セーバー・ホスピタリティー・ソリューションズは、日本のホスピタリティー業界向けに「Digital Next Arena (DNA)」と題したセミナーを開催し、宿泊施設による直接予約の市場動向や求められるソリューションについて解説した。セーバーは日本では、インフィニ・トラベル・インフォーメーションをパートナーとするGDSプロバイダーとして知られるが、20年前に立ち上げられたセーバー・ホスピタリティー・ソリューションズは、ホスピタリティー業界に特化したソリューションを開発している。
主力プロダクトは宿泊施設向けの直接予約エンジンとなるCRS(Central Reservation System)プラットフォーム「SynXis (シナキシス) CR」。現在のところ、世界179カ国の4万軒以上の宿泊施設で展開している。そのうち、アジア太平洋地区では約4000軒、日本でもJRホテルグループ、オークラ・ニッコー・ホテルズ、三井不動産などが運営するホテルなど約300軒での導入実績がある。
プラットフォームであるSynXisには、さまざまなパートナーがクラウド上でシームレスに統合されている。その数は現在のところ、プロパティーマネージメント155社、レベニューマネージメント15社、CRM関連21社、チャネルマネージメントソリューション25社が参画。日本の企業ではNECのソリューション、予約販売管理システムの「TL-リンカーン」やチャネルマネージメントの「手間いらず」も加わっている。
世界で拡大する直接予約、収益性確保や顧客化の一助に
同社APAC地区マネージング・ディレクター兼CCOのフランク・トランパート氏は、SynXisについて「直接予約において、これまでのマニュアルのプロセスを自動化し、マネージメントの効率化を手助けすること」と説明し、効率化することで人的資源をより顧客体験の向上に投入することが可能になると話す。
同氏によると、宿泊施設の直接予約の比率はアメリカでは20%、ヨーロッパでは15%で「その比率は年々拡大している」が、日本はまだ10%にも満たないという。セミナーでプレゼンテーションを行った同社APAC地区セールス・アカウントマネージング担当副社長のニック・ジェフリー氏は「ヒルトン、IAG、マリオットなど大手ホテルチェーンは、キャンペーンを展開し、直接予約の獲得に力を入れている」と明かす。
その背景には、「流通コストの負担が大きく、稼働率は高いにもかかわらず、それに見合うだけの収益性を確保できていない」ところにあるという。また、トランパート氏もOTAの実用性は認めながらも、「そこですべての顧客にリーチできるわけではない。ひとつの予約チャネルに頼ることは、より広い顧客層にリーチするチャンスを逃すこと」と話し、宿泊施設にはさまざまな予約動線を持つオムニチャネル化が必要との見解を示した。
また、直接予約のメリットのひとつが顧客のプロファイル化だ。宿泊施設は顧客と主導的にコミュニケーションを取ることによって、顧客データを収集。そのデータを活用すれば、賢く囲い込みを行うことが可能になる。「滞在日数、滞在人数、平日/休日などのデータから、顧客の傾向を分析洞察して、関連する商品をダイナミックに提案することが大切」とジェフリー氏。SynXisでは、宿泊施設のコールセンターの情報を一元管理し、顧客データ化する「SynXis Voice Agents」という機能も搭載しているという。
セーバー・ホスピタリティー・ソリューションズは、多くの機能のうち特にパーソナライゼーションへの投資を強化。ジェフリー氏は「スィートを探している人には、スィートを優先的に提案していく。それによって確実にコンバージョンを上げることが可能になる」と話し、その狙いを明かす。また、データに基づいたCRMやeメールマーケティングなどを通じたパーソナライゼーションは、アップセールの機会創出になるほか、「顧客との情緒的なつながりを持つうえでも重要なこと」と強調。それが、囲い込み、つまりリピーターを生み出すことにもつながると説明した。
さらに、収益性を上げるためには、宿泊予約だけでなく、オンライン上で追加商品を販売することも大切になってくると指摘。「航空業界は2018年、1000億ドルの売上をアンシラリー(航空券以外の付帯サービス)から得ることができたと言われている。アンシラリーを差別化として、消費者はOTAやホールセラーを介さずに航空会社の公式ウェブサイトを訪問するようになった。その導線はホテルでも可能だろう」との認識を示した。
このほか、ジェフリー氏は、直接予約システムで重要な要件として、モバイルを意識したレスポンスデザインの構築、クロスデバイスの対応、SEO対応においてホスピタリティー業界を熟知したエキスパートとのパートナーシップ、パートナーとしてのメタサーチ対応、SNSとの連動などを挙げた。
収益性向上に加えて、SynXisを活用した直接予約では、特定市場でのマーケティングやOTAのようなレートミキシングも可能になることから、「OTAから顧客を呼び戻すことができる」とアピール。来年からは機械学習を導入し、リコメンデーション機能を加えることで、アップセールの機会を増やしていくとしたほか、今後は新しいブッキングエンジンとして、グーグルアナルティクスを活用して、部屋ごとのコンバージョン率も把握できる機能を加えることも明かした。
ITテクノロジーの導入で他国に遅れをとる日本
「日本のインバウンド市場はこれからさらに拡大する」とトランパート氏。その受け入れのためには、「より広い消費者の心を掴む必要がある」とし、日本の宿泊施設に新たな直接予約ソリューションの導入を呼びかける。SynXisはバックエンドでは複雑にシステムがつながっているが、フロントエンドはクラウド上で統合されたプラットフォームであるためユーザフレンドリー。初期投資も少なく、簡単なトレーニングで使用することが可能だとする。
アジア太平洋では、韓国、台湾、香港、シンガポール、オーストラリア、インドなどがITテクノロジーの活用に積極で、SynXisの導入も進んでいるが、日本のホスピタリティー業界は成熟した既存の仕組みがあるため、逆にITテクノロジーへの適用や応用が遅れているという。「日本は技術的に遅れているわけではない。技術を使わないのが問題」と指摘したうえで、「今後、東京オリンピック/パラリンピックに向けて、世界の大手ホテルチェーンが市場を席巻するかもしれない。それに対抗するためにも、直接予約ソリューションは有効になる」との考えを示した。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹