アマゾンが2015年以来、ふたたび旅行業に参入する試金石となるのか――。2019年5月16日付け米・観光専門ニュースメディア、スキフトの報道によると、アマゾンはインドのOTA「クリアトリップ(Cleartrip)」と提携し、同社の予約エンジン経由でインド国内線の航空券予約を開始した。スタート時点での取扱い航空各社は、ヴィスタラUK(Vistara UK)、ゴーエア(GoAir)、スパイスジェット(SpiceJet)、インディゴ(Indigo)など。
アマゾンのプライム会員には、2万ルピー(約285ドル)以上の航空券を予約すると、2000ルピー(約28.5ドル)のキャッシュバックを行うキャンペーンも展開、返金分はアマゾン・ペイの口座に48時間以内に振り込まれる。インドのeコマースにおいて、キャッシュバックは新規会員を囲い込む手法として定番だ。
プライム会員ではない利用者の場合、キャッシュバック額は1600ルピー(23ドル)に設定。差をつけることで、同社が重要ターゲットとにらむインド市場におけるプライム会員の拡大にもつなげたい考えだ。
航空券の合計額には「コンビニエンス料」として、数%の手数料も加算される。キャッシュバック分を差し引けばかなり競争力のある価格だが、キャッシュバックがなければ、競合他社サイトの方が安い場合もあるようだ。
アマゾンのやり方は「理に叶っている」?
「航空券にまず手を付けるというのは理に叶っている。今やホスピタリティ産業というよりはコモディティ化しているからだ」とハドソン・クロッシングのパートナー、マックス・レイナー氏は、今回のアマゾンの動きについて指摘する。
「ある意味、アマゾンというのは、あらゆる商材のメタサーチ・エンジンとも言える。しかもロイヤルティ・プログラム付き、決済も簡単だ」。
2014年にアマゾンがホテル予約を開始したときは、ホテル各社と直接取引し、主要都市における週末の割引レートを売り出した。しかし2015年10月、アマゾンは突然、ホテル事業から撤退。詳細は明らかになっていないが、単独での旅行ビジネス展開では、期待した収益につながらなかった可能性は高い。こうした経緯から、次に参入を図る場合は、パートナー企業と組むだろうとの観測が強い。
アマゾンが旅行業に参入すれば、予約ビジネスと広告の両面で大きな影響が予想される。アマゾンが旅行大手としてすぐに君臨する可能性は低いが、旅行サービスも取り扱うようになることで、すでに多岐に渡るアマゾンの取扱い商品がさらに充実し、「巨大アプリ」としての優位性がさらに高まることは確実だ。
レイナー氏は「最終目標はメタサーチ・サイトとして君臨する形ではないか。今でも、何か商品を探す場合、グーグル検索ではなく、アマゾンの検索を利用する人は多い。同じことが航空券でも始まるかもしれない。さらに、他の旅行商品へと広がるかもしれない」。
アマゾンとクリアトリップのインド国内線における提携は、今のところ、小さな一歩に過ぎない。だが230億ドルを自由に動かせるアマゾンなら、例えばエクスペディアやトリップアドバイザーなど、既存大手を獲得することも不可能ではない、と関係者は今後に注目している。
※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
※オリジナル記事:Amazon Launches Flight Bookings in India in a Superapp Strategy
著者:ダニエル・シャール(Dennis Schaal)