ハウステンボスは、2015年7月17日のスマートホテル「変なホテル」のオープンを前に、完成披露の記者会見を開催した。同ホテルは、ロボット接客、自動化システム、省エネ設計・特殊工法というユニークな試みで、ホテルの3大コスト「建築費、人件費、光熱費」を抑えつつ、快適性と低価格を両立する世界一のローコストホテルを目指す取り組みで、国内外の注目を集めている。
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それを示すように、ホテルの宣伝は特に行なっていないものの、予約は好調。オープン直後の7月は稼働率を60~70%程度、8月は80~90%程度に抑えるが、すでに8月は60%に達しているといい、「反響は非常に大きい」と評価。現在はオークション式の価格設定だが、上限価格の入札がほとんどだという。
今後は、例えばイールドコントロール(ホテルの収益最大化)を自動反映する価格設定など、さまざまな仕組みやサービスを検討。ゼロ号ホテルとしてテストを重ね、ベストな状態で1号ホテルを愛知県のラグーナテンボス内にオープン。2号ホテルは海外に展開する予定だ。
新技術も積極的に導入、ドローンも開発
オープン時のサービスロボットは、フロント、ポーター、クローク、コンシェルジュで計7台。さらに宿泊客を楽しませるロボット2台と、タッチパネル式のインフォメーションディスプレイ2台も配置する。客室では、マスコット的な会話型ロボットと各種案内の表示や室内の調整機能などを備えるタブレットでサービスを提供する。
オープン段階ではサービスが限られている部分もあるが、「変わり続けることを約束するホテル」の意味を込めたホテルの名称の通り、サービス技術はどんどん進化させていく方針。「1年で変わっていると思う。第2期オープンの来年3月ごろにも、フロントロボットが変わっている可能性もある」と、その変化のスピードを説明する。
また、ハウステンボスとして技術開発にも積極的で、経営顧問&最高技術責任者(CTO)に米IT企業の日本法人9社の代表を歴任した富田直美氏を招聘。“チーム富田”を結成し、今年4月にドローン開発に着手した。プレビューでは、陸上運行とのハイブリッド型ドローンのテスト機も上空から登場。変なホテルでは、ルームサービスなど「配達ドローン」として、テーマパークではショーでの利用も視野に入れているという。
ドローンに関して澤田氏は、「私有地なので実用実験ができる。日本一の技術を作り、世界のドローン研究開発地にする」と述べ、ハウステンボスが目指す「観光ビジネス都市」の新たな展開も示した。
変なホテルのロボットと客室
変なホテルではロボットをメインスタッフとし、多くの場面で無人サービスを実現した。客室内のコンシェルジュロボットを含めると、サービスロボットは約80台。これに対し、人間のスタッフ数は数10名で、予約の整理から清掃、安全管理など、マルチタスクが求められる。人間のスタッフにとっても「環境が良いと思う」と、支配人の岩爪猛氏は話す。以下、従来のホテルとは異なる館内を写真で紹介する。
▼フロントロボット。人型、恐竜型、マスコット型の計3台で、チェクイン、チェックアウトを行なう。音声認識対応が可能。現在は日本語・英語のみだが、中国語・韓国語も対応できるようにする。チェックインでは横のディスプレイで、顔認証のキーレスエントリーかカードキーの使用を選択し、顔認証の場合はその横のカメラでスキャンする。宿泊者名簿の記載は従来通り必要。
▼クロークロボット(1台)。有料(1回500円・最大24時間)で、希望者の荷物を預かる。セーフティーボックスも兼ねている。預入荷物の大きさと重量は、機内持込可能サイズ約1個分。ロッカーの数は30個。右側のディスプレイで操作し、その右側から荷物の出し入れをする
▼ポーターロボット(2台)。重量約50キロの荷物まで対応。自分で荷物を置き、ディスプレイで客室番号を入力すると、ゆっくりと進む。ホテル内のスペースは、ロボットが動きやすいよう考慮して設計されており、廊下幅など空間にゆとりがあるのが特徴。これだけの技術が統合されてサービスが提供できるように配慮された建物は、世界的にも珍しいという。
▼インフォメーションディスプレイ(右)は、館内案内からハウステンボスの案内などをタッチパネル式で表示。システム会社側ではテーマパーク内のお土産購入などのショッピング機能や、テーマパークのイベント案内などを連携するアプリも開発中。おもてなしロボット(左)「サッチャン」はゲームやおしゃべりなどで、宿泊客を楽しませるのが役目。
▼ハウステンボスのマスコット、「ちゅーりー」が、客室内コンシェルジュロボット(左)に。音声認識で、電気のオン・オフや天気予報、モーニングコールなどに対応する。タブレット端末(右)では、館内案内や照明の調整機能、室内清掃など追加サービスの料金を掲載。ロボットではなく人のスタッフに繋がるコール機能も。
▼デラックスルームは変なホテルで最も広い33平米。唯一テレビのある部屋でもある。左奥の白い部分が、空調の輻射パネル。夏は9度、冬は25度の水が流れ、室温を年間均一に保つ。取材日は台風の影響で高温多湿の33.6度。日光が容赦なく照り付けた晴天日だったが、輻射パネルが各所に設置された館内はエアコンの空調とは異なり、涼やかだが冷え過ぎずとても快適だった。
▼アメニティ(シャンプー、リンス、ボディソープ、歯ブラシ、櫛)の提供もある。タオルは毎日交換するが、ベッドメイクや室内清掃は7泊以上で週1回実施。清掃は1500円、ベッドメイクは1000円など、追加のサービスは別料金で受け付ける。
▼第1期オープン部分のホテル設計は、東京大学生産技術研究所川添研究室が監修。ロボットやデザイン、ホテル運営のプロなど、200名以上のエキスパートがプロジェクトに関わって完成した。「日本のモノづくりの底力がこのホテルから伝われば」と川添氏。
取材:山田紀子