米・旅行関連メディア「スキフト」の特集シリーズ「プラスチックなしの旅行(Travel Beyond Plastics)」では、旅行産業のプラスチック依存症に焦点を当て、このサステナブルではない習慣と決別しようと動き出した旅行者や企業を追う。
航空産業におけるプラスチック汚染の加害者といえば、まず航空会社がやり玉にあがるが、同じぐらい重い責任を負っているのが空港だ。しかも空港の場合、問題解決には、多岐に渡る分野での対処が必要になる。航空会社が出すプラスチックごみに加え、ターミナル内の各種店舗が販売する飲み物や食べ物、商品の包装容器の数々。これを利用する旅行者の方はといえば、ごみのリサイクルはしたり、しなかったり。全く無関心の人もいる。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
旅行者よりもプラスチック廃棄物の排出量が多い「航空会社」
大規模なゴミの管理オペレーションを行っている空港の一つが米国のハーツフィールド‐ジャクソン・アトランタ国際空港だ。エアポート・カウンシル・インターナショナル(ACI)のランキングによると、同空港では2018年の利用旅客数が1億700万人となり、北京やドバイを越え、世界で最も混雑している空港となった。さらに2019年の利用者数は1億1000万人が見込まれ、1日当たり平均では27万5000人(ライザ・ミラグロ同レジリエンス&サステナビリティ担当マネジャー)。
1日に30万人もの旅客が利用するアトランタ空港では、当然、ごみの量も桁違いだ。
そこで同空港では2020年までに埋め立て地に回すごみの排出量をゼロにする、という目標をたてた。しかしミラグロ氏によると、進捗状況は遅れ気味でやることは山積み。問題の多くは、航空会社の協力がないと解決しないようだ。
特にアトランタのようなハブ空港の場合、旅行者よりも、航空会社から出るプラスチック廃棄物の量が圧倒的に多いと言う。「プラスチックごみの大部分は航空会社から出るので、まず航空会社が、プラスチック以外の素材に切り替えることが必要なのです」とミラグロ氏は指摘する。
アトランタ路線を重点的に展開しているデルタ航空とサウスウエスト航空の2社との間で、同空港では、状況の改善について協議を続けてきた。ミラグロ氏は「話し合いの場を持つようになり、例えばソーダ飲料の缶など、比較的手が付けやすいごみについては、航空会社のほとんどが善処してくれるようになった」。
とはいえ、ごみゼロ達成という「目標にはまだ遠い状況」(同氏)。「主な原因は、トップ層の意識改革が進まないこと、ソフトとハード両方のインフラ整備が足りないことです」と話し、具体的には空港側が、各種の規約、装備品の購入、官民パートナーシップを見直す必要があると言う。一例を挙げると、同空港があるジョージア州内では、有機物を微生物の働きで分解させて処理するためのコンポスト用地が非常に限られていた。そこで同空港では、独自にリサイクルおよびコンポスト施設「グリーン・エーカー」を建設したという。
空港ターミナルから出るゴミの量は年間約3万トン。このうちプラスチックごみは9000トンほどで全体の3分の1を占める。「これを計測して追跡できなければ、我々がプログラムを策定しても無意味だ」とミラグロ氏。「状況が把握できなければ、効果的な対策の打ちようがない」。
一方、廃棄物マネジメントに関する教育活動では、ごみをコモディティとして捉え、サーキュラー・エコノミーの価値のあるパーツであるとの認識作りが重要だとミラグロ氏は強調する。アトランタのケースでは、空港、水族館、スタジアムが共同で、プラスチック・ボトルを再利用した洋服を開発した。
営業店舗や旅行者にも責任がある
空港ターミナル内で営業している食べ物や飲料、雑貨などの小売店も、プラスチックゴミ問題の当事者だ。セキュリティ検査のチェックポイントで旅行者から回収するごみもある。ミラグロ氏は、こうした様々な問題に、同時並行で取り組み、解決しようとしている。
デザイン会社のゲンスラー(Gensler)によると、旅行者にリサイクルを促すのに効果的なデザインを導入したという意味で最先端を行くのがサンフランシスコ空港だ。「旅客の教育では、特にサンフランシスコ国際空港で、大きな成果が出ている。建築設計やグラフィックデザイン、管理体制の見直しよりも効果が大きい」とジム・スタニスラスキー氏(地域デザイン・レジリエンス担当リーダー)は話す。
サンフランシスコ空港では2016年、新しい「リサイクル用ごみ箱」のテスト運用を行ったところ、廃棄物の平均54%がリサイクルまたはコンポストに分別されるようになった。それ以前のゴミ箱では、同比率はわずか25%だった(ゲンスラー社調べ)。ただしゴミを正確に分別してもらうためには、まだ工夫の余地があるという。
またゲンスラーでは、サンフランシスコ空港内の事業者向け規約作りにも参画し、各社がコンポスト可能な用品を使い、一回しか使わないで廃棄されるプラスチック製品の利用を減らすよう取り組んでいる。「ほとんどの事業者はリサイクル促進に賛成ですが、サンフランシスコ空港ではさらにワンランク上を目指し、これを義務化したのです」(スタニスラスキ氏)。「リサイクル用のごみ箱を空港内に設置するのと、賃貸契約書に要求事項を明記するのでは、大きな違いがあります」。
同様にアトランタ空港でも、空港内の各事業者に、コンポスト可能なものを使用することを義務付け、これをリース契約内容に記載している。ルールに従わない場合はまず警告を出し、次に契約違反の告知、最終的にはリース契約の撤回となる。ミラルゴ氏によると、同空港ではこの他にも、環境にやさしい清掃用品の使用、発泡スチレンや再利用が難しいポリプロピレンの使用を避けること等、サステナビリティに配慮した内容をRFP(提案依頼書)に盛り込んでいる。
アトランタもサンフランシスコも、巨大な国際空港を抱えているので、空港内事業者がプラスチックをどう扱うかが状況を大きく左右する。「航空会社や事業者が空港を選んでいる。逆はあり得ない」とスタニスラスキ氏。大きなマーケットに支えられた空港だからこそ、テナント各社に対し、サステナビリティを促進するルール順守を求めるべきで、その効果も大きいと考えている。
全米各地で飲食の小売店や免税店を展開しているハドソン・グループにとって、最大の拠点はアトランタ空港だ。同社では、空港の規則がある場合は、コンポスト可能な銀ナイフやフォークを使用しているという。ただし詳細についてのコメントは得られなかった。
空港の建物に目を転じると、床材や屋根、断熱材、ケーブル保護材などに使用されているプラスチック製品の利点は、寿命が長いことだ。だがスタニスラスキ氏は「もう少し先のことまで、プラスチック製品を廃棄処分する段階になったときのことまで考えてみてほしい」。プラスチックを燃やすと、有毒化学物質が出る。建築資材に関する情報の透明性をもっと高めるべきだと同氏は指摘する。
最後に、プラスチックごみよりも、さらに急を要する課題もあるとミラグロ氏は指摘している。まだ食べられる廃棄食品を再利用し、地域の人々のために役立てることだ。「プラスチックごみは重要な問題だが、こちらも非常に重要で、人々の暮らしに直接、関わることだ。これを食糧難の問題だと捉えてほしくない。これは物流の問題だ」。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
※オリジナル記事:Atlanta: An Airport Case Study in Trying to Manage Plastic Waste <Travel Beyond Plastics>
著者:サラ・エネロウ・スナイダー(Sarah Enelow-Snyder)氏