近年、災害やテロなど海外の緊急事態は増加傾向にあり、企業には海外出張者の安全確保が求められている。こうした状況を踏まえ、アマデウス・ジャパンは、関西エアポートと共同でビジネス旅行の安全をテーマにしたセミナーを大阪で開催。安否・所在確認などリスクマネージメントのポイントを企業危機管理の第一人者オオコシセキュリティ・コンサルタンツ上級顧問の辻廣道氏が語った。
海外事業で留意すべき3つの変化
外務省の掩護統計によると、在外公館での邦人の掩護軒数は毎年右肩上がりに増えており、2014年は1万8,123件。辻氏は「およそ1,000人に1人の邦人が在外公館にお世話になっている計算になる」と説明し、企業を取り巻く事業環境は変化していると強調した。
そのなかで、注意すべき3点を挙げた。
まず、中国の台頭に伴うアジア地政学上のリスク。反日政策はまだ根本的に解決されていないとしたほか、8,000万人の共産党員の存在もリスクとして、「企業の幹部は共産党員が占めており、なにか紛争が起こったときに、彼らのロイヤルティは政府にある。その時、企業の資産をどのように保全するべきか考えるべき」と述べ、中国には危機と機会が同居していると指摘した。
次に挙げたのがテロの続発と拡大。その危機はアジアにも広がっているが、辻氏は「邦人にとっては、米国の銃社会の方が脅威」と話す。2015年の統計では、米国の銃乱射事件は330件、ほぼ1日に1回は発生している計算になり、在米邦人42万人、日系企業拠点7,800ヶ所の現状においてリスクは高いとした。また、ドナルド・トランプ氏が次期大統領に決まったことから、「中間白人層の右傾化が進み、事件を誘発する確率が上がるかもしれない」と付け加えた。
3つ目に指摘したのが海外勤務者の変貌。高齢化、単身赴任、新興国への赴任が増えており、出張者の健康問題がクローズアップされてきているという。また、希望しない勤務先、派遣元からのプレッシャー、現地とのコミュニケーションなど精神的負担も大きくなっているとした。
旅行者情報管理システムの構築は「一丁目一番地」
こうした現状背景から、辻氏は各リスクを分析して、実践・継続へのPDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクルを作り出し、「自助、公助、共助のベストミックスによる効果的な危機管理を構築していく必要がある」と訴えた。
そのうち、自助では経営トップのリーダシップが肝要としたうえで、コーポレートガバナンスと人事・労務をあわせた体制と規程を整備することを求め、「有事の対応は基本の構築と平時の対応が大切」と唱えた。
さらに、海外危機管理マニュアル作成の要点として、以下の4点を挙げた。
- 政治、社会、大規模事故、自然災害、健康、労務などさまざまなリスクへの対応
- 企業理念を反映させ、リスク管理規程、人事規程などと一貫性・整合性を保つ
- 使用者の目線に合わせる
- 図示やフローチャートなどを用い、簡潔な表現で使い勝手のいいマニュアル作成
加えて、所在地確認、安全確認、緊急連絡網は危機管理の「一丁目一番地」だとし、旅行者情報管理システム構築の必要性を訴えた。
このほか、公助では外務省の安全情報の活用や3ヶ月未満の出張者に外務省海外旅行登録「たびレジ」への登録を勧めたほか、共助では現地での企業同士のヨコのつながりを強め、「オールジャパンでのコミュニティー連携が重要」との認識を示した。
アマデウス、モバイル・メッセンジャーで社員の危機管理を
辻氏の基調講演に続き、アマデウス・ジャパンは、企業のインシデント管理ツールとして、「Amadeus Mobile Messenger」を紹介した。同社コーポレートセールス・セールスマネージャーの永山英男氏は、「企業が危機管理で求めているのは、注意義務、所在地確認、コミュニケーション、スピード感ある対応」と指摘。「出張者の旅程データはすべてアマデウスのシステムの中にあるため、変更があっても正確な情報を提供することができる」とアピールした。
Mobile Messengerは、出張者のスマートフォンのGPS機能や空港やホテルの地理位置情報によって、ダイナミックマップ・インターフェイス上に出張者の所在がピン型アイコンで正確に表示される。日付、会社、航空会社、便名、空港などでのフィルタリングも可能。出張者データはリアルタイムで自動更新される。
また、最新の顧客の旅程情報(PNR)も反映。万が一の場合、旅行者は旅行会社経由ではなく現地の航空会社でフライト変更を行う可能性が高いため、「PNRを基とした情報を提供できるのは強み」とした。
コミュニケーションでは、アプリ、SNS、eメールなどでいつでも出張者へのコンタクトが可能で、一方向メッセージ、双方向メッセージの設定もできる。リスクマネージメントでは、国別のリスク情報が表示されるほか、影響が出ると予想される出張者に対しては警告レポートを配信する機能も備えているという。
関西エアポート、出張者向けクラブをアピール
関西エアポートが紹介したのは、出張者向けの「グローバル・ビジネス・クラブ」。
同社航空営業部・航空営業グループリーダーの笹部幹和氏は、そのメリットとして「速・楽・得・特がある」とアピールした。「速」ではファストレーンの利用、「楽」ではエアサイドラウンジの利用、「得」ではさまざまな割引・優待の提供、「特」では法人会員ポイントを紹介した。
現在のところ、利用法人は360社。カード発行枚数は1万2,000枚になるという。年会費はスペシャルコースがカード発行200枚で20万円、スタンダードコースが100枚10万円、ライトコースが10枚5万円。
このほか、大手レンタルオフィスのリージャスは今年4月に関西国際空港にレンタルオフィスを設置した。
同社は、ロンドン・ヒースロー空港、シンガポール・チャンギ空港でも同様のビジネスを展開。日本の空港では関空が初めてとなる。同社シニアエリアマネージャーの森川和哉氏は、「個室も備えるビジネスに特化したオフィス。出発前に利用して欲しい」と呼びかけた。