タビナカ市場で起きている成長と変化を聞いてきた、タビナカ国際会議「アライバル」CEOが語った大きなチャンスとは?

今年7月に開催されたデジタル旅行の国際会議「WiT Japan & North Asia 2019」で注目を集めたテーマのひとつが「タビナカ」だ。英語でIn-destination あるいはThings to doとも表現されるこの分野は、世界的に、特にアジアにおいて飛躍的に伸びている。需要の増加に合わせて、さまざまな予約プラットフォームが登場し、彼らに対する投資も拡大。「タビナカ・バブルが起きている」とも言われている。世界的なタビナカ国際会議を主催する「ARIVAL(アライバル)」のCEOダグラス・クインビー氏は、そのマーケットの動きを注意深く見ている。現在のタビナカ市場のトレンドとは?タビナカサプライヤーが抱える課題とは?クインビー氏の洞察を聞いてみた。

アジアで成長著しいタビナカ市場

タビナカは現在、旅行分野において航空、ホテルに次ぐ3番目に大きな市場となっている。なかでもアジアは世界でも最も活発なマーケットになっており、その取扱高の成長率は2017年から2022年の5年間で年平均7%になると予想。米国の4%、欧州の3%を大きく上回ると見込まれている。金額ベースでは約1500億米ドル(約15億円)拡大するとされていることから、クインビー氏は「タビナカでアジアは非常に潜在性の高いマーケットになっている」と話す。

その潮流は、アジアで立ち上がったスタートアップへの投資額からも分かる。クインビー氏によると、2017年以降タビナカ・スタートアップが調達した金額は計12億米ドル(約1200億円)。そのうち実に47%がアジアのスタートアップに対する投資だ。その代表格が香港のKlook(クルック)で、実に5億2500万米ドル(約525億円)もの資金を調達した。また、日本のベルトラは昨年12月に東証マザーズに新規上場(IPO)したところ、株価は約3倍になった。

プレゼンテーションより

オンライン化が進まないタビナカの現場

一方でクインビー氏は、アジアでのタビナカビジネスには難しさがあるという。「アジアにはさまざまな言語が存在し、国によって海外旅行市場の状況も異なる非常に複雑なマーケット」だからだ。さらに、タビナカは航空やホテルとは異なり、対象範囲が非常に幅広い。ウォーキングツアー、料理教室、ジップライン、サイクリングなどからディズニーランドまでさまざまなアクティビティがあり、「カテゴライズが難しい」分野だ。

そのなかでカギとなってくるのが予約のオンライン化だが、クインビー氏は「アジアの中小ツアーオペレーターの多くは未だにオフライン流通。予約システムを近代化していないし、OTAとさえ繋がっていない」現状を明かし、航空やホテルと比べるとかなり遅れているとの認識を示す。

東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどはブランド力があるため、ダイレクトに消費者にアクセスすることが可能だが、「大部分のオペレーターはローカルDMCやOTAと協業せざるを得ない」。旅行者の予約トレンドを見ると、たとえば、東南アジアでのタビナカの予約は実施日の1日か2日前が50%以上。クインビー氏は「だからこそ、間際予約対応のためにモバイルを強化していく必要がある」と強調する。

プレゼンテーションより

オンラインの予約プラットフォームの立ち上げ、あるいはOTAと連携したとしても、課題はまだある。クインビー氏は、タビナカはホテルなどとは予約のタイムラインが異なるうえに、「『どこに泊まりたい』と『何がしたい』とは全く異なる性格の問いであり、ツアーやアクティビティの予約動線はホテルと同様の仕組みで考えるべきではない」と指摘した。

リージョナルプレイヤーにも小規模な会社にも大きなチャンス

クインビー氏は、タビナカ業界の現状を「Landgrab (土地を奪い取る)が起きている」と表現する。

ひとつのプラットフォームで旅行に関わるすべてを予約したいという旅行者のニーズに応えるため、大手OTAはできるだけ多くのサプライヤーを奪い取ろうとしている。「しかし・・・」とクインビー氏。タビナカは多種多様で、ときにはリスクを伴うアドベンチャーアクティビティもある。「トリップアドバイザーは欧米で、Klookは香港やシンガポールで成功を収めているが、同じモデルが日本や韓国でも当てはまるとは限らない。だから、リージョナルプレイヤーが成功する余地は大きいのではないか」と洞察した。

また、タビナカの将来について、「さらに早いスピードで成長していく分野だと思う。今後これまでとは異なるタイプの体験も増えていくだろう」とコメント。そのうえで、細分化するタビナカの供給をオンライントラベルのエコシステムにまとめるテクノロジーも進化しているため、「大手だけでなく、小規模な会社でも予約、在庫管理、流通、プライシングなどさまざまなシステムとつながることができるようになる」と見通す。クインビー氏は、そのために必要な措置をPlumbing、つまり配管工事と表現した。

新しいタビナカソリューションも続々登場

タビナカのトレンドは目まぐるしく変化し、新しいコンテンツやソリューションも生まれている。「たとえば」とクインビー氏。タイのHiveStarsというスタートアップは、社会事業だけに特化した現地体験を提供している。その土地の食や工芸品などを現地の職人から学ぶツアーで、「地域活性化ともに、旅行者の地方への分散化という意味でオーバーツーリズムの解決策のひとつとしても注目されている」という。

旅行者のわがままに応えるモバイルソリューションも続々と登場している。グルーポンの創業者アンドリュー・マンソン氏が新たに立ち上げた「Detour」は、旅行者の位置情報をGPSで掴み、その場所をセルフガイドするソリューションで、グループでは動きたくない旅行者向けに開発された。

また、ヨーロッパ発祥の「Walks」は、通常のシティーツアーに加えて、モバイルアプリでWalk on Walk offツアーを可能にした。つまり、自分の好みに合わせてグループのツアーに自由に出入りできる仕組み。たとえば、パリのシティーツアーでエッフェル塔には行きたいが、オペラ座は興味がないという個人旅行者のニーズに応えている。現在はヨーロッパの主要都市とアメリカのニューヨーク、サンフランシスコ、ニューオリンズで提供しているという。

「すべてテクノロジーの進化で可能になったことだ。タビナカではとてもエキサイティングなことが起こっている」。

クインビー氏は今回WiTのため初来日。インタビューの最後に楽しそうにこう付け加えた。「このあと、7日間で北海道を巡る自転車ツアーに参加するんだ。旅行とはビーチでのんびりすることだけじゃないよね。タビナカでは何かを学ぶことも大切な要素。たとえば、その土地の料理を食べるだけでは満足しない旅行者は、それがどのように調理されているのか知りたがる。つまり個人的な体験。自転車ツアーでも北海道のことを学べる機会がいっぱいあると思うよ」。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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