EYストラテジー・アンド・コンサルティングのストラテジック インパクト パートナーである平林知高氏が、2025年を迎えるにあたって年頭所感を発表した。
平林氏は、2025年はツーリズム業界のさらなる好況が予測されていると述べる一方で、地方部への分散、オーバーツーリズム、人手不足の問題が顕在化していると指摘。生成AIをはじめとした業務効率化、旅行者とサプライヤーとの情報の非対称性からの構造変革などが今後求められてくると訴えた。
また、旅行者の増加に伴う整備などのコストをどう捻出するか。宿泊税を含め、短期的なゴールではなく、あるべき方向性をツーリズム関連事業者から内発的に議論が起きることが持続可能な地域の方向につながるとの考えを示した。
発表された内容は以下のとおり。原文のまま掲載する。
2025年 年頭所感 ―さらなる成長に向け、今こそ業界構造の変革を
明けましておめでとうございます。
2025年の新しい年を迎え、謹んで新春のご挨拶を申し上げます。
2024年はツーリズム業界にとっては、過去最高のインバウンド旅行者数、そして消費額を記録しているように、コロナ禍で停滞した人の流れが回復し、ツーリズムを通じたさらなる地域活性化、経済成長を目指すスタートラインに戻った1年であったのではないでしょうか。そして、本年2025年は、インバウンド旅行者4000万人の大台を超え、観光消費額も9兆円超えが期待されるほど、好況が予測されているとも言われています。
こうした明るい未来である一方で、コロナ禍前からの課題でもあった都市部、いわゆるゴールデンルートに偏重する旅行者の集中を地方部へいかに分散させるか、また、旅行者が一つの地域への集中やマナー違反に起因する旅行者と地域住民のコンフリクト、いわゆるオーバーツーリズムの問題もクローズアップされ始めています。
最新テクノロジーを活用し、魅力あるツーリズム産業への変革を
宿泊施設をはじめとしたツーリズム産業にとって、インバウンド旅行者の増加は喜ばしいことである一方、人手不足が慢性化しており、その需要に応えきれるか懸念があります。生成AIをはじめとした最新のテクノロジーを活用して、業務の効率化を図り、人手不足を補う取り組みを一層進めるとともに、ツーリズム業界が「魅力的な働く場」として認知されるよう、業界全体で情報を発信し、新たな担い手の流入を促進する環境を構築していくことが求められていると言えます。
また、より一層の付加価値を旅行者に提供していくためには、宿泊施設やアクティビティ事業者、ガイド等のサプライヤー側が旅行者の需要をきちんと把握し、自らのサービスがきちんと届けられる仕組みが必要だと考えられます。現状、こうしたサプライヤー側が直接、旅行者側のニーズを把握しづらい事業環境になっていることもあり、情報の非対称性から付加価値の高いサービス提供の創出のボトルネックになっている可能性があります。こうした構造を変革していくことも、今後求められていくのではないでしょうか。
豊かな地域の実現に向け、デスティネーション・マネジメントの強化を
インバウンド旅行者の増加は、その地域の住民にとっては、地域の魅力や価値の再発見につながるポジティブな影響を及ぼす一方で、旅行者の増加により日々の生活に支障が出てしまうと、オーバーツーリズムとして、ツーリズムにネガティブになる傾向があります。観光地では、旅行者の誘致のみに注視していると、本来、ツーリズムにより地域を豊かにするはずが、地域住民から反発を買ってしまうという意図しない結果につながる危険性が出てきます。
また、旅行者の誘致や増加に伴うインフラ整備等のコストを誰が負担、どのように捻出するかといった議論も起きています。海外事例も踏まえて各地で宿泊税等の議論が始まっていますが、短期的なゴールではなく、本当に在るべき方向性を、きちんとツーリズム関連事業者側から内発的に議論が起きることが、持続可能な地域の方向につながると考えられます。
また、日本のDMOは海外と異なり、構造的な課題を抱えていることもデスティネーション・マネジメントの難しさを浮き彫りにしています。
ツーリズムを通じて、地域を豊かにしていくために、既存の枠にとらわれない、改革・議論がなされていくことで、よりツーリズムが成長のエンジンとなるのではないでしょうか。
EYでは、地域のステークホルダーの皆さまと一緒に、経営改善、構造改革のご支援をさせていただくとともに、ツーリズムを通じた豊かな日本、地域を実現すべく、取り組みを進めてまいります。
本年も何とぞよろしくお願い申し上げます。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクト パートナー
平林知高