スマホかざして「見える」災害情報、次世代AR(拡張現実)の新たな取組みは観光情報と連携 【動画】

スマートフォンなどデジタルデバイスを介して、現実の風景に画像や音声などのデジタル情報を付加するAR(拡張現実)。これまで旅行の分野では、観光地情報の提供やキャンペーンなど一部での利用に留まっていたが、居住者や旅行者向けの緊急時災害情報での活用が始まる。

この取り組みを推進するのは、総合広告会社の国連社と、コンピュータやITによる商品開発やソリューションを提供するサイバネットシステム、AR開発のエルバホールディングスの3社。このほど開発した次世代型AR搭載アプリによるソリューション展開の第1弾で、実際のサービスは2016年冬のスタートを予定している。

ARマーカーを常に携帯できる「危機災害情報ARカード」としたのが特徴で、表面をスマホにかざすとARが付加された災害情報が表示される仕組み。例えば今回のデモで用意された「台風情報」の場合、現在地に向かう台風の進路や規模、速度感を動画で表示できる。災害情報の種類は地震やゲリラ豪雨、大雪など随時増加し、過去の災害記録や災害時の備え、避難所のマッピングなどのコンテンツも用意していく。

同時にカードの裏面もARマーカーとして活用。裏面のスキャンからは交通やグルメ、宿泊、エンターテイメントなど街や観光の情報発信が可能だ。エルバホールディングス代表取締役社長の副島直子氏によると、住民や観光客が日常的に使用できる地域密着情報を提供することで、ARカードを緊急時に利用しやすくするのもポイント。多言語対応機能も搭載し、訪日外国人旅行者への対応も可能だとアピールする。

サービスは47都道府県向けの提供で、発信する内容等は各自治体が決める。今後は地元企業に対し、広告・コンテンツ情報として参加を募っていく。すでに福岡県、兵庫県、長野県、東京都の4都県で取り組みを開始したという。消費者に配布するARカードは無料。交通機関や金融機関、病院などの公共性の高い場所への設置を想定している。

 

ARの導入がより身近に、効果測定ツールも

発表資料より

今回の次世代型AR搭載アプリの特徴は、新しいテクノロジーや多言語対応機能の標準搭載など機能や品質を向上させつつ、開発期間は短期化、コストは低価格化したこと。サイバネットシステム執行役員の加苅政猛氏によると、従来3~6か月が必要だった開発期間は3日~1か月程度に、コストは7~9割減を実現。数万円からの導入も可能だ。

これはARアプリのコンテンツとシナリオのテンプレートを用意し、差し替え可能としたことで実現したもの。シンプルかつ多様性あるARアプリとなり、「知識や経験がなくても高品質なアプリを提供できるのが最大の魅力」とアピールする。

例えば、高度なテクノロジーでは世界初の「空間認識」を実現。発表時のデモでは会場自体をマーカーとして認識させ、壇上に3Dキャラクターを可視化させた。閲覧者が会場前方から後方に移動しても画面上にキャラクターが映っており、従来の技術ではこの距離から安定して認識が続くことはなかったという。

さらに、リアルタイムでのデータ取得も行ない、効果測定も可能。広告マーケティング等での活用ができるようになり、導入促進に繋がる。

観光分野でのAR活用状況について加苅氏に聞いたところ、東京オリンピックの開催決定後から問い合わせが増加。国の施策も追い風に、インバウンドの増加で多言語対応が急務となった自治体関係の動きが活発だという。導入へのハードルが下がり、かつ、データの取れるツールとなったことで、今後さまざまな場面でARの利用が広まりそうだ。


ハウステンボス、災害救助、店舗案内などで導入予定

発表者提供画像より

発表会見ではハウステンボス代表取締役社長の澤田秀雄氏が登壇し、今後ハウステンボス内の美術館ガイドや施設案内等さまざまな場所で、ARを活用していく意向を示した。また、日本医師会会長の横倉義武氏は先の熊本地震で2000人のDMAT(災害派遣医療チーム)を派遣した例から、「現地の地理が不安な隊員が活用できる情報があるとよい。ARが有効な危機管理ツールになれば」と期待を語った。

このほか次世代AR搭載型アプリを使用した他のサービス発表もあった。観光で近い内容では「ヘルスケアAR」。ドラッグストアでの薬を迅速・確実に購入できるようにしたアプリだ。症状を入力し、一覧表示された薬から商品を選択するとエアタグが出現し、在庫のある店舗を表示。店舗までのルート表示から店舗到着後は商品の陳列棚までも表示する。もちろん、多言語対応が可能だ。

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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