今後10年の観光メガトレンド、変わる地域と観光事業者の関係性、その後の未来とビジネスチャンス -トラベルボイスLIVEレポート(PR)

コロナ禍を経て消費者の生活とマインドは大きく変化した。観光にも新たな概念、価値観、関係性が生まれている。この変化に地域や観光関連事業者はどう対応し、自ら収益を得ながら、観光客と地域住民にも利益のある観光振興ができるのか。

2022年11月下旬に開催したトラベルボイスLIVEでは、コンサルティング大手EY JapanのメンバーファームEYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナー平林知高氏が出演。コロナ禍によって観光分野で加速した3つの変化を解説し、今後10年の展望と商機のヒントを提示した。

コロナ禍で加速した3つの変化

平林氏はまず、コロナ禍で加速した観光の変化として、(1)観光の概念、(2)観光客の価値基準、(3)観光客と観光地のパワーバランス、の3つを提示。

(1)概念の変化では、コロナ禍の移動制限によって、観光の大前提は「移動」という概念がなくなった。観光を捉え直し、デジタルによる疑似ツーリズムも一般化。「域外の観光客や潜在客に販売して消費につなげることを、本当に考えなければならなくなった。これがコロナ禍で顕在化した」と説明した。

(2)観光客が求める価値基準の変化については、観光地の選択が「『価格、利便性』から、一定の対価を支払っても『安心安全』を重視する傾向が強まった」と説明。「サステナブルな観光」や、よりよい暮らしの豊かさという意味での「ウェルネス」の意識が高まっているのも、価値観の変化という。

(3)観光客と観光地のパワーバランスについては、以前は一部地域を除き、誘客側の観光地は相対的に立場が弱く、安い価格を設定しがちだった。しかし、一部でコロナ以降はルールを守らない観光客は拒否するなど、地域を守るための主張をするようになり、勢力均衡が同等、あるいはそれ以上になってきている状況が見受けられた。

平林氏は、観光の再開後に一部の地域で以前の考え方に回帰する動きがあることを指摘しつつも、「適正な対価を設定しなければ持続的な発展が見込めなくなるので、やはりシフトしていく」と、必要性からも観光地が強くなる方向へ変化すると展望した。

当日の発表資料より

キーワードは「デジタル」「サステナブル」「ウェルネス」

では、これらの変化をどのように捉え、対応していけるのか。平林氏は、取り組むべきヒントを示した。

まず、「移動」が前提ではなくなった観光では、「大きな話として『メタバース』(仮想空間)と、(デジタルデータに資産価値を付けられる)『NFT』が考えられる」と提示。これにより、観光では1. 疑似訪問による制約(距離や身体的ハンディキャップ、時間など)の排除、2. 観光地と観光客とのより深いコミュニケーションの進化、3. 新たなマネタイズの機会創出、という3つの可能性が生じるという。

平林氏は、メタバースとNFTについて「地域の持続可能な観光地経営を進めていくには大きなチャンス」としつつ、観光で活用する際には「リアルとバーチャルとの関係性をどう考えるか。また、バーチャル空間で地域にお金を落とす仕掛け、マネタイズを考えることも大切なポイント」と話した。

価値基準の変化に対しては、キーワードに「サステナブル」と「ウェルネス」をあげた。サステナブルについては、訪日市場の多勢を占めるアジアの旅行者が変化し、コロナを機にサステナブルな旅行を志向するようになったことを指摘。ウェルネスについては、外部調査で、ウェルネスツーリズムが年平均20%超の成長が予測されていることを紹介した。特に日本は「食や生活などの印象が良く、ウェルネスで求められる地方の自然や文化を生かせるので、今後の有望なマーケット」と説明した。

観光客と観光地のパワーバランスに関しては、観光地の価格設定の状況として、世界と日本の平均客室単価の推移を紹介。2007年を基準とすると、米国や英国をはじめ世界平均はコロナでいったん下落したものの、2021年時点で2007年レベルに回復した。しかし日本は、過去最高の訪日客数を記録した2019年でさえも2007年水準を下回り、さらにコロナで下落。2021年は2007年の7割で、世界の動きとは乖離していた。平林氏は「コロナの間に設備投資をした施設は多いと思う。観光地側が継続的に価格転嫁をすることが必要」と話した。

EYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナー 平林知高氏

「ツーリズムの日常化」と「日常のツーリズム化」

コロナ禍で大きく変化した観光。変化を経て、今後10年、どうなっていくのか。平林氏が展望するメガトレンドは、大きく6つ。観光客と観光関連事業者、観光地の、3者それぞれに2つの観点で変化があるという。

まず、観光客については、コロナ禍でのテレワークやマイクロツーリズムの経験から、観光でも日常との境界が曖昧になり、「観光の捉え方と対象が変わる」と説明。観光の捉え方では、以前の観光は休暇を取得して行くものだったが、現在は「ワーケーション」(旅先テレワーク)も浸透し、「働く場所」に「住む(いる)」必要性がなくなったことから、自宅以外の場所で滞在しながら仕事と観光をする意向も増えてきた。こうした動きを平林氏は「ツーリズムの日常化」と呼んでいるという。

また、観光対象は、テーマパークや温泉などの「非日常」の観光地だけでなく、個々の「日常」の嗜好に沿う対象にも拡充。コロナ禍でのマイクロツーリズムの浸透で、自分の近いところにあるものが観光対象となり、日常が観光のコンテンツとなっていく。平林氏は、こうした変化を「日常のツーリズム化」と表現しているといい、これからは「あらゆる場所が観光地となる要素がある」と展望する。

当日の発表資料より

観光客と事業者、観光地の関係はより深いものに

観光事業者に関しては、観光客と事業者との関係がそれぞれ変化するという。

以前の観光事業者と観光客との関係は、一時的で一方的な関係だった。それが、ワーケーションなど長期滞在のスタイルを推進することで、「観光客と地域の事業者との接点が増えて関係性が緊密化し、持続的で双方向な関係に変わっていく」と展望。事業者同士の関係も、今後は「地域として潤うことを目指し、全体最適な方向で地域や業界内での連携が進む」と話した。この動きは、地域の観光DXの進展にも関係していくという。

さらに観光地については、「観光客と事業者との関係性や価値が変化する」と説明。観光客と事業者との関係性では、地域が中心になって域内の交流連携を促進する方向へと変わっていく。また、地域が重視する価値は「住民との共存共栄」に変化。平林氏は「地域住民と観光客の便益を両立させるために地域が間に入り、サステナブルな観光地を作っていくことがトレンドになる」と話した。

当日の発表資料より

6つのメガトレンドが進んだ観光の姿とは?

これら6つのトレンドが台頭していくと、観光はどうなるのか。

平林氏はまず「日常のツーリズム化」「ツーリズムの日常化」が進んだ地域は、「滞在が長期化し、地域固有のものが観光対象として尊重されるようになるため、観光客と住民の関係が密になる。その結果、何度も訪問される場所になる」と展望。また、「ファンになった場所に滞在して仕事をするというパラダイムシフトが起きれば、観光客と地域の事業者との関係も深まっていく。そうなると、両者の関係性をつなぐ形としての観光地の姿も台頭するだろう」と話した。

平林氏は、こうした変化によって「観光そのものが変わる」との見方を示す。観光の経済的側面だけではなく、今後は社会的側面も重視されるようになるという。

観光は、すそ野の広い産業であるため、あらゆる産業が地域観光に参画するようになる。イノベーションには新たなアイディア持つ新規参入者が欠かせないことを考えると、観光が地域のインキュベーターとしての役割を担うことになる。平林氏は「観光の本質は文化や言語、自然など『異』に触れること。教育を含め、社会的側面にも注目される存在になるのが、今後10年で変化する観光の姿」と締めくくった。

当日の発表資料より

最後にトラベルボイス代表の鶴本浩司は、平林氏が講演したコロナ禍の3つの変化と、今後の6つのメガトレンドをラップアップ。すでに取り組みを始めている国内外の地域や事業者の例を、弊誌が発信してきた過去の記事とあわせて説明した。

例えば、地域の取り組みとして、ハワイ州観光局(HTA)が地域住民の満足度をKPIに設定した記事を紹介。「誘客側のKPIは域内の消費額を設定しがちだが、ハワイ州は地域コミュニティの満足化をKPIにしている。そんな時代になっている」と、平林氏の展望を裏付ける変化の例として解説した。

トラベルボイス代表取締役社長CEOの鶴本浩司

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記事:トラベルボイス企画部

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