2016年9月10日、JTBパブリッシングと大日本印刷グループ2社主催による「ITを使って未来の旅行を変える」をテーマにしたアイデア募集コンテスト「TRAVEL×IT CONTEST」の最終発表会がおこなわれた。今回のコンテストは、個人や企業など所属を問わず、2016年6月から広く募集を受け付けていたもの。応募総数は200件弱におよんだという。
当日は一般観覧者を含む100名以上が会場に集結。一次審査を経て最終候補に選定された10名/チームによるプレゼンテーションに続き、結果発表がおこなわれた。最優秀賞を獲得したアイデアは、アクティブシニア層に向けて新しい旅の価値を提案するウェアラブルガジェット、「TraveRing(トラベリング)」だ。
「TraveRing」は、半透明のブレスレット(腕輪)型ツール。GPS機能付きWi-Fiポータブルとして動作するだけでなく、歩く振動で自家発電できる機能付き。これは、「自身の行動が『新しいエネルギーに変わる』ことをシニア層が体現する意味にもつながる」(考案者 下穂菜美さん、電通所属)という。
ポイントとなるのは自身の移動データを自動的に保存し「Myるるぶ」というアルバムにまとめる機能。旅行中の歩数や移動距離、滞在時間など旅先での過ごし方がすべて可視化され、「アルバム」となって自宅に届く。「スマホなどモバイルデバイスには親しんでいるが、SNSのコア世代とは言えないシニア層に訴える方法として"アルバム"を選択した」(考案者 河村拓さん、電通所属)と解説。ビジネスモデルとしては、同ツールのレンタルや集積したビッグデータの販売などを想定するという。
今回のアイデアは、例えば退職後の通過儀礼として「とりあえず旅行にいく」のではなく、行動の可視化で「旅」の価値そのものの位置づけを再定義しようというもの。さらに探求心をあおりシニア層の「人生の再出発」を彩るツールとして発案された。
また、最終選考では急きょ「特別賞」も2点選出された。
そのひとつは「ドッペルゲンガーに会う旅」(考案者 永島一樹さん、岸本かほりさん、電通所属)のアイデア。現在、フェイスブックに導入されている顔認識技術「DeepFace」を活用することで、「自分と似ている人に会いに行く」というこれまでになかった旅のモチベーションを提起するもの。旅行会社が介在することで新しいカタチの旅行サービスとしての価値向上も期待されるとする内容だ。
たとえばフェイスブック上に「自分のそっくりさんをすべてみてみる」導線を設けるといったアイデアにとどまらず、人種や国籍を超えた相手とのコミュニケーションを経て「実際に会いに行く」という実行動につなげる斬新な企画が評価された。
特別賞もう一点のタイトルは、「最高の人生の見つけ方」(考案者 安藤克利さん、順天堂大学医学部附属練馬病院)。余命を知った多くの患者が望む"人生最後の家族旅行"を速やかに実現するためのデータベース構築や関係者連携体制を、終末期患者と日々対峙する専門医の立場から提案する内容だ。
旅行の調整に時間がかかってしまい、「結局最後の夢が実現できない」ことが多い現状を解決するため、医療関係者や地域の福祉事業者、旅行会社、家族の連携を技術の力と社会的な仕組みでサポート。補助金制度などの活用でビジネス化も十分可能とし、例えば「結婚式の後の新婚旅行」が定着しているように、「人生最後の家族旅行」がストレスなく実現できるモデルづくりを進めたいとしている。なお、このアイデアのタイトル「最高の人生の見つけ方」は、余命を宣告された主人公が旅にでる映画のタイトルを採用したものだという。
今回最終候補に選定されたアイデアは、AR技術やスマホアプリを使った取り組みや、重い荷物を持つ負担を軽減するサポートサービスや製品開発など、内容は多岐におよぶ。対象とするユーザーも、シニア増や若年層、訪日外国人旅行者などさまざま。最年少では高校生1年生のプレゼンターも登壇した。ただし内容はすべて「リアルな旅」が前提にあったことが特徴だ。特に大賞を獲得した「TraveRing」は「本来の"旅の醍醐味"にしっかり着目し、ITの力で新たな旅の価値づけに貢献できる点」「シニア層にとどまらず、あらゆる旅行者への応用可能性が期待できる点」で高い評価を得た。
JTBパブリッシング代表・里見雅行氏は表彰式にあたり、「大変感動した。すべて、旅をするときのわずらわしさをITの力で低減し、旅がもつ本質的な感動の幅を広げるアイデアばかりだった」と総括。「これから企画の実現に向けて、さらに関係者とアイデアのブラッシュアップを進めていきたい」とのメッセージで締めくくった。
▼プレゼンター全員での記念撮影。最優秀賞獲得者2名が手にしているのは賞品「JTB旅行券(50万円)」の目録
▼審査員の講評
▼会場の様子
(トラベルボイス編集部)