近年の民泊の活況は、宿泊施設の流通・プラットフォームに変化を起こしている。グローバルOTAがバケーションレンタル(民泊)に注力する一方、民泊のフロントランナーであるAirbnbはホテル客室の取り扱いを強化。民泊とホテルは同一プラットフォーム上に掲載され、ユーザーのあいだでも民泊は宿泊の選択肢のひとつとして認知されつつある。
また、大手ホテルチェーンもバケーションレンタルに参入するなど市場はさらに渾然一体となってきた。バケーションレンタルを「HOME」と定義するブッキング・ドットコムは、そうした市場環境や旅行者ニーズの変化をどのように認識し、サービスを展開しているのか。HOMEを担当するバイスプレジデント・グローバルセグメンツのオリヴィエ・グレミヨン氏に聞いてみた。
同一プラットフォームでホテルもバケーションレンタルも検索
「ホテル以外の宿泊体験を求めている旅行者は多い。HOMEはブッキング・ドットコムの大きな戦略のひとつ」。
グレミヨン氏はそう話し、今後もバケーションレンタルを強化していく方針を示す。現在、ブッキング・ドットコムのプラットフォームに掲載されている宿泊施設の掲載室数は約2800万件。そのうちバケーションレンタルは約580万件にのぼる。日本では94万件を超える掲載室数のうち、バケーションレンタル物件は約4万6000件だ(2019年3月時点)。
同社サイトでは、ホテルとバケーションレンタルは同一のプラットフォームに掲載されており、ブランドを分けてそれぞれ別々のプラットフォームで展開することはしていない。ユーザー視点に立つと「好みの施設を探すのに、3つも4つも違うウェブサイトを渡り歩くのは不便」(グレミヨン氏)だからだ。旅行者が求める宿泊体験は多様化しており、旅行のタイプによって必要とする施設もアメニティも異なる。
「たとえば、子供がいる家族が都市に泊まる場合は、ホテルよりもアパートメントが便利だろう。一方、地域体験や地域の人たちとの交流を求めるなら、いわゆる一軒家の一室に泊まる民泊やファームステイを探すだろう」。最適なロケーション、最適な価格、最適なアメニティ、そして最適な部屋サイズ。グレミヨン氏は「そうした条件をひとつのプラットフォームで比較検討できることがブッキングドットコムの強みのひとつ」と自信を示す。
不正防止などオーナー向けサポートも強化、ユーザーにはパーソナライゼーション
また、使いやすいプラットフォームに加えて、バケーションレンタルオーナーやユーザーに対するサポートも「競合他社よりもスケールが大きい」と話す。オーナー向けには、新たにオーナー自身で物件の管理や不正行為の防止が可能になるツールを発表した。主な機能は3つ。まず、「バーチャル・アカウント・マネージメント」では、機械学習技術をベースとしてオーナーひとりひとりに合わせたサポートをカスタマイズする。また、オーナー向けのアプリも強化。アプリ上で物件情報のアップデートや予約管理、ゲストとのコミュニケーションも可能にした。
さらに、予約前にゲストに対して物件の使用上の注意を確認してもらうことでお互いの信頼性を高めるほか、ゲストの不正行為をすぐに報告できる機能も付加することで安全性も向上させた。
ユーザーに向けては日本語を含む43言語でカスタマーサポートを展開。そのスタッフ数は世界で8000人を超えるという。
対面コミュニケーションを武器とするリアルエージェントとの比較で、OTAの弱みはカスタマーサポートだと言われるが、グレミヨン氏は「ブッキング・ドットコムは、リアル旅行会社にはないテクノロジーを駆使したサポートを展開しているし、今後も強化していく」と強調する。たとえば、プラットフォーム上でのチャットボット。現在、英語による質問のうち約60%がチャットボットによる回答になっているという。
ブッキング・ドットコムはテクノロジー企業という側面も強い。「毎日テストを繰り返し、さまざまな機能の改善を図っている」とグレミヨン氏。独自に翻訳機能を開発しているほか、ユーザーのパーソナライゼーションにも力を入れている。パーソナライゼーションは、AIをベースとしたサービスにおけるキーワードのひとつ。「5つ星ホテルやヴィラに泊まる頻度の高いユーザーには、ファーストオプションとして2つ星ホテルは提案しない。そうすれば、検索で疲れることもないし、決断も早い」。
一方で、グレミヨン氏は、「リアル旅行会社での対面販売のように、他のオプションの余地も残しておくべきだろう」と続ける。AIベースのパーソナライゼーションが、どこまでヒューマンタッチのコミュニケーションに近づけるのか。ブッキング・ドットコムのテクノロジー開発の挑戦は続く。
競争激化も自社戦略に自信、地域の事情に合わせた対応も必要
グレミヨン氏は今後のバケーションレンタル市場について、「さらに成長するだろう」と見通す。
ユーザー視点では「たとえば、アパートを3週間留守にする場合、そのままだと家賃を損するだけ。その期間だけレンタルして収入を得るのはスマートな方法」との考え。また、事業者視点では「特に夏の繁忙期だけ需要を満たしたいのであれば、新たに施設を建設するよりも、バケーションレンタル物件を借り上げたほうがいい」と話す。
マリオット・インターナショナルは4月、新ブランド「Homes & Villas by Marriott International」を立ち上げた。インドのホテルチェーンOYOはヨーロッパのバケーションレンタル企業を買収。Airbnbは当日ホテル予約に強みを持つ「HotelTonight」を買収し、ブティックホテルをインベントリーに加えた。グレミヨン氏は「他社の動きは注視しているが、特に気にかけることはしていない」と話し、ブッキング・ドットコムの戦略に自信を示す。
新しい旅行体験とバケーションレンタルは相関する。旅行の頻度が増えるごとに、新しい旅のスタイルやこれまでにない体験への期待は高まり、それに応える形でバケーションレンタルも増えていくのかもしれない。
一方で、事業者としてバケーションレンタルにビジネス上のリスクはないのだろうか。
たとえば、規制は国によっても都市によっても異なる。「プラットフォームとしては、それぞれの物件規制をきちんとオーナーに伝えていき、プラットフォームに課せられた規制についてはしっかりと遵守していく」とグレミヨン氏。利益を生み出す需要が拡大すれば、細分化する規制の遵守もビジネスの障害にはならないということだろう。
また、一般家庭の部屋貸しの場合、住宅地に一時滞在者として旅行者が入り込むことになる。旅行者にとっては、暮らすように旅ができる楽しみがある一方、居住者にとってはトラブルの元にもなりかねない。「それはバランスの問題だろう」とグレミヨン氏。「365日入れ代わり立ち代わり知らない人間が宿泊するのであれば、何らかの問題が起こるかもしれないが、法律で決められた日数であれば、問題が起こる可能性は低いのでは」との考えだ。
バケーションレンタルは地域によっても事情は異なる。「たとえば、京都は古い建物が残り、その保存や火災などの緊急の場合を懸念する声が上がるのは理解できる」とし、それぞれの事情に合わせた対応が必要になるとの考えを示す。そのうえで、「ゴミの出し方、リサイクルの仕方など、いわゆるハウスルールをゲストにきちんと伝えることが必要。ブッキング・ドットコムはプラットフォームとしてオーナーをサポートすることができる」と続けた。バケーションレンタルが持続可能な宿泊施設になるためには、ゲストとオーナー間だけでなく、地域との信頼関係が必要になってくる。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹