観光庁と厚労省は、民泊サービスのルール作りの議論を行う「民泊サービスのあり方に関する検討会」の第3回目を実施した。今回は、内閣官房IT総合戦略室が取りまとめたシェアリングエコノミーにおけるネット企業のルール整備の中間報告を説明。また、民泊のネット仲介を行う百戦錬磨、日本旅行業協会(JATA)がそれぞれの立場から民泊へのルールづくりへの要望を説明した。
今回の検討会では、民泊のルール化にあたって短期的に検討していくことと、来年から実施される国家戦略特区での民泊の動向などを見ながら中期的に考えていく課題について、論点整理を行うことを確認。民泊で活用する物件の類型にあり方などは、引き続き検討していく方針が示された。
ヒアリングでは、各法人の代表がそれぞれの立場を説明。3名の発表内容を以下にまとめた。
日本旅行業協会: 「客室取りにくい」
不足補完でなく古民家など多様化を図る議論を
JATA理事長の中村達朗氏は、近年の訪日外国人旅行者の急増で国内宿泊施設の需給状況が変化していることから、都市部では「旅行会社が客室を取りにくい状況」であることを説明。また、桜・紅葉。スポーツ・大型連休など需要が集中するタイミングもあり、国内旅行全般が「タイトになっている」。こうしたことから、地方分散化や稼働率で余裕のある旅館の利用促進などの措置をとったうえでの、民泊の推進を要望した。
一方で、現在の民泊が危機管理・管理責任・各種賠償責任補償・斡旋業者の責任が不明瞭であること、近隣住民の不安・不満も大きいことなどを指摘。旅行業界としては需要や宿泊施設の補完としての対応だけでなく、安心・安全を前提に市場ニーズを的確にとらえて対応していく必要があるとの考え方を示した。
また、宿泊先の多様化をはかる視点が必要なことも提言。たとえば、地方における古民家や町屋など個性的な日本の家屋がそれにあたるとして、旅行業法に基づいて旅行者に斡旋できる制度の構築を訴えた。こうしたことを踏まえて、外資系ネット仲介企業と「同じ土俵に立った形での取扱いができるようにしていただきたい」とも話した。
ネット仲介の百戦錬磨
「掲載物件の遵法管理」などを仲介企業の責務に
民泊のネット仲介を行う百戦錬磨の代表取締役社長・上山康博氏は、これまで同社が「合法」の枠のなかで事業を進めてきたことを強調しながら、合理的なルール整備が急務であることを訴えた。
同社は国家戦略特区の旅館業法13条の適用除外によって拡大するはずであった民泊を仲介するために2014年春に「とまれる(現:STAY JAPAN)」サイトを構築。各自治体の条例可決まで事業開始を待機、東京・大田区での条例可決によってスタート切った。上山氏は、その間に「“ヤミ民泊”が横行するようになった」として海外系の民泊仲介サイトが大きく成長したことを指摘。現行法の遵守や現在の“ヤミ民泊”利用者に気づいてもらうことも「筋ではなかろうか」と訴えた。
上山氏はルール整備のなかで、自社を含めたプラットフォームといわれるネット仲介事業者への現行法の遵守のための規制が必要との考え。自社を含めて3つの責務を負うことがカギであるとして、「掲載物件の遵法責任」、「物件・利用者に関する情報開示や行政との情報共有」、「保険」を挙げた。
また、国家戦略特区による民泊の課題では、同社が家主不在型で対応してきた手法を紹介。対面での本人確認が難しい際はチェックインカウンター設置、コールセンターの緊急対応などのも行ってきたという。今後はICT活用のチェックインや、24時間多言語のコールセンター設置、近隣住民とのトラブル防止のホットラインを運用開始する計画だ。
内閣官房「IT総合戦略室」
ネット仲介企業への規制方針、本人確認で電子署名を活用する可能性も
内閣官房に設置されたIT総合戦略室からは、12月10日に取りまとめられた「情報通信技術(IT)の利活用に関する制度整備」を報告。民泊を含むシェアリングエコノミーにおける制度整備などで中間的な整理を行った内容を説明した。
ネット仲介事業者に対して法整備を行う方針を打ち出しており、貸し手・借り手の本人特定の確認や苦情相談窓口の設置などを義務付けする方針が盛り込まれている。さらに、こうした規制を、国内サービスの提供社だけでなく海外事業者にも適用し、海外事業者には国内に事業所の設置を要件とするなどの仕組みを作る方向性が示された。
また、質疑応答の中では、本人特定の手段として同室が電子署名の議論を行っているのかという内容も。電子署名とは、現実世界で行っている署名・捺印などを認証ステップを経て電子化したもの。同室としては、「電子署名を取り組むことも想定される」という。さらに、本人確認の方法論としてマイナンバー登録も視野に入ることが説明された。
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トラベルボイス編集部 山岡薫