個人旅行(FIT)化の進行とスマートフォンの浸透、インバウンドの増加で、旅行の新たなマーケットとして注目を浴びるタビナカ領域。なかでもアクティビティ予約の分野では、旅行会社による資本参加や業務提携などの動きが活発だ。アクティビティ予約サービスにとっても、事業拡大のチャンスが訪れている。
2016年3月末にエイチ・アイ・エス(HIS)の子会社となったアクティビティジャパンも、こうした会社のひとつ。この分野ではオンラインでのBtoCビジネスが多いなか、アクティビティジャパンはHISのツアーへの組み込みのほか他社へのホールセールも開始し、新たな展開を図るという。代表取締役社長の大淵公晴氏に、HIS傘下での戦略と勝算を聞いた。インバウンド強化でHISと提携へ
アクティビティ予約サービスを巡る動きとしては昨年、「アソビュー」社に旅行最大手のJTBが出資し、グループの販売サイトに商品を掲載をしている。アソビュー社はヤフーやアマゾンとの提携も開始。タビナカ領域が一気に注目を浴びるようになった。
こうしたトレンドから、国内7000のプランを扱うアクティビティジャパンにも、国内外から提携の話が持ち掛けられていたという。そのなかでHISを選んだのは、同社のインバウンド体制が決め手だ。
「国内利用者は増加しているが、今後は確実に訪日客が押し上げていく」。大淵氏はそう展望し、インバウンド市場への切り込みを画策するが、「ウェブのプラットフォームが単独で海外で認知されるのは難しく、集客や商品開発、オペレーション、多言語対応をすべて自前でするのはコストがかかる」との悩みがあった。その点で、旅行各社のインバウンド戦略のなかでも、HISの海外現地拠点ネットワークはもちろん、韓国ECのインターパークとの提携など広い視野が魅力だったという。
BtoB事業で差別化
今後はHISグループとして事業を加速していくが、その切り口はBtoB。大淵氏は「アクティビティ専門のコーディネート会社の立ち位置で、旅行会社の手が届かないような商品を作っていく」と意気込む。専用サイトでの他社への卸売りに加え、HISグループ内でも訪日旅行の「ジャパンホリデートラベル」ツアーへの組み込み、海外拠点でのBtoCやBtoBも行なう。既にコンタクトをとった旅行会社の反応も良く、「他のサービスとの差別化になる」と自信を示す。ポイントはラインナップの拡充。現在の日本市場向けから訪日市場も意識した編成とする。内容的には日本人に人気のアウトドア系だけでなく、訪日客の関心の高い文化体験系を拡充。エリア的にはゴールデンルート(大阪~東京)はもちろん、HISの送客が強い沖縄や九州など範囲を絞りながら、順番に増やしていく。
その方法としては、両社の相互支援の方向で話をしているところ。HISのホテルや旅館の担当がその周辺のアクティビティの営業をかけていく。一方、アクティビティジャパンではキャンプ場やバンガローなど、これまで旅行会社の扱いが少なかったアクティビティ領域の周辺施設へのアプローチが可能だ。
これにより、アクティビティの提携数を現在の約2000社から2017年までに約3000社に増やす方針。アウトドア系と文化体験系の比率を5:5とし、2018年までに日本人と訪日客数を同等比率で計30万人の利用を目指す。BtoB、BtoCともにナンバー1のシェア獲得が目標だ。
受入環境強化が重要課題
BtoB戦略には、他社との差別化以外にも目的がある。それはアクティビティ事業者の受入体制の強化だ。
アクティビティ事業者は少人数の個人事業主が多く、手作業での対応が多い。加えて、インバウンドの受け入れにあたっては多言語対応に加え、アクティビティ独特の事情として天候等の影響による急な場所変更が発生しやすく、その際の注意も必要だ。こうしたオペレーションを含めて完全にインバウンドの対応ができる事業者は全体の1割、サポートが入って5割くらいというのが業界での見方となっている。
しかし、ツアーで送客することで、オペレーションが可能な内容にアレンジでき、言語などの対応が必要な場合には添乗員のサポートも受けられる。送客数を増やしてアクティビティ事業者に体力をつけてもらう。そうすることで、市場拡大に繋げるという狙いだ。
テクノロジーに自信、海外OTAにならぶ使用感を意識
もう一つ、アクティビティジャパンで注目したいのは、システム開発やコンテンツ配信などを事業とするテクノロジー会社のインデックスが母体だったこと。世界的に人気を博したCPゲーム「真・女神転生」のアトラス社を傘下に置いていたこともあり、エンターテイメント性の意識も高い。そのインデックスが以前の親会社だったゲーム会社のセガ・サミーのフェニックス・シーガイア買収を機に、周辺の旅行関連事業として2014年4月にサービスを開始したのがはじまりだ。
このインデックスの技術力を見初め、HIS代表取締役会長である澤田秀雄氏が代表を務める澤田ホールディングスが2015年12月にセガ・サミーから買収し、100%子会社化。アクティビティジャパンの事業を分社してHISが子会社化したという経緯がある。
HISとの提携でも「特に期待されているのは技術部門」といい、アクティビティジャパン設立時にも技術スタッフを組み込むことが求められていた。特に旅行に対して貢献できる部分として大淵氏は、「UI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)。消費者が接するフロント側の設計・サービス」だとアピールする。
旅行のテクノロジーで先行する海外OTAは、徹底した技術開発とA/Bテストで“予約は3ステップ”で完了するようなユーザビリティを実現し、多額の予算を投じたマーケティングで世界を席巻している。この手法に対抗できている日本の旅行会社はまだ少なく、大淵氏は「そこは我々の方が経験の多い分野。サポートしていければ」と自信を示す。
さらにアクティビティ事業者の獲得でも、テクノロジーから迫る考えもある。例えば宿泊サイトの「サイトコントローラー」のような、「事業者と連携しやすく、プラットフォームを押さえるための仕組み作りを検討しているところ」。現状、手作業で予約管理をしている事業者の手間を簡易化しつつ、即予約ができる仕組みの構築も視野に入れる。
投じる手はあくまでシェア獲得ナンバー1の目標に向けた施策だが、アクティビティ分野の裾野拡大から日本の旅行会社のオンライン販売の改善に繋がる取り組みとしても注目したい。
聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)