスにも力を入れている
▼船内スケジュールから寄港地観光、精算状況などを確認できるセルフサービスキオスクは4台設置。日本語を含む10か国語に対応。タッチパネルで操作する。左下はクレジットカード登録機。コスタクルーズではスムーズな乗船のためにチェックインを不要としているため、乗客自身が船内精算用のクレジットカード情報を登録する。なお、船内の衛星回線で利用可能な無料アプリ「Mycosta Mobile」では乗客同士の通話やメッセージが無料で利用できる。
今後の展開は
同クルーズを販売する旅行会社は、クルーズ専門系だけでなく街の一般支店などクルーズの取扱が初めての旅行会社も多く、糸川氏は「クルーズのすそ野が確実に広がっていると感じている」と手ごたえを語る。販売旅行会社数は10数社に拡大しているが、来年に向けて倍以上に増やしたい考え。まずは同クルーズを定着化し、その後は日本海東側など国内のその他のエリアに、同様のショートクルーズを広げたいとしている。
なお、日本発着クルーズに先駆け、旅行会社によるチャータークルーズの運航が開始。2013年から実施しているエイチ・アイ・エス(HIS)が4月26日発、5月2日発、5月8日発の3本、今年2年目のJTB九州が5月11日発で1本を運航する。その後、韓国や中国での運航後、7月25日から日本発着クルーズを開始する。
取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)