世界2大OTAプライスラインのCEOトーク、中国市場で成功するポイントから自社サービスの強みまで【外電】

中国旅行業界誌「トラベルデイリー」が先ごろ中国・上海で開催した年次カンファレンスで、プライスラインのグレン・フォーゲル最高経営責任者(CEO)がオープニングイベント「CEOトーク」に登壇した。同イベントは、中国の旅行産業の現状と未来を展望するもの。フォーゲルCEOが語った内容は、いずれもカンファレンス全体を通じて関心の高いテーマが多く、特に中国市場に進出するグローバル企業と、グローバル市場に打って出る中国企業に関する話題は注目を集めた。

※編集部注:この記事は、「tnooz」に掲載された英文コラムについて、許諾を得てトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

メタサーチについて

プライスライン・グループのカヤック(Kayak)は、中国ではあまり知られていないようだが、チューナー(Qunar)やスカイスキャナー(Skyscanner)の同業者だ。何かを購入するとき、多くの人が価格を比較できるメタサーチを使うようになった。

グレン・フォーゲルCEO:「トラベルデイリー2017」特設サイトより

カヤックの技術力は非常に高い。より速く、より適切な検索結果を提示できるのが強みだ。今すぐに購入するべきか、それとも値下がりする可能性が高いからもう少し待つべきか、といったことも、データを駆使して提案してくれる。

利用者は、ベストな検索結果が出てくるサイトを探している。何が理想なのかと言うと、すべてが明白でわかりやすい、「透明性のある価格」だ。検索結果はなるべく多いほうがよい。それを自分の条件でフィルターにかけたいのだ。

カヤックは当初、米国市場に目が向いていたが、その後、拡大路線に転じた。プライスラインとしては、欧州市場の強化を狙い、モモンドを買収したが、引き続き、世界全体への市場拡大を目指すことになると思う。中国もそうだが、どこの市場にも、メタサーチを好む利用者は一定数以上、確実に存在する。

ホームシェアリングとAirbnb

エアビーアンドビー(Airbnb)は非常に秀逸な会社で、ビジネスも順調だ。すばらしい。ただし、プライスライングループの「ブッキング・ドットコム(Booking.com)」ならば、アパートメントとホテルの両方が同じ検索結果に並んでいるから、両方を簡単に比べられる。それからブッキング・ドットコムならば、取扱いのある宿泊施設はすべて、その場ですぐに予約できる。これもすごい。

私にとって、スピードは絶対条件の一つ。待たされるのが大嫌いなのだ。ある時、妻が競合他社のサイトで色々と探し、メールを何度がやりとりしていたが、結局、数日後に「部屋を貸せない」という返事を受け取ったそうだ。こういうのは、ものすごく頭にくる!

もう一点付け加えると、当社の場合、利用者には一切、チャージはない。競合他社の中には、利用者から手数料を徴収しているところもあるが、当社ではやっていない。

私見だが、一軒家や別荘、アパートメントなどは、旅行素材として欠かせないし、最近、人気も急上昇中だ。当社でもこの分野には、時間とエネルギーと手間をかけており、ホテル予約と同じように、得意分野の一つにしたいと考えている。

ホテルブランドのサイトでの直接予約

ホテルの直接予約の問題だが、まず当然ながら、どの企業だって、マーケティングにお金を払わなくて済むならそれが一番ありがたい。お客様が直接、ホテルのウェブサイトに来てくれれば、OTAや検索サイト、テレビ広告などのマーケティング一切に費用をかける必要はない。

しかし残念ながら、世の中はそのように動かない。よく考えてみてほしい。なぜ人々は直接、ホテルのサイトに向かわずに、ブッキング・ドットコムやアゴダなどのサイトにアクセスするのだろう。

中国市場でのローカル化

中国でビジネスを展開するのは非常に大変だ。中国人以外が手掛けるのはなおさら厳しい。

我々も、最初の段階から、中国ではローカライゼーションが不可欠と考えていた。中国系ではない企業が中国市場へ進出するなら、この国の文化をよく理解しなければならない。そうでないと、様々な規制やものごとの進め方もさっぱり分からない。結局、事業はうまくいかないだろう。

当社では、あらゆる場面で中国らしくなろうと、できる限りの中国化を徹底してきた。これは中国では特に重要なポイントだ。ローカライズは、当社がうまくいっている秘訣でもある。現在、中国国内では3つのサービスセンターを展開、中国国内スタッフ数は1000人に達する勢いだ。

自分が中国人で、海外旅行を計画中だとイメージしてみてほしい。万一何か問題が起きた場合を考えると、ホテルを予約するなら中国語で対応してくれるスタッフがいる方が安心だ。

とはいえ多くの場合、1日24時間、週7日間、いつでも中国語で対応できるスタッフを確保するのは、ホテルにとってコストがかかりすぎるし、現実的ではない。その他にも色々ある。ウェブサイトの表示は中国語? 支払い方法はいつも通りで大丈夫? このホテルは、アリペイやウィーチャット(WeChat)に対応してくれるだろうか?

ブッキング・ドットコムやアゴダが賑わう理由が、お分かりいただけただろうか。世界中のあらゆる利用客すべてに対応しようとすれば、ホテルは大変なことになる。ローカル市場向けなら、もちろん問題はない。海外市場とは違い、ローカル市場でなら、ホテルが自ら工夫し、利用客を獲得することができる。しかし総合的に見た場合、当社のサービスの方が勝ると思う。

中国市場で成功するためには、中国の利用者が普段、使い慣れているサービスを我々も取り入れる必要がある。アゴダ経由でWeChatを使ってホテルを予約しようとしたらできない、しかしWeChat上では直接予約できる。もしそうなったら、利用客は二度とアゴダには戻ってこないだろう。

顧客にいつもと同じ利用方法を提供できるよう、我々は常に体制を整えておく必要がある。何か新しい動きがあれば、その都度、我々もできる限りローカライズをおこなうようにしている。

中国の巨大企業と、よい関係を築くことも大切だ。誰もが同じようなことを言っているが、実行するのは容易ではない。友情と理解を育むこと、そして長期的なビジョンを共有するのだ。

特に、長期に渡る関係、というのが中国では非常に重視されるのだが、西洋文化圏の人は、この点をあまり理解していない。1日仲良くしただけでは友人にはなれない。長いお付き合いが必要なのだ。

「最低価格の供給源」について

我々の業界において、価格は何より大事だ。ご承知の通り、利用客がもっとも重視しているのも価格だ。

供給サイドの流通チェーンを見ると、片方の端にはホテル、反対側の端には利用客がいて、その間に仲介業社が存在する。2010年、私はこの図式を見ていて、卸売業者(ホールセラー)の取り分がかなり大きいと感じるようになった。我々のようなOTAに、ホールセラーから在庫が流れ、我々が旅行者に販売する。

ホテル各社はなぜ、在庫の客室をホールセラーに渡すのか? 我々に直接渡して、ホールセラーとの取引をやめないのか? (ホールセラーを介することで)どんな価値が付加されるのか?

同じような状況が、今も続いているが、最近では、ホールセラーが手にする利幅は減少しているようだ。我々は常に状況を注視している。

当社では、旅行者にできる限り低い価格を提供したいと考えている。実現するには、最も低い仕入れ価格を探さなければならない。もし最低価格を提供してくれるのがホテルではなくホールセラーであれば、そちらを選ぶことになる。

ホテル各社のみなさまには、在庫の流通に細心の注意を払うべきだと訴えたい。我々のようなOTAに右から左へと在庫を流すだけのホールセラーに客室を卸すことに、何の意味があるのだろう。ホールセラーが仕入れた在庫をパッケージツアー会社に渡せば、その後オフライン用に商品化されると聞く。新しい別の流通チャネルがあるなら別だが、ホールセラーに卸す前に、ぜひ当社のことを思い出してほしい。

事業の相乗効果が成長につながる

明日のこと、次の四半期のことに加え、もっと先の未来まで見据えることも大切だ。アイスホッケーの神様と呼ばれた元プロ選手、ウェイン・グレツキーの動きを思い出してほしい。彼が得点できたのは、パックが今ある場所ではなく、パックがこれから向かう場所へいつも先回りしていたからだ。我々も同じようにありたい。

当社が開発に取り組むのは、将来のためだ。顧客には、常にもっと良いサービスを提供したい。

会社が急速に成長し、拡大を続けていると、自社の核であるコア・ビジネスに立ち返り、一番重要なことは何かと考えたくなる。これも一つの方法だが、さらなる発展を続けるための別の方法は、自分が展開してきた様々なサービスを相互にうまく関連付けていくことだ。

人工知能(AI)やビッグデータなど、次々に登場する新しいテクノロジーを活用することで、異なる事業の間に相乗効果を生み出し、顧客へのサービス向上につなげるのだ。

例えば、旅行中は自宅で食事しない。そこでレストラン予約の「オープンテーブル」の出番というわけだ。利用者については、かなり把握できていると思う。

旅行者が期待するようなレストランを紹介するのが、ここでの我々の役割だ。しかしレストランより先に、空港からホテルまでのアクセス方法が知りたい、という場合もあるだろう。それぞれの状況に応じ、あると便利なサービスを旅行者に提供したい。

新しくて面白いこと

カヤックの共同創業者の一人が、新しいスタートアップを立ち上げ、旅行アプリ「ローラ(Lola=AIを活用した出張アプリ)」を開発したが、こうした新商品は、次々と現れる。面白くて、みんなをワクワクさせるものばかりだ。大成功を収めるのは一握りだが、やはりピカピカに輝く新しいものは、とりあえず人々の目を惹き付ける。

絶え間なく、常に新しいものを開発し続けること、それ自体に意味がある。それがテクノロジーの進歩であり、革新的であるということだ。当社は、膨大な数のエンジニアや科学者を抱えて、より優れた新しいサービスの開発に当たっている。大洋のサメに似ているかもしれない。泳ぐのを止めたら死んでしまう。企業も同じで、常に前へ進み続けなくてはいけない。

誰よりも優れたサービスで顧客を喜ばせるためには、顧客についてよく知ることも必要だ。試行錯誤を繰り返すことが我々の信条であり、これまで進んできた道のりでもある。喜んでもらえそうな部分には、さらに力を入れるし、そうでもない部分は縮小する。

我々は、これからも色々と試しながら、ベストな方法を追求し続ける。すでに当社を利用している顧客には、もっとよいものを提供したい。サービス第一を掲げ、利用者が満足するよう万全を尽くすことが、成功の秘訣だ。

ストレスのない旅行実現、中国の役割は?

ここ数年で、旅行につきまとう様々なストレスが、ずいぶん軽減されるようになった。

少し前を思い出してほしい。印刷されたチケットを持っていかないと、飛行機には搭乗できなかったし、タクシーを呼ぶときは手を挙げたり、所定の乗り場まで移動しなければならなかった。今では、携帯電話ひとつで済ませられる。かつてはなかった自転車のレンタサイクルのシステムも、とても便利だ。旅行のストレスは、昔より少なくなった。

支払いでは、「トラベラーズチェック」という、非常に面倒でやっかいな制度があったのを覚えているだろうか。今では、その場でQRコードに携帯をかざせばすべて完了。なんでも購入できる。

これが未来の姿で、ストレスは過去のものとなる。テクノロジーがいかに重要か、よくわかる。

アリババやテンセントが手掛けてきたことは、金融業のイノベーションだ。気づいていない人も多いが、中国は今、技術のイノベーターによる大変革の最前線となっている。だからこそ、当社も時間やエネルギー、お金、人材を多量に投入して、中国市場に進出した。この大変革の一部でありたい。

経営方針にもよるが、所有権を持つ出資者となるのも大事だ。将来がどうなるかは誰にも分からない。様々な進路を確保しておくことが必要だ。

世界各地を体験したい――という旅行者の期待にもっと応えられるよう、我々は、これからも試行錯誤を続けていく。

競争で優位な立場に立つために

実は私は心配性で、いつも周りの人のことまで気になってしまう性分だ。先日、妻と一緒にアフリカへ旅行し、ボツワナで徒歩でのサファリに出かけた。同行したガイドが我々の警護役を兼ねていて、巨大なライフル銃を肩にかけていた。歩いていると、200メートルほど前方にライオンが数頭、見えた。

私がガイドに「あのライオンに注意した方がいいかな?」と聞くと、「前にいるライオンなら心配しなくて大丈夫」との返事。本当に大丈夫なのかと私が怖がっていると、ガイドはライフル銃を構えて覗き込み、我々の周囲360度をぐるりと見まわした。

それからガイドが私に向かって言った。「あなたに見えていないライオンのことを、もっと心配したほうがいい」。なるほど。さて、私に見えていないものとは何だろう。

シートリップについて

シートリップ(Ctrip)は、当社のすばらしいパートナーだ。業績は絶好調で、経営陣も旅行業界屈指のチームだ。当社はシートリップに大きく投資しているので、感謝したい。中国は巨大な市場だ。どの企業も、まだ十分に利益をあげられるだろう。もちろん中国以外の市場でも、旅行需要は大きく、誰にでも大成功の可能性がある。

※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事: Priceline’s Glenn Fogel on metasearch, home-sharing, direct booking, and localization in China

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…