オンライン旅行業界にアジア太平洋地域で影響を与えた10人 -WIT2014

オンライン旅行(OTA)業界の国際会議「WIT(Web In Travel)」では、2014年10月、本拠地シンガポールでの開催10周年を記念し、この10年間でもっとも業界に影響を与えた人物や組織を「アジア太平洋地域・OTA業界のインフルエンサー トップ10(top influencers in online travel in APAC in the past decade)」として選出した。日本からは、旅行商品の検索・比較サイト「Travel.jp」やホテルのクチコミ情報サイト「Hotel.jp」を運営するベンチャーリパブリックの柴田啓氏が受賞した。

*写真は授賞式の様子。左から、ロス・ヴィーチ氏、エイドリアン・カリー氏、キャスリーン・タン氏、マーチン・サイムス氏、フリッツ・デモプーロス、シュウ・フーン氏(WIT主宰)、ロバート・ローゼンスタイン氏、モリス・シム氏、ケユール・ジョシー氏、柴田啓氏、メリッサ・ヤン氏、フィリップ・ウルフ氏(ラム・バドリナス氏の代理)。クリックで拡大

受賞者は以下のとおり。(カッコ内は所属と役職)


▼受賞者

1. ロバート・ローゼンスタイン氏 (アゴダ:共同創設者で最高経営責任者)

アジアを中心に展開するオンラインホテル予約サイト「アゴダ・ドットコム(Agoda.com)」の共同創設者で最高経営責任者。1990年代初頭に旅行者として訪れたタイに惚れ込み、タイを拠点としたオンラインホテル予約事業に出資。いまやアジア有数の大規模事業に成長させた。

ローゼンスタイン氏が成功のカギになると考えているのは、パートナーやその能力を慎重に選定することと、自然ににじみ出る高度な知性、競争力、人間としての謙虚さ、確固たる倫理観を持ち合わせた人を大切にすることという。今後もスタートアップ精神を忘れず、若い世代の声やアイデアを取り込む社風を維持していきたいとしている。


2. フリッツ・デモプーロス氏 (チューナー:共同創設者、クイーンズロード・キャピタル:最高経営責任者)

中国の百度(Baidu)傘下にある大手旅行サイト「チューナー・ドットコム(Qunar.com)」の共同創設者で、同サイトのメタサーチエンジンを開発したことで中国のオンライン旅行業界に変革をもたらした人物として知られる。また、WIT会議の支援・指導役として長年活動してきた経緯も持つ。現在は投資家として、「GetYourGuide.com」ほか、アジアにとどまらず世界で多数の旅行関連事業に出資を行う。

デモプーロス氏が、昔から思い続けているのは「業界に改革をもたらす、既存の仕組みを破壊するようなビジネスを探す」こと。競合が多数存在し、ルールが確立していないような市場でも引き続きダイナミックに活動していきたいとコメントしている。


3. ディープ・カルラ、ケユール・ジョシー氏と共同創設者一同(メイクマイトリップ

2000年にインドを拠点とした「メイクマイトリップ(MakeMyTrip)」を設立、5年後には米国・NASDAQ市場への株式公開を実現させた創設者一同が受賞。同社の実績はアジア発・世界的なサクセスストーリーとして知られているだけでなく、市場の変化や競争激化のなかでも常に「軽快かつ革新的」に事業を推進した点が特徴とされる。

最近では若い世代の起業家のために1500万ドルものの「イノベーション・ファンド」も設立。今後もアジアにおけるオンライン旅行事業のけん引役になることが期待されている。


4. キャスリーン・タン氏 (エアアジア・エクスペディア:最高経営責任者)

本社をシンガポールに置くエアアジア・エクスペディア(AirAsia Expedia)の最高経営責任者。広告業界とエンターテインメント業界を経た後に航空事業会社エアアジアに入社、さらに世界最大のオンライン旅行会社エクスペディアとの合弁会社設立に寄与するというパワフルなキャリアを持つ。

アジアのDNAをグローバルなブランドに広めた功績で受賞したタン氏は、複数企業が互いにうまく機能する関係を作ることで互いに利益を得ることができると確信。今後もオンライン旅行業界全体を成長させていく考えだ。

5. メリッサ・ヤン氏 (トゥチャ:共同創設者で最高経営責任者)

大手オンライン旅行会社エクスペディアを離れ、2010年に中国で貸別荘(バケーションレンタル)事業を行う「トゥチャ(Tujia)」を起業。創設者兼最高技術責任者として、中国を基盤としてこれまでになかった事業分野を切り開いた功績を持つ。トゥチャは現時点で1.64億ドルの資金を調達するに至っており、ヤン氏の判断が正しいかったことが裏付けられたとされている。

ヤン氏は次のステップについて、「外国人旅行者が中国で滞在できる別荘を探す」または「中国人が海外で滞在できる貸別荘を探す」両方の場面をサポートしていく予定としている。


6. モリス・シム氏 (キルコス・ブランドカルマ:共同創設者で最高経営責任者)

アジアの旅行業界と「ホスピタリティ」に焦点を当て、デジタルマーケティングやブランド戦略を展開するキルコス・ブランドカルマ社の共同創設者で最高経営責任者。マイクロソフト社でマーケティングに従事後、ソーシャルネットワーク上の口コミ情報解析ツール「ブランドカルマ」を開発した経緯を持つ。

シム氏は旅行産業について何も知らない時代よりWIT会議に参加。この国際会議を通じてホテル業界を理解するに至ったという。今後は自分たちが行ってきた道を次の10年、20年の世代につないでいきたいとのコメントを残している。


7.  エイドリアン・カリー氏 (プライスライン・グループ:シニアバイスプレジデント)

米国を拠点とするオンライン旅行事業会社プライスライン・グループのシニアバイスプレジデント。同社の経営企画部門に籍を置き、アジア太平洋地域でのM&Aや投資活動を担当。過去2年間の投資額は50億ドルにも上る。

カリー氏は、古い時期からオンライン旅行事業に関わっていた強みを今後も活かし、アジア太平洋地域が持つすばらしい多様性と巨大な可能性を理解して取り組んでいきたいとコメントしている。


8. 柴田啓氏 (ベンチャーリパブリック:共同創設者で代表取締役)

ベンチャーリパブリックの創設者で代表取締役。日本から唯一の入賞者となった。日本におけるオンライン旅行業界のパイオニアとして、様々な障壁にぶつかりながらも「Travel.jp」「Hotel.jp」サイトなどを成功させただけでなく、WIT会議の日本開催実現にも多大に貢献。コミュニティの形成や業界発展に大きく寄与した実績が認められた。

受賞に際し柴田氏は「WIT会議はオンライン旅行事業の成長を追及する人々がつながる場」とし、日本の業界拡大にはまだなおこのような場が必要だと考えている、との展望を示した。

9. ロス・ヴィーチ氏と共同創設者一同(ウィゴー

シンガポールを拠点とし、アジア太平洋地域や中東諸国を対象とした旅行検索サイト「ウィゴー(Wego.com)」の運営を行う、同社の共同創設者兼最高経営責任者。オンライン旅行検索の市場がまだ確立しない時期より一貫してアジアにフォーカスをあてるビジネスモデルを行った。

ヴィーチ氏は今後、アジア太平洋地域をベースとしたメタサーチビジネスの時代がやってくるとし、「最初は試行錯誤の繰り返しでも、それは間違いなくエキサイティングな時間になるはず」とコメントしている。


10. マーチン・サイムス氏 (アバカスインターナショナル:バイスプレジデント)

航空券予約システム(CRS:computer reservations system)など旅行関連のシステム開発を手掛けるアバカスインターナショナルのマーケティング担当バイスプレジデント。早期からデジタルマーケティング分野に注目し、プライスオンラインやズジ(ZUJI)、ウィゴーといったオンライン旅行予約企業に従事する経験を持つことから、アジア太平洋地域全体におけるOTA業界成長への貢献も認められた。

サイムス氏はWIT会議で毎年充実した内容を提供してきただけでなく、会議が主催するチャリティ・オークションへの参加にも積極的という。

上記10名・組織のほか、旅行業界に特化した調査会社フォーカスライト(PhoCusWright)のリサーチアナリスト、ラム・バドリナス氏が特別名誉賞を受賞。現在同氏はOTA業界と異なる事業を手掛けているが、WIT会議の初期メンバーとして業界の成長に大きく貢献した実績が認められた。

今回の受賞者の多くが、「最初は旅行業界のことは何も知らなかった」と自己紹介した点が特徴的。また、スタートアップ企業のキーワードでもある「disrupt(打ち壊す、崩壊させる)」という言葉を交えながら、新しいビジネスへのチャレンジを語った点も共通している。


▼授賞式の様子:WIT 2014 - WIT Warriors: The Top 10 Influencers in Online Travel in APAC 【動画】

http://vimeo.com/112939963

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