大きな変革期にある旅行業。航空券の新たな流通規格、NDC(New Distribution Capability)も、こうした大きな変化を起こしている要因のひとつと言って間違いない。NDCとは、航空会社と旅行会社の間で、様々な情報のやりとりを行うための共通語。では、NDCは、航空会社・旅行会社のビジネスにどのような影響を及ぼすのだろうか? そのテクノロジーを提供するトラベルポートジャパン代表取締役社長の東海林治氏に、NDCの現在と未来、さらに同社の取り組みを聞いてきた。
― まず、トラベルポートが考えるNDCとは?
NDCの導入で、旅行会社とその顧客は、航空会社に関するあらゆるデータを入手することが可能になります。例えばプロダクトや価格についての情報、さらにバゲージ取扱いや、事前の座席指定など、様々な追加サービスなどの情報にアクセスできるのです。
トラベルポートにとってNDCとは、これまで取り組んできたことの延長にすぎません。買い手側の顧客は、使いやすく、簡単に予約できるコンテンツの中から(必要なものだけ)選択できるようになり、さらに売り手側であるサプライヤー各社は、当社のシステムにアクセスする際、好きな流通手段を選べるようになりました。
― 航空会社などサプライヤー各社と、買い手側(旅行会社やTMCなど)、それぞれにNDCはどのようなインパクトがありますか?
航空会社にとってNDCは、既存の流通体制では扱いにくかったプロダクトの開発につながり、次世代型のリテールを実現するのに役立ちます。
一方、旅行会社やトラベルマネジメント会社(TMC)は、NDCの登場で、今まで画一的にセット販売されていたサービスを、もっと自由に選べるようになります。メニューから必要なものを選び、その合計金額を支払うように、運賃やアンシラリー・サービス の中からそれぞれの顧客に合ったものを選択し、提供できるようになるということです。その結果、旅行会社と顧客の関係を、より緊密にすることが可能になるでしょう。
― 航空会社にとって、NDC導入の最終ゴールは利用客と直接やり取りし、GDSを流通経路から排除することなのでしょうか?
答えはNoです。
航空会社も理解していると信じていますが、確かにNDCによって航空会社の販売機能は向上するものの、旅行の流通は非常に複雑であり、この状況に変わりはありません。こうした状況下で、複数のソースから集まってくるコンテンツを一元管理できるのはGDSだけ。そのほかにも予約や予約の変更、ワークフローや販売業務の自動化や、マネジメントの変革、顧客サービス、旅行規定などのコンプライアンスへの対応、出張旅費の管理、請求書発行、データ解析などGDSが担う役割は幅広いといえます。
― 今まで旅行会社を利用していた旅行者も、航空会社と直接、やりとりした方が得になるのでしょうか?
上記同様の考え方ですが、NDCによって航空会社の販売機能は向上するものの、旅行の流通は非常に複雑で、この状況は変えられないでしょう。
旅行会社とGDSは、これまで旅行者に価値あるサービスを提供し続けてきました。今後も、旅行者に役立つ各種ツール、例えば、旅行のスケジュール変更、予約ソースを問わない一元的な旅程管理、注意義務の喚起、アナリティクス、オートメーション、バックオフィスシステムなどの業務管理は今後も継続して必要とされると考えられます。
― NDCは、既存の商取引モデルにどのような影響を与えるのでしょうか。そして、NDCのコストは誰が負担するのでしょう?
旅行業では、一人の顧客に数多くのステークホルダーが関わり、それぞれの立場から、様々な価値を提供しようと取り組んでいます。高い評価のサービスには、それなりの報酬があるべきです。一方、我々が長い間、慣れ親しんできたビジネスモデルが変化していく可能性も考えられます。今は変革期の真っただ中にあり、収入モデル、コンテンツ提供、個別の流通チャネル、航空会社によるNDCへのインセンティブ、他にも色々なことが試行錯誤の段階にあります。
NDC導入で、これからの時代、今までにはなかった商取引の形が、幅広く考案されるようになるでしょう。もちろん航空会社がそれぞれのマーケットに対し、NDCをどう活用するかによって、状況は左右されます。いつもながら、まずは予約のプロセスで、各社がその価値を実感することが先決だと思います。細かい部分は、様々な事例にもまれながら、徐々によい形に仕上がっていくのではないでしょうか。
― 出張旅行でのNDC導入で、トラベルマネジャーと出張者のそれぞれにどんなメリットが考えられますか?
法人旅行のトラベルマネジャーや仕入れ担当者は、NDC活用によって、今までより有益な契約条件を引き出せるようになります。個人であれ、団体であれ、それぞれの要望に沿った旅行手配がしやすくなり、企業が定める出張規定の範囲内に収めやすくなるのです。
きめ細かくパーソナライズされたコンテンツがやり取りできるようになれば、TMCや法人旅行のトラベルマネジャーは、社内規定に抵触するような出張内容の予約を防ぎやすくなるでしょう。出張者側も、自分の嗜好に合った手配内容であれば、規定に従うことに異存はないはずです。TMCにとっては、規定違反のチェック義務が遂行しやすくなると考えられます。
法人旅行の場合は、他にも、購入サービスのカスタマイズ、旅行会社のサービス向上やスピードアップ、一か所ですべて揃うワンストップ・ショップ、購買内容の透明性アップといったメリットもあります。
― 現在、世界でNDC導入は、どの程度すすんでいるのでしょうか?
NDC導入に伴い、2019年はトラベルポートにとって非常に忙しい一年になっています。当社が英国で、NDC利用によるGDS経由での予約第一号の処理を完了したのが2018年10月。続いて、複数の旅行会社とのやり取りに問題がないか確認するためのパイロットプログラムを実施しました。参加した旅行各社とトラベルポートのスマートポイント・デスクトップでNDCコンテンツをやり取りし、これは成功裡に終わっています。この成功によって、世界でNDCを利用する旅行会社はさらに増えています。
引き続き、スマートポイントを利用いただいている旅行会社がNDCコンテンツへアクセスできるよう、今年いっぱいかけて対応を進めていく計画です。
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編集・記事:トラベルボイス企画部