取消される宿泊予約は何パーセント? 業務改善を検討すべき10のポイント

こんにちは。ホテルコンサルタントの堀口です。

最近よくお手伝いさせていただく分野の一つに、宿泊部門の業務効率化があります。ざっくり申し上げると、様々なホテル・旅館で技術の進歩や環境の変化を踏まえた業務改善が遅れており、みなさんががんばっている労力に見合った効果が得られていないという残念な状況にあるようです。

人口減少に進んでいる日本では、労働力の確保が難しくなりつつありますので、効率的に業務ができるようにすることは必要不可欠です。業務効率化は投資を伴うIT開発も期待されるところですが、現行の業務を見直すだけでも相応の効果があります。私のクライアントでも20%程度の改善が見られる事例が複数あります。

以下の10のポイントに思い当たる宿泊部門の方は、業務改善を検討したほうが良いでしょう。

  1. 予約が通知された日に全ての予約を1つずつ確認している
  2. 予約の通知はPMS(ホテルシステム)に自動で取り込まれるが、料金は手動で変更する必要がある
  3. 手配情報(例:チケット付き)を追加で入力している
  4. なんらかの修正・情報追加作業を行っている
  5. 予約通知を紙で出力している
  6. 宿泊日直前の確認作業は全ての予約を1つずつ確認している
  7. チェックインの際に、まず最初に紙の予約カードを探している
  8. 予約登録内容にミスや不十分な点が多い
  9. フルアサインを行っている(全ての予約に対してチェックイン前に客室番号を割り振ること)
  10. 特定シフトに残業の発生が偏る

業務改善を必要とする施設の問題点は、以下の点に集約されます。

  •  PMSの機能を活用できていない (例:料金の自動取り込み)
  •  環境の変化に対応できていない
  •  業務構築の要点に対応していない

(例:ナイト勤務の終業時間がチェックアウトピークにかかれば残業が発生しやすくなる)

さて、そんな中、今日は「環境に適応できていない」事例をご紹介しましょう。

現在の国内ホテル・旅館では、OTA(Online Travel Aget:楽天やるるぶ、じゃらん、一休など)や旅行会社からの予約は、TLリンカーンなどのサイトコントローラーと呼ばれるシステムを経由してPMSに自動的に取り込まれる仕組みが一般的となっています。(この状態にない施設はすぐにでもシステム会社に問い合わせするべきでしょう)

しかし、理論的には予約情報の全てが自動的に取り込まれるはずなのですが、現実には予約情報の取り込みは完全ではなく、施設側で修正・追加作業が必要になるケースが多々あります。

よく見られる修正・追加作業は以下の通りです。

  •  備考に含まれるリクエストへの対応が必要(PMSには反映しない項目)
  •  料金の修正作業(PMSが対応できていない、バグがあるなどの問題から必要になる)
  •  連泊が1泊ずつ別々に通知されるため「結合」処理を行う
  •  システムの機能不備のため情報追加が必要
  •  ホテル側の事情により情報追加が必要

システムの機能不備の例として「地域情報(都道府県名・国名)」を挙げてみましょう。

地域情報は営業や広告のターゲット設定の情報として有効なのですが、現状では収集がとても難しいものになっています。その理由は「環境の変化」にシステム会社が対応できておらず、ホテル・旅館側もリクエストをきちんと伝えきれていないことのようです。

現在主流のPMSは「電話番号から自動的に地域を判定する」仕組みを持っています。

以前はそれでも良かったのですが、現在予約の際にお客様から通知される連絡先電話番号の多くは「携帯電話」ですので、電話番号から自動的に地域を判定することが不可能となっています。

090、080、050といった番号が通知された場合、「地域:不明」となるならまだマシな方で、ひどい場合にはホテルの所在地域に割り振られていたケースも実際に見ています。この為地域情報を重要視する施設では、手動で地域情報を入力せざるを得なくなっているのです。

予約通知の中には「住所情報」が含まれているのでそこから地域情報を判定することは技術的には可能ですが、以下の問題点があります。

  • 一部OTAと旅行会社からの予約には住所情報が含まれていない
  • PMS側が住所情報から地域情報を判定する仕組みを持っていない

この問題は、住所情報を予約通知の中に含めてもらうOTAや旅行会社への働きかけと、サイトコントローラーからPMSへの取り込み方法を見直してもらうシステム会社への働きかけが必要ではないかと思っています。

機会を見て関係各位にお話しさせていただいておりますので、皆さんからも働きかけていただけると幸いです。

もうひとつの環境変化の例は「取り消される予約」の増加です。

現在OTAで予約するとその予約は「変更できない」ことが多く、お客様が変更しようとすると 取り消し > 新規予約 のステップを踏む必要があります。そしてOTA経由の予約は増加傾向にあります。

お客様側が知恵をつけてきている、という点もあるかもしれません。ホテルや旅館は直前に値段を下げることが多いので、「まずは予約して安いプランやホテルが出てきたら乗り換えればいい」という具合です。

ちょっと古いですが、こんな記事もあるくらいです。

残念ながらはっきりとした時系列のデータは持っていないのですが、宿泊部門の業務改善をお手伝いした複数のホテルのデータからは、100件予約が通知されるとその中で最終的に残るのは50〜70%程度。一番悪いケースでは40%しか残っていないこともありました。

※ ご自身の施設の状況を確認したい場合は、TLリンカーンであれば予約者検索で本日のチェックイン日を指定して検索(これで通知件数が判明)、「最終状態の表示」と「取り消された予約を除く」の状態にして検索(これで残った件数が判明)して計算してみてください。

予約の70%が残るとしても、通知日当日になんらかの修正・追加作業を行っている施設ではその作業の30%が(残念なことに)「無駄」になってしまうのです。

食事手配や駐車場の確保など、リクエスト項目の中にはどうしても通知日当日に対応しなければならないものもありますが、例えば「連泊の結合」作業など、通知日当日ではなく宿泊日直前で行ってもなんら問題がないものもあります。予約が残る割合が低い施設は、こういった通知日当日にどうしても行なわなけれなばらない作業以外は、作業タイミングを宿泊日直前に変更することで業務効率が改善できるでしょう。

業務改善による生産性向上は待ったなしの状態にあります。

少しでも多くのホテル・旅館で(できれば顧客満足度に影響しない分野で)より効率的な業務ができることを願っています。

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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