日本旅行業協会(JATA)は2024年7月18日、記者懇談会を開催し、会長の髙橋広行氏(JTB会長)が学生など若い世代の海外渡航促進へ、国や地方自治体に要望していく考えを示した。
髙橋氏は、回復が遅れる海外旅行について、「我々の最大の課題」と強調。円安や物価高、仕入環境といった要因に留まらず、今後の懸念材料として、日本人のパスポート保有率が17%と主要先進国の最低水準にまで低下し、海外留学をする学生数も半減していることや、市場環境に合わなくなった公立学校の海外修学旅行費用の上限をあげ、コロナ禍を経て「若い人たちの海外旅行離れが懸念される」と指摘した。
会員各社はそれぞれ、航空座席の買取りによる仕入れやパスポート取得費用の一部支援など、取扱いの拡大や需要獲得に向けた取り組みをしているものの、髙橋氏は「自助努力だけでは解決できない課題もある」と説明。
すでに修学旅行費用の上限に関しては、国を通して地方自治体へ要望を伝えているが、パスポート取得や若者の海外渡航・留学の促進についても「旅行業界のアウトバウンドの回復といった狭義ではなく、若者が海外に出なくなることは国際競争力そのものに関わる問題」との観点で、国をあげたプロモーションなどを求めていく考え。髙橋氏はかねてから意見として「成人などの一定の年齢に達した際に、パスポートを無償提供するような施策の実現」も述べているという。
先ごろ閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)で、持続可能な観光立国の実現としてアウトバウンドを含む国際相互交流の拡大が明記されたことを踏まえ、国と連携した国際交流の拡大に取り組んでいく方針だ。
海外レジャー旅行、空いているエコノミー席をどう売るか
海外旅行を担当するJATA副会長の酒井淳氏(阪急交通社社長)は、旅行会社の海外旅行の取扱額のうち、パッケージツアーなどレジャー旅行の戻りが鈍いことを説明。2024年1~5月までの主要旅行業者の取扱高累計は2019年同期比60.6%で、業務渡航に限ると82.9%まで回復している一方、レジャー旅行は43.9%でコロナ前の半分にも満たない状況だ。これを踏まえ、酒井氏は販売拡大に向けた課題として「航空仕入環境」「旅行代金の割高感」「募集型企画旅行」の3つをあげた。
酒井氏によると、2024年夏スケジュールの日本発着国際線の座席供給量(計画)は2019年比で3%増と増えているが、予約の早いインバウンド需要によって日本発の航空座席仕入れに影響が出ている。また、地方への直行便が戻らず首都圏に偏っていることや、航空座席のキャンセル条件が厳しくなっていることも、ツアー造成に影響しているという。
日本発のレジャー旅行でもビジネスクラスやプレミアムエコノミーが人気だが、これらの座席は混んでおり、予約が取れない。一方、エコノミークラスは空いているが「これをどう売るかが旅行会社の課題。座席の買取やLCCの利用、付加価値のある旅行を載せるなどが考えられるが、結局、現地の物価は上昇しているうえに円安が重なる。航空部分の料金をエコノミーで抑えても、現地の値段とのアンマッチが生じ、割高感を感じることになる」と悩ましい問題があるという。
一方、酒井氏は、海外旅行に対する需要があることも強調。例えばトルコは、2024年1月~5月の日本人の渡航者数が2019年比11.5%増の4万3755人を超え、コロナ前を上回っている。「トルコは観光資源が豊富なうえに、大使館も観光復興に力を入れ、エアラインも日本路線を強化してきた。円安の影響も少ないことが考えられる」(酒井氏)。
また、JATAに寄せられる苦情のなかには、OTAで手配した海外ホテルや航空券の予約トラブルに関する内容が増えているという。酒井氏は「今後の海外旅行の回復率に比例して、我々、リアルエージェントの利用者がどれだけ増えるか。旅行会社の価値を消費者に伝えることも、非常に重要」との考えを示した。
休み方改革は産学官の連携が不可欠
記者懇談会では、旅行業界の現状と課題、今後の発展に向けて必要な事柄などを説明。髙橋氏は今後、旅行業が発展・成長するためのあり方として5つのポイント「海外旅行の拡大」「高付加価値化」「協調と共創」「休み方改革」「人材確保」をあげた。
このうち、「休み方改革」については、平日の休みを促進することで旅行総需要の拡大とともに、「需要の平準化によるオーバーツーリズムの解消にもつながる」(髙橋氏)と考える。全国知事会の「休み方改革プロジェクト」によるラーケーションを取り上げ、「この実現には産学官の連携が不可欠」とし、JATAとして全国の自治体や教育関連組織、経済界と連携して、ラーケーションの普及を含む日本人の休み方改革に、全般的に取り組む考えを示した。