旅行メタサーチの歴史は1999年までさかのぼる。当時、サイドステップ(SideStep)とフェアチェイス(FareChase)の2社が、他のオンラインサイトから価格情報を集めて提供する検索エンジンを立ち上げたのが始まりだ。
その後、数多くの企業がメタサーチに挑戦するようになり、特定の分野に絞り込んだ事業モデルを手掛けるスカイスキャナー(2001年創業)、カヤック(同2004年)、ウィーゴー(Wego)やトリバゴ(Trivago、いずれも2005年創業)などが登場。一方、既存の事業に価格比較サービスを追加する形で発展してきたのがトリップアドバイザーやグーグルだ。(なお、フェアチェイスは2004年ヤフーが買収し、その5年後に同サイトは閉鎖。サイドステップはカヤックが2007年に買収している)
フォーカスライトが2017年11月に発表したレポートでは、米国の旅行者の約半数(43%)が、メタサーチサイトを使って航空券やホテルを予約している。2010年の同比率は、まだ28%だった。
最近では、モバイル利用の増加に伴い、メタサーチサイト各社も事業領域を拡大。価格を比較し、当該サイトへ誘導するだけにとどまらず、予約まで完結するビジネスに乗り出している。
そこで、今回、この記事では「メタサーチ」をテーマに取り上げ、その実態を追ってみる。ここで深堀するのは、メタサーチ参入は最近のことながら、旅行関連を含む検索サービスでは最大手の「グーグル(Google)」。ホテル・航空券の検索サービス戦略について、同社のプロダクト管理担当副社長、リチャード・ホールデン氏に話を聞いた。グーグルが目指すサプライヤーや仲介業者との関係、これからの海外戦略、さらにボイス(音声)検索の将来像についても話は及んだ。
Q:グーグルの旅行関連サービスは、メタサーチの領域を超えて拡大し、新しいサービスが続々登場している。現在のグーグルの事業モデル、立ち位置を言い表すと?
我々はいつも検索サービスのあり方について考えており、それは今も同じだ。通常の検索でも広告商品でも、ユーザーが欲しいタイミングで、欲しい情報を提供する、それだけを追求している。
航空券やホテル検索では、ここ数年、情報の深さと完成度を極めることにフォーカスしてきた。かつてグーグルの検索結果ページには、青い文字でリンク先が10本ほど表示されるだけだったが、今では、ユーザーがまさに探していた情報を、なるべく早く見つけられる検索サービスの実現に力を注いでいる。すべてを網羅した完全な検索結果を、できる限り迅速に提示してみせるということだ。
こうした取り組みの成果が、最近、目に見える形でいくつかスタートしている。新しい試みの狙いを説明するなら、旅行を計画している人が、プランニングのどの段階にあっても便利にグーグルを利用できるように、様々なサービスを(これまでのようにバラバラに提供するのではなく)もう少しつなぎ合わせてまとめてみた、ということだ。
グーグルで検索するユーザーには、旅行の計画を始めたばかりで、まだ何がしたいのかさえ決まっていない人がいる一方で、すでに計画の最終段階という人もいる。旅行プランニングの最初から最後まで、色々な場面でグーグル検索は利用されているということだ。
それならば、ユーザーがグーグルにアクセスするたびに、前回までに収集した旅行情報も見られる方が便利なのではないかと考えた。主要プロダクトについての情報は、詳細に、そしてすべてを網羅した形で幅広く提供する。これに加えて、過去にグーグルで検索した旅行情報もまとめておけるなら、ユーザーにとって、いっそう便利になるはずだ。
Q:グーグルを、あらゆる旅行サービスの「ワンストップショップ」にしたい?
そこまでできるのかどうか、私には分からないが、私の理想は、グーグルが誰にとっても、インターネット検索に欠かせない重要なものであること、探している情報が、必要な時に、自動的に、瞬時に表示できるサービスであることだ。
グーグルマップを見ながら、いつか東京に旅行してみたい、などと考えている人がいたとしよう。誰かのお勧めレストラン情報を見つけたり、気になるレストラン紹介記事を読んだら、グーグルマップでその店に星印を付けるかもしれないし、ニュース記事にも星印を付けておく可能性もある。
ところがしばらくして、東京について本格的に調べ始める頃には、星印を付けた店や記事のことをすっかり忘れているかもしれない。そこでグーグルが、以前に自分が興味を示した旅行関連の情報をリマインドしたらどうだろう。そういえばこの店に、あるいはこの場所が気になっていたんだっけ、と思い出す。
言い換えるなら、日々のグーグル検索結果の中から、旅行関連の情報を自動的に蓄積してくれる機能。これがあれば、いざ旅行しようという時のリサーチが楽になる。
Q:「グーグル・トリップス(Google Trips)」を拡充して、メタサーチ機能や旅程プランニング・サービスを提供する計画はあるか?
トリップスのアプリは、今のところ、情報のリサーチ活動を整理し、自分が興味ある内容をまとめて一か所に管理することに特化している。サーチや予約・購買機能を加える計画は特にない。アプリ版だけでなく、ウェブサイト版についても同じ考えだ。一方で、自分が検索した内容を一元管理できるようにするという意味では、対象領域の一つではある。必要な時に、さっと旅程情報を探し、取り出せるほうが便利だろう。現段階で、ネイティブ・アプリに購買機能を追加する計画はない。
Q:ホテルと航空券全般について、サプライヤーおよび仲介販売業者とのパートナーシップについての見解は?
我々はどちらとも取引関係がある。強大な産業エコシステムを作り上げるには、間違いなく、両方とも必要不可欠だと考えているからだ。広告ビジネスにおいても、当社は、両方に対して貢献できていると思う。現状のエコシステムを末永く維持できるようにと気を配っている。サプライヤーにとっても、OTAにとっても、価値あるマーケットが理想だ。どちらにもビジネス機会が十分にあるようにと、かなり真剣に取り組んでいる。どちらかに偏るような戦略は持っていない。両方との関係を大切にしている。
Q:モバイルとデスクトップでは、別の戦略を展開する?
もはや秘密でも何でもないが、グーグルは全社を挙げてモバイル対応を最優先する方向へ舵を切っている。かつては「モバイルファースト」と言っていたが、その後「モバイルオンリー」と言うようになった。最近では、新規開発するプロダクトはモバイルで使用するものが中心で、一部でデスクトップ向けに後日提供開始するものがある程度。デスクトップ対応はなしという場合もある。とにかくモバイルに非常にフォーカスしている。
しかし、旅行関連では少し状況は異なる。モバイルへの移行はやや遅れているが、その理由は、旅行プランニングというのが複数回に渡るセッションを伴うものだからだ。通常、何週間もかけて色々なことを決めるし、その間、使用するデバイスも一つとは限らない。結局、モバイルとデスクトップの両方を使いながら旅行の計画を立てる人が多い。
とはいえ、昨年頃から、当社のホテルや航空券の検索でも、モバイル利用が大多数を占めるようになっている。グーグルの場合、転機期は昨年だった。旅行関連では「モバイルファースト」の呼びかけはそこまで大きくなっておらず、(モバイルだけでなく)デスクトップ対応にも力を入れている。大きな買い物をする場合は、デスクトップが重要だと考えているからだ。デスクトップの大きな画面の方が、安心して買い物できるという人は多い。
こうした傾向は理解しつつ、それでもなお、我々はモバイル重視の方針だ。空間が限られているモバイル端末で使い勝手がよいデザインなら、より広い画面があるデスクトップでは問題なく適用できるというのが基本的な考え方だ。グーグル内には、「モバイルオンリー」を掲げる部署もあるが、旅行関連では、「もちろんモバイル優先ではあるものの、デスクトップもまだ活用する」というのが現状だ。
Q:「ブック・オン・グーグル(BoG)」でのホテル・航空券取扱い状況は?
これは先の長い取り組みで、取引パートナー各社に十分に活用してもらうまでには、まだ様々なインテグレーションが必要。かなり時間がかかるだろう。しかし前に進み出すことができたのはよかった。フライト検索は、好調に推移している。少し遅れてホテル検索も始まったが、こちらも順調だ。
BoG機能に関するグーグルの基本方針は、面倒な旅程作りを最初から最後まで、より迅速に、効率的にできるようお手伝いすることだ。パートナー企業のためには、コンバージョン率ができるだけ高くなるような仕組み構築を目指している。最終的には、様々な予約までのやり取りを支援するのが我々の役割と考えている。当社が自ら販売元となるつもりはない。
Q:フライトとホテルで、異なる課題は?
両者に共通して言えることは、あらゆる情報データを、より詳細に、迅速に提供するという目標だ。
だが、扱いが難しいは航空券の方だ。日程、出発地と到着地、各種オプションにより、膨大な数の組み合わせがあるため、正確に対応するためには、相応のマシンパワーが必要になる。ホテル検索も同様だが、航空券に比べると、オプションの範囲は限られているので、比較的、取扱いは難しくはない。
フライトでもホテルでも、データの一時保存(キャッシュ)を行い、検索結果を即時に表示できるようにしたいと考えているが、実現するには、パートナー企業に対し、通信容量の拡大をはじめ、色々な協力をお願いする必要がある。そこで我々は、機械学習を使ったスマートテクノロジーを導入し、キャッシュの更新が必要な部分、あるいは古くなり不要となった情報を見極められる仕組みの構築を目指している。目下、この仕組みを通じてパートナー企業が負担する通信容量やデータへの影響を縮小する一方、必要なデータを迅速に引き出すことが可能になるよう、力を入れている。
見方によっては、グーグルではおなじみの大容量データを扱う問題に似ているが、オペレーションのスケールが異なるという違いもある。
Q:2018年5月、国際イベント「フォーカスライト・ヨーロッパ」の講演では、グーグルがホテル検索の対象にバケーションレンタルも加えていく方針と話していた。当時はまだ初期段階とのことだったが、現在の進捗状況は?
米国では、第一期のデータ追加作業が完了したところだが、今回はホテルと非常に似ているタイプのもので、例えば出張者向けの長期滞在アパートメントなどが対象。バケーション向けの物件やユニークな一戸建ての家などは少ない。第二期に入り、今後は対象物件のタイプを拡大し、取引先パートナー企業も増やしていく計画だ。前進はしているが、プロダクトとしてはまだ初期段階にある。コンテンツも取引パートナーも、これから充実させていく。
Q:海外市場の取り込みはどうか?
グーグルでは、新しいプロダクトや検索関連のプロジェクトがスタートしたら、できるだけ早く40か国語以上の言語に対応させることを原則方針として掲げている。旅行分野も例外ではなく、ほぼ同様の展開を目指している。
ホテル検索やホテル広告は、すでに何年も前から、世界中のグーグルで展開している。一部の市場でクオリティー改善や情報を充実させる必要もあるが、プロダクトそのものは世界中でほぼ同じものを提供している。
フライト検索は、少し状況が異なり、マーケットごとに一つずつ拡げている。1年ほど前の時点で世界35市場に対応済み、現在では70市場になっているので、かなり速いペースだ。通常、そのマーケットの主要航空会社との間で取引が始まるまで、フライト検索はスタートしない。またインバウンド・アウトバンド合わせて、全フライト数の80~90%を確実にカバーできるようにしている。新規市場に参入する際の目安として、特定のデータ条件も設けている。
Q:旅行検索と「グーグルアシスタント(Google Assistant)」の音声対応機能をどう組み合わせていくか?
目下社内では、グーグルアシスタントを、既存のグーグルのサービス全般にどう生かしていくか、という議論が活発に進んでおり、もちろん旅行分野も例外ではない。旅行コンテンツに特化して、アシスタントを最もうまく生かす手法を考えているチームもある。
旅行の場合、問題となるのはユースケースが非常に複雑で多岐に渡ることと、単価が高いことだ。ここ一年半ほどの間、グーグルがアシスタントを活用して実現してきた機能は、ユーザーが何か用事を済ませるのを「手伝う」ようなもので、コマンド通りに何かおこなうとか、情報を提供するものが多い。
ところが旅行関連の問い合わせは、複数のステップが必要になる。音声でのやり取りが実現すれば、面白いし便利だと思うが、旅行予約に関しては、大きいスクリーンも使える方が、絶対に便利だと考えている。
しかし旅行におけるアシスタント機能の活用で我々が想定しているのは、自宅で使うデバイスよりも、モバイル端末を使うケースだ。通常、顧客から旅行に関する問い合わせを受けたら、まずは色々な情報をあれこれ提示して、見てもらいたいと思うのではないか。そうなると、当然、スクリーンがあった方が便利で、次に、気に入ったものを選んでもらうという流れになるだろう。
そこで当社が今後、最もフォーカスしていく分野は2つ。まず、「グーグルアシスタント」が最も活躍しそうな場面は、旅行者がもっともストレスを感じている状況でのサポートだ。おそらく旅行が始まった後になるだろう。出発当日に空港へ出発する準備をしている時や、空港に向かう途中、どんな機能があったら嬉しいか、と考えている。例えば、当社がこれまで投資してきたフライト状況の通知機能。利用予定のフライトが遅延するかもしれないとか、代替フライトを提案するといった機能があれば、ユーザーには便利だ。
もう一つは、ホテル予約のアシスタント。これは特に宿泊間際(ラストミニッツ)の予約シーンで大きな需要があるのではと考えている。すでに現地に到着しており、宿泊する場所を探しながら、グーグルマップを見ている状況などを想定している。
ボイス利用は、ユーザーから抵抗なく受け入れられ、どんどん普及しているのが現状と言える。検索全般においても、音声で問い合わせることに積極的という印象だ。当然、旅行の分野でも、大きな可能性があると考えている。
※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事について、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
※オリジナル記事:The metasearch model, part 1: All things Google著:ミトラ・ソレルズ氏(Mitra Sorrells)