北海道で開催される「アドベンチャートラベル」の世界大会、誘致までの道のりと、世界のバイヤー受入れの舞台裏を道庁で聞いてきた

「アドベンチャートラベル・ワールドサミット2023北海道・日本(ATWS 2023)」が2023年9月11日から北海道で開催される。アドベンチャートラベル(AT)とは、自然とのつながり、異文化体験、身体的アクティビティの3つの要素のうち2つ以上を含む旅行形態のこと。これまでのマスツーリズムと比較して、一人当たりの消費額が高く、地域への経済効果も大きいことから、北海道は量から質への観光政策の転換を目指すなかで重要な市場と位置付けている。

ATWS開催中には、将来のAT市場の成長に繋げていくためにも、世界中から集まるバイヤーに北海道らしい体験を提供していく計画だ。北海道にとってのATWSの意義、ホストとしての役割とは?北海道経済部観光局アドベンチャートラベル担当局長の後藤知佳子氏と、北海道観光振興機構AT推進部統括部長の岩田昌之氏に聞いてみた。

知事公約でATへの思いがひとつに

鈴木直道知事は、2019年に知事選に出馬した際、ATWSの誘致を公約に掲げた。後藤氏は「道内には、それまでも『富裕層を誘致するのはIR(統合型リゾート)ではなくAT』という声はあったが、知事の公約によって、地域に点在していた思いがひとつになった」と明かす。ATは、北海道の地域経済にとって重要という共通認識のもと、道、北海道観光振興機構、運輸局、事業者などが「オール北海道」で協力していく機運が高まったという。

2020年には鈴木知事を会長とする「アドベンチャートラベル・ワールドサミット2021北海道実行委員会」が設立された。

しかし、2021年9月に予定されていたATWS北海道は、コロナ禍の影響でバーチャル開催に変更された。それでも、「北海道としては直に北海道を見てもらいたいという思いは強く、主催者のアドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)側もアジアでの初開催に意欲を示していた」(岩田氏)ことから、2022年2月に再度、北海道でのリアル開催が正式に決まった。

紆余曲折あったが、2021年のバーチャル開催が前振りとなり、結果的に準備期間が追加される形となった。ATは従来の数を追うマスツーリズムとは異なるため、最初は手探りで準備を進めたが、岩田氏は「いい意味で、仕込みができる時間ができた」と話す。

北海道でのATの重要性を話す後藤氏(右)と実務的な準備を担当する岩田氏北海道のポテンシャルはATのポンテシャル

北海道には体験コンテンツは豊富にあるが、単発だと必ずしも儲けが大きいわけではない。修学旅行などで提供される体験は無料のものも少なくない。

後藤氏は、「海外の事業者からは、『こんないいものをなぜ無料で提供しているのか』と聞かれることがある。その一つ一つの体験にストーリー性を持たせて繋げることでお金が取れる。それがATなのだろう」と話す。

北海道の自然は雄大だ。しかし、道民にとってそれは当たり前のもの。普通の生活のなかでそれを体験してきた。「つまり、外国人の目線が足りなかったのだろう。外国人旅行者が増えて、彼らから『北海道には本物の体験がいっぱいある』と教えてもらった」と後藤氏。北海道のポテンシャルはATのポンテシャルでもあると見る。

ATは、新たに何かを開発するものではなく、今あるものを活用して、そこに付加価値をつけていくもの。自然を残しつつ、観光で地域の稼ぐ力を高めていく。すべての面でサステナブルな旅行スタイルだ。後藤氏も「北海道の人口減少や地域の経済循環の課題を解決していくうえでATはマッチする旅行形態」と期待は大きい。

そして、今あるものの価値を上げるもの。後藤氏は「それは、ガイドの力」だと強調する。ATはガイドなしには、ATにならないとまで言われている。「全員がATガイドになる必要はないが、ATを成長させていくためには稼げるガイドの育成は重要」との認識だ。そのため、北海道は新しいガイド制度を立ち上げた。ガイドの質の向上と稼げる体制づくりを進めていく方針だ。

後藤氏は「ATは、詰め込み型の旅行ではなく、ガイドとのコミュケーションの時間や、ガイドや参加者と感動を共有する時間が求められると思う。その分、値段が高くても、満足度は高くなるはず」と話し、ATガイドには単なる案内役だけではなく、おもてなしの対応も求められるとの考えも示した。

ATWSでは新しい発見につながる「おもてなし」を

ATWSに向けては、過去のATWSに参加した人たちも含め関係機関でワーキンググループを立ち上げ、ホストとしてのおもてなしを企画している。「参加者は、新しい発見を求めて集まる。会期中の食事でも街歩きでも、滞在期間を通じて意味のある時間を過ごしてもらうおもてなしをしたい」と後藤氏。会場内外で、北海道の新しい発見をきっかけにコミュニケーションが生まれる工夫、つまり「私たちの日常を感じてもらうような機会をつくっていきたい」と続けた。

会期中のイベントも趣向を凝らす計画。9月11日のウェルカムパーティーは「さっぽろテレビ塔」の下で開催。9月8日からは大通り公園で恒例の「さっぽろオータムフェスト」も開催されることから、「秋の札幌を市民と一緒に楽しんでもらいたい」(後藤氏)考えだ。また、9月12日のオープニングイベントは「大倉山ジャンプ競技場」で実施する。

ATWSでは、ホスト国・地域を知ってもらう体験ツアーとして、プレ・サミット・アドベンチャー(PSA)とデイ・オブ・アドベンチャー(DOA)が実施される。催行旅行会社と企画は公募され、最終的にATTAがストーリー性を重視し決定した。

PSAは22コース。北海道では15コース、北海道以外でも東北、長野県、静岡県、四国、九州、沖縄で7コースが設定されている。北海道では、大手旅行会社に加えて、地場の旅行会社が多くのツアーを催行する。岩田氏によると、アイヌ文化関連、利尻・礼文などの離島、野生動物の観察などのツアーが人気で、すぐに定員が埋まったという。

一方、DOAは9月11日実施される日帰りツアー。トレッキング、ハイキング、サイクリング、カヌー、カヤック、ラフティング、釣り、異文化体験、地域交流などATの定義に基づいて全31コースが設定されている。地域も胆振、後志、石狩、空知、上川、十勝に広がる。

いずれも秋の北海道の良さが詰まったコンテンツ。「受け入れる地域側でも、新たな発見につながるのでは」岩田氏。世界からの参加者は、北海道のどこに新しい驚きと感動を見つけるのか。その発見は、北海道だけでなく、日本でのATの発展に向けて貴重なレガシーになるはずだ。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…